04 魂の温もり[前]
体内の水分を出し切る勢いで、泣くだけ泣いてすっきりした。
ついでに、頭もすっきりしゃっきりした。
パシンッと小気味いい音をさせて両頬を自分の手で叩く。
結構、痛い
「……さて、いっちょ頑張りますか」
自分にしては珍しく頑張る踏ん切りがついたので声に出してみる。
私、こんなキャラじゃなかったんだがな
何分、頑張るという才能が欠如しているのだ私は……この気力も何時まで続くものか
「まぁ、いいか」
それにしても、さっきから首の裏がチリチリする。人がいないのに誰かに見られている様なそんな感覚。
…………監視か何か、かな?
まぁ、見られて困るような事は……してるけど、まぁ一般人がコッチに来ちゃって混乱して泣くことはきっとありえるよ 多分
百合さんは……泣くより先にぶっ倒れて寝てそうだな
この感覚、円陣出てからずっと続いてるんだよねぇ……始終、コレだとやっとこさ浮上した気持ちも沈むんだけど、どうしたものか
「そう言えば、この部屋って鏡あるんだろか」
そう言いながら改めて、冷静になって部屋を見回す。
因みに部屋を一言で言い表すなら≪豪華絢爛≫…………目がチカチカして痛いっす。しかもあの広間よりは狭いが広い、無駄に 広い。はい、大事なことなので二度言いました。
一応部屋を探索しつつ、どうにか鏡を発見……一応この部屋の中に水場がついてた。
この部屋だけでも生活できるんじゃなかろか
「あーあー、目ぇ真っ赤」
鏡に映った自分の顔は泣きすぎた所為で酷い惨状である。
うー……む、鼻がずる剥けなのは痛い
ちょいちょいと鼻先を指でつつけばヒリヒリとする。瞼はボンボンに腫れ、見るに耐えない。
あー…… 明日までに治まるかねぇ
そんなコトを思い、軽く溜息を吐いた。
手身近にある布を水で濡らして冷やすか…………って、水はドコ?
一応、水場っぽいのだけども水は存在せずに、見た目だけで判断すると多分だがトイレと風呂がある。蛇口とかそんなものは付いていない。
此れはどうやって使えと?
いや、まぁ召喚なぞというものがあるのだから、魔法も魔術もあるだろうが
…………使った事の無い人間には、不親切仕様の何者でもないよな、コレ
「はぁ、使い方を聞く為だけに王子様呼び出すわけにもいかないしなぁ つか、百合さん以外が呼び出したら後でどうなるかわかんないよね、あの人」
「どうすっかな」などとブツブツと言っていると、急に目の前の鏡が水面みたいに揺らいだ。
「っ!?」
ついで、私は息を詰める。音も無く、目の前の鏡から腕が出てきたからだ。しかも、その腕は私に向かって伸ばされている。
どんなホラーっ!?
うえぇぇええっ、ホラーとか大好きだけど、自分の身に起こるのはイヤだあぁ
いかも、怖い通り越してグロイというか、違和感ありすぎて何かイヤだっ
そんな心中を抱きながら、いきなりのホラー展開にビビリその場から飛び退こうとした。が、足はピクリとも動かない 否、身体自体ドコも動かせないのだ。
…………う、動けない 嘘だろぉぉおっ
心の中で絶叫すると同時に、その腕に触れられる。
ヒヤリと微かな冷たさを伴った腕は、私を掴んだ瞬間ずるりと≪何か≫を引きずり出した。
そして、視界は暗転する。
テレビのチャンネルを切り替えるように、目の前が真っ暗に切り替わった。
暗闇の中に唯一人、ポツリと立っている己。こんな状況に既視感を覚える。
確か、死んだ時もこんな感じだったねぇ
……突然、幽霊に襲われて死亡とかだったら、ミュケーさんに文句言ってやる
つか、仮初めの身体でも死ぬのか?
そんな疑問を思えば、それに答える声があった。
≪我が与えた身体だ、そうそう壊れる事は無い≫
漆黒の闇に響く、威圧感のある深いテノールの声音。その声音は何故か聞き覚えがあった。
聞き覚えがある?
次いではたと現状に気付く、私は声には一言もしていないということに。
………………また、思考読まれた気がするんですが
≪其方が魂だけだからだろう≫
「ソレは解る……が、何で私が また 魂だけになってるんですか、ね!」
思考を読まれて話されるのも癪なので、暗闇からの声に言葉を紡ぐ。
その様子が面白かったのかなんなのか声の主が闇から姿を見せた。
≪この度のニュスはいきがいいな≫
「人を魚みたいに言わんで下さい、ってか にゅす ってナンヤネ…ン」
姿を見せた声の主にすかさず突っ込むが、その後に言葉が続かなかった。
何故ならば現れた声の主は、ド派手だったからだ。
一言でいうなれば ≪ 極 彩 色 ≫
まぶしっ
この暗闇にどうやって、このド派手な色を隠してたんだこのヒト
この色、既に公害だと思うよ、泣き腫らした目にはとてつもなく毒なんですけど
≪我を毒と言い切る者が居たとは≫
呆れたような声音で、そんなコトを言われる。
私は思っただけだ、思うのは自由だっ
≪まぁ、それも面白くて良い≫
「良いんだっ!?」
≪我は退屈していたからな≫
「ソッスカ」
私の言い返しに、極彩色のヒトは至極楽しげに喉を鳴らした。
しかし、よくよく見れば極彩色のヒトは一般人なら息を呑むような美形だ。翡翠の様な柔らかなエメラルドグリーンの髪に、薔薇色の瞳……そして、褐色の肌。
ド派手にしか思えない色彩もあつらえた様にしっくりと馴染み、彼を引き立てる要素になっている。
私はその域の人間(百合さん)を間近で見てる為、其処まで感慨深くは無いが。
≪驚かないのか……≫
「何故に?」
何を驚く必要があると言うのだろうか、今日で既に色んな驚きは出尽くしたと思う。
目の前にド派手な美形が出てきたとしても、あっそうで終わるような体験をしてきたのだ。
そんな事を思いながら、首を傾げれば目の前の彼は声を上げて笑い出した。
何故にそこまで大笑いする必要性があるのか……ムッとしながら目の前の相手をねめつければ、彼は愉しげな表情のまま言う。
≪そう不貞腐れるな≫
「言動を見て大笑いされれば、誰しも不快になると思いマスガ」
≪ふむ、ヒトとはそういうモノのようだな≫
「まるで、ヒトじゃない物言いね」
≪ヒトでは無いからな……先程言っただろう?「我が与えた身体」だと、ヒトが産む以外に他者に身体を与えられるか?≫
「無理だね……じゃぁ、アンタは 何 」
目の前にヒトとして其処に在るのに、何をいうのかとそう言ってみた が、はたと気付く。
………………そういや、私は此処に魂だけでイルンデシタッケ
ミュケーさんに出会った時と同じような状態だと言うことに改めて気付く。
まてまてまてまてっ 何か聞いたら何か解らんが戻れん気がするからやめいっ
そう、気付きたくなかった事実に気付き心中で絶叫すると同時に、目の前の相手はニンマリと笑みを浮かべ程良く低く聞き心地の良い声で真実を紡いだ。
その笑みは言外に「知れば共犯だ」と言っている気がしたのは、きっと間違っていない。
≪我は 世界 だ≫
……うそん
微妙にホラーちっく。
そして、調節の為分割しました。
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修正履歴
H22.8.23. 感情部読点削除、改行追加+文頭空白追加