十話 仲間
「大変お見苦しいところをお見せしました・・・・・・・・・」
私は土下座していた。
なにやってたんだろう私・・・・・・・・・。いくら推しにあんなことをされたからといってはしたなすぎる……冷静になって振り返ると、恥ずかしすぎて死にそうだ。
「まぁ、気にするな」
唯一の救いは、アッシュ様がドン引きしていないことだろう。メヌエットが誤魔化してくれたみたいだけど、一体どんな説明をしたんだろう。
私と目を合わせないから、すっごい気になる。
「で、だ。改めてその子達は誰なんだ?」
まぁ、今はそれどころじゃないんだけどね!
「見たところ、人族ではないみたいだけど魔族なの?」
「ふむ、クリスタよ。その可能性は高いが、あのアッシュが魔族を前にしてもいつもどおりじゃないか」
「エリオットの言うとおりだ。んで、アッシュ? そこんところどうなんだ?」
今ここにいるのは、私達だけではない。
屈強な体格と短い髪の男性、ゴットン・ゴーンズ。格闘術を駆使する。通称、拳帝。
女性と見間違えるほどの美貌の青年、エリオット。弓を使って戦う。通称、神弓。
天真爛漫な笑顔が似合う、神官服の女性。クリスタ・モンドダイア。魔法を操る。通称、聖女。
皆アッシュ様のかつての仲間・・・・・・魔王を倒し、魔族と争っていた英雄と呼ばれている人達だ。
うん、まずいよね?
こんな面々を前にして、もしも魔族だってことがばれたら・・・・・・しかも新しい四天王だってことが知られたら・・・・・・・・・ただじゃすまないよね!?
「この子達は、元々動物だったそうだ。んで、俺に昔助けられた恩を返すため、魔法使いに魔法をかけられて人の姿になって、ここに来たんだ」
「へぇ?」
「う~~ん? そんな魔法があるのかい?」
めっちゃ怪しまれてる! そりゃそうだ! アッシュ様は人が良すぎるからすぐに信じてくれたけれど、他の人達は違う! 特に魔法に詳しい聖女がいる! その聖女が「いや、おかしい」っていえばその時点でアウト!
英雄たちの戦いぶりは、聞いたことがあるし! 皆鬼のようだったって話しか聞かないし! このままじゃ殺されて毛皮にされちゃう!
どうしようメヌエット!?
「ってメヌエットいない!」
「ん? ああ。姉なら、お茶を用意しに行ったぞ」
逃げやがった!! くそ! 裏切者!
「そこんところどうなんだ? クリスタ? そんな魔法あるのか?」
ああ、終わった……。私の人生、もとい恩返しがここまでか……。せめてアッシュ様ともう少し一緒にいたかったな。ははは。ぐすん。
「じゅるり……♡」
ん? じゅるり?
「ひぃ!?」
「はぁ、はぁ、ねぇ、あなた・・・・・・? お名前は・・・・・・?」
「り、リルチャンです・・・・・・」
英雄の一人、クリスタがすぐ側にいた。一体いつの間に!? と驚く暇も無い。涎が滝のようにダラダラと垂れ、ガン決まりの目で私を捉えて離さないし、荒い鼻息がほっぺたに当たってしまうほどに近い。
「へぇ・・・・・・り、リルチャンって言うんだぁ・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・な、何歳なの・・・・・・?」
「じゅ、十五歳です・・・・・・」
なんで? なんでクリスタはこんな風に? まるで興奮しているようにしか見えない・・・・・・! しかもなんでちょっとずつにじり寄ってくるの? こわいよ・・・・・・・!
まるで変態じゃないか・・・・・・!
「ふふふ・・・・・・・解剖したい♡」
「ぴぃ!?」
「そこまでだ」
「ふぎゃ!?」
ガツン! とエリオットの弓で後頭部に直撃した。
それによって隙ができて、距離をとることができた。
あ~、こわかった・・・・・・。心臓がまだバクバクしてる・・・・・・!
「まったく……相変わらず魔法のことになると我を失ってしまうね君は」
「うう、痛いよ~~」
「痛くしたんだ。そうでなければ、アッシュの自宅を凄惨な現場にするだろう?」
「あ、あの?」
「悪くおもわないでくれ。クリスタは魔法の研究や実験が好きすぎるところがあってな。普段は良い奴なんだが」
「は、はぁ・・・・・・そ、そうなんですか・・・・・・」
それって、魔法が関わると悪い奴ってことですよね? 聖女、こわっ!
「はっはっは! まぁ、アッシュが信じてるってことは、魔族じゃねぇんだろう。よろしくな、リルチャンとやら!」
「は、はいっ。よろしくお願いいたします!」
呆然としている私に、ゴッツが豪快に笑う。気を呑まれてしまうけど、どうやら怪しまれてはいないようだ。
ホッ。よかった。
「はぁ・・・・・・・ゴッツ・・・・・・。君とて人のことを偉そうに言えないだろう? なにかよからぬことを企んでいるんじゃないかい?」
「ああ? よからぬこと? なんだよエリオット」
「噂は僕の耳にも入ってきているんだよ」
「・・・・・・どんな噂なんだ? エリオット」
「アッシュ、君にも想像できるだろう?」
「・・・・・・・・・あ~~~」
? どうしたんだろう。エリオットの話を聞いた途端、アッシュ様は顔を顰めてしまった。
ゴッツもなんだかワタワタと慌てだしている。
「いやいや! 別によからぬことなんてなにも! 別に動物にも穴はあるっておもってただけだぜ!?」
貞操の危機!?
「お前なぁ・・・・・・!? この子を見ろ! 怯えてるじゃねぇか!」
「涙目でブルブル震えてしまって・・・・・・・・・おお、よしよし。大丈夫だ安心おし?」
「なんだよ! 男が女を抱きたいっておもうのは本能だろうが!」
ガンッッ!!
「うぎ!?」
「まったく・・・・・・少しは成長したまえよ。本当に変わらないな君達は」
「ふふふ・・・・・・・・・一番自分がまともみたいに振舞ってるけど、エリオットだって」
「そ、そうだそうだ・・・・・・! ここに来る途中、また財布落としたくせに」
「・・・・・・・・・うっかりは誰にだってあるだろう?」
「その後、財布を探している途中迷子になってはぐれて底なし沼にハマったのがうっかりで済むのか?」
「・・・・・・・・・偶然が重なっただけさ」
「抜け出した後に蛇に噛まれた驚きで転んで弓に額打って昏睡したのも、偶然なのかな?」
「・・・・・・」
「あの、アッシュ・・・・・・様?」
「エリオットは・・・・・・・・・少しドジでな」
「少し・・・・・・・・・ですか・・・・・・」
なんだか想像してたのとは、違う人達だな。おそろしくはないけど、意外というか。英雄と持て囃されているイメージとはだいぶかけ離れている。
魔王を討ち滅ぼした。四天王と戦い、魔王軍撃退の功労者。アッシュ様と同じように素敵な人達か、おそろしい人達。そんな印象とは真逆だ。
まぁ、私とメヌエットの正体についての心配はなさそうだからいいんだけど。
「実はもう一人いるんだが、とりあえず、こいつらが俺の仲間達だ。変人だけどな」
「ちょっとアッシュ! ひどくない!?」
「そうだそうだ! せっかく様子を見に来てやったってのに、なんて言い草だ!」
ぶうぶう不満が挙がるけど、どうやら皆アッシュ様に会いに来たようだ。戦いが終わって引退しているというのに、訪ねてくるなんて。アッシュ様は仲間に慕われているんだなぁ。流石はアッシュ様だ。
「アッシュ。君、きちんとご飯は三食食べているのかい」
「冒険してたときは、そこらへん無頓着だったしな・・・・・・・・・栄養偏ってるんじゃねぇか?」
「これ、お土産だけど風呂は毎日入ってる? きちんと服着替えてる? 歯磨きは?」
いや、違う! 心配されてるんだこれ!
「失礼な奴だなお前ら。俺をいくつだとおもってるんだよ」
「十九歳だろ。いくつになっても変わらねぇよ。引退だって突然だったんだからな」
「リルチャンだったかな。そこらへんはどうなのかな? なにか問題はないかい?」
「えっと、私も今日来たばかりなんですけど・・・・・・問題はないかとおもうんですが」
「そっか・・・・・・でもアッシュは昔があれだったしなぁ」
「ねー」
「あれだったしねー」
……あれってなに? どんなだったの? めっちゃ気になる!
「好き放題言いやがって・・・・・・・・・。お前らこそ腕鈍ってるんじゃないか? 特に人を見る目が節穴になってるとおもうぞ」
「ほぉ~~? 生意気言ってくれるじゃねぇの。なんなら、試してみるか?」
「あ、あのお二人とも?」
アッシュ様とゴッツは、暫く見つめ合っていた。睨みあっていると例えるのがふさわしいほどの毛ワイ差で。そして、バッと視線が弾かれたような勢いで立ち上がると外へ行こうとする。
物騒な雰囲気を纏い、聖剣を携えてだ。
こ、これ危なくない?