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世界は無常に満ちている  作者: 花井
第一章
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04 魂の温もり[後]

≪こんな事で嘘を言って、何になる≫




 信じたくなくて心中でボソリと呟いた言葉に、ふんぞり返りながら目の前の 世界 と名乗った男は言う。

 心中が筒抜けと言うことはこういう時いただけない。


「で、その世界サマが私に何の用?」


 色々と諦めた心中で、そうつっけんどんに言葉を紡げば、目の前の彼は眉間に皺を寄せて不満を表す。

 この場の空気がピリリと張るのが解った、なまじ美形なだけに結構怖い。


≪ただ、其方に逢いたかった それだけだ≫


 それだけだが、何か文句あるかと続けて視線で言われた様な気がした。


 ………………………………………………………… 一瞬、思考停止したじゃないか


 目の前のこの御仁、行き成り何を言い出すんだ。

 まるで、好きな相手に言うような口ぶりでそんなコトを言うものだから完全に呆気にとられてしまった。そんな私を置いて目の前の彼は言う。


≪我に属しながら、我を見る事が出来るのは……触れられるのは ニュスだけだ≫


 死神どもや神とは話す事が出来るが、お互いの姿を見る事はないからな……そう、彼はボソリと続けて呟き、そのまま言葉を再度紡ぐ。


≪そして、其方の魂自体は別の世界に属すモノ 通常のニュスと異なりこの我と言う世界の中で 唯一、我と対等であり 影響を与うることが出来る存在≫


 淡々と語る彼の瞳に浮かぶのは、世界で在り続ける強き意志、そして……孤独と寂しさ。


≪その存在を嬉しく思う事はいけないことか?≫


 いい男に子犬の様な瞳で見られればどうしようも出来ない。

 特に私はこういうモノに弱い、興味を持てる持てない以前に、基本的にはこういうタイプを放っては置けないのだ。


 あぁ、なんてヘタレ


 目の前の相手は見た目はいい大人だが、対人では子供と言っていいだろう。


 まぁ……その、にゅす?しか相手が居なかったのだからしょうがないか


「別にいけないとは言ってないわよ」

≪……だが、ニュスは我の事を あまり好きではないのだろう≫

「逢って、すぐさま好き嫌い判別出来る程、私はできちゃーいないの」


 すかさずそう言い、続けて「だからって、嫌ってるワケじゃないわよ」そう言葉を紡ぐ。

 其の言葉に相手が、ほんのりはにかんだ笑顔を浮かべる。

 ………何故か、今耳と尻尾が見えた気がしたが、その思考は置いておいて先程から気になっていたことを聞く。


「ところで、その「にゅす」って何? っていうかこの世界に来た時も誰かが そう、私を定めたと言ってたけど」


 そう問いかければ、彼はニュスについて静かに語り始めた。


≪ニュスとは…… 正式にはバシレース・ニュス 【安息の王】を意味するモノだ この世界に其方が来た時……ソレは我だ 我が其方の魂に見合うモノを定めた≫

「……やっぱり、あの時に聞いた声はあんたのだったのね」


 やはり先程聞き覚えが在ると思ったのは間違いではなかったのか、と思いながらそんな事を言えば。


≪…………我はアンタではない≫


 声音からむすくれた雰囲気が伝わってくる、どうやらご機嫌を損ねたらしい。


「じゃあ、何て呼べばいいのよ」

≪今までのニュスは「ファルディカーレ」と呼んでいた≫

「長い……勝手に略すよ?…………ファル」


 音的に読みやすいように短くしてそう呼べば、彼は何度かその音を口で呟いた後、満足気に頷いた。


 どうやら、ご機嫌は治ったらしい…やれやれ手の掛かる子だこと

≪我は子どもではないぞ、ニュス≫

 ヤッベ、まる聞こえだったか……


「てか、私の名前もニュスじゃないわよ 亨子よ、りょ・う・こ」


 意趣返しか仕返しか、そんな風に名前を名乗れば目の前の彼、ファルは数度瞬きをして頷く。

 そして、何度か私の名を呼んだ。

 ソレがちょっぴり嬉しかったのは伝わったであろうが、声に出しては言ってやらない。


「それにしても、逢いたかったからって行き成り、魂引きずり出すことはないんじゃなかろか」

≪逢いたかった、のもある だが……其方が泣いていたから心配になった≫


 ……それは、泣いているのを思いっきり見られてたと思っていいのだろうか


≪我は世界 世界は我、……この世界に居る限り、何時でも何処でも我は居るぞ?≫


 コレは世界だからと納得しておいた方がよさそうだ。

 きっと、考え始めるとドツボに嵌って抜け出せなくなる気がする。


「何ていうか、色々凄いよね ソレって」

≪そうか?≫

「まぁ、世界だからあたり前なんだろうけど …………心配してくれてありがとね」


 逢ったばかりの、しかも世界サマに心配される程どえらいことも無いだろうに、誰かが心を自分に傾けていてくれることを知って嬉しく思う、自分の現金さに苦笑が零れた。


≪我が勝手に心配しただけだがな≫


 そう言ってファルは私の両の瞼を手で覆う、身長差や体格差を鑑みるにデカイと思っていた手のひらはやはり片手で両の目を隠せるぐらいにはデカクて、温かかった。


 魂なのに温かいのか


 そんなコトを感慨深く思いながら特に抵抗することなく、そのままでいればその温かな手は直ぐに離れていった。


「何?」

≪腫れを治めただけだ≫

「……魂だけなのに出来るんだ?」

≪ニュス…リョーコとエルピスの身体は我が与えたモノ、其々の魂に影響されるからな≫

「思い込めば出来ないことも出来る……とか」

≪そういう事も含むな≫


 案外性能のいい身体を与えられているようだ、じゃあ……ああいうこともあんなことも出来るんだろうか。


 ちょっと、試してみたいかもしれない


≪そろそろ、戻さねば……な≫

「そう言えば、私は魂の状態だったか」

≪向こうではそれ程時間は経っては居らぬがな≫

「へー……、魂だけってのは結構便利?」

≪そうとも、限らん 影響できる範囲が限られているからな≫

「なるほど」

≪では、戻すぞ≫

「ウィッス」


 了承の意を紡げば視界は暗闇から一転、真っ白になる。

 白の向こうで彼が≪また、な≫と呟いたので「また、ね」と呟いた。

 ソレが、彼に届いたかどうかは解らないが。


 目を射るような白が引けば、私は鏡から半歩身体を引いた状態で其処にいた。鏡で確認すれば、瞼からは見事に腫れが引いている。


 ……ファルサマ様である


 そして、再度首の後ろにチリチリとした感覚が走り始める。


 ……あー……、こういうのの対処の仕方とか聞き損ねたっ


 そんなことを思うが彼と交わした約束に上機嫌で備え付けられたベッドにダイブする。

 彼女以外とそんな約束を此方で出来るとは思っていなかったから、余計に嬉しい。


 誰かと「今度」の約束をするのが、これほどに嬉しいって初めて思ったかも


 ファルとのやり取りを反芻しながら私は眠りの淵へと落ちていった。

世界サマと接触、ファルさんは寂しん坊デス。

長文の為分割しました。


*****

修正履歴

H22.8.23. 感情部読点削除、改行追加+文頭空白追加

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