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世界は無常に満ちている  作者: 花井
第二章
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27 興すモノ

 目の前にある状況をただ、静かに見据えて《雇い主》の言葉を待つ。




 深い森に等しい色の瞳を細めて、燃え盛る炎の様な髪を美しく結い上げた目の前の女性は一等高級であろう白磁のカップを口元へと運ぶ。当たり前のごとく、カップの中身も最高級の素材を使った飲み物である。


 さて、ここでクエスチョンです 今、私は何処にいるでしょう?


 白磁同士がぶつかり、微かに音を立てるのを聞きながら私は自問自答をする。その間にも、女性が置いた空のカップにお茶を注ぐ。


 あんさー!

 アシャステーア連邦共和国の首都リウデアにあるどこぞのお偉いさんの邸宅です

 顔形も髪と目の色も変えて、メイド服着込んでとある方の護衛してますが なにか?


 現状確認の前に、あの拾いモノの後どうなったのか、ざっくりまとめたいと思います


 えーと、先ずはですね 拾った彼は名をクレイル君というそうで、実は実年齢21歳

 とかいう合法ショタでした・・・わーぉ


 外見は私のイメージする、褐色肌に横に長い耳のダークエルフそのままだったのだけれど、どうも話を聞くにご両親は人間だったようで12歳までは彼も普通の人間の容姿だったようである

 12歳の時に、瀕死の大怪我を負ったが、奇跡的に生還したそうで、その際に外見が今の様に変化してしまったらしい


 多分、瀕死になった事で後天的に先祖返りしてしまったんじゃないだろうかってのが、ファルの見解


 ただ、助かったのはよかった・・・よかったのかなぁ?、よかったとしても外見が変わってしまったことによって今までの様には生活できなかったようだし・・・一概には言えない気がする

 この世界の中でダークエルフは珍しいらしく 大昔は、結構な人数いたみたいなんだけど今やその数も減り、希少動物扱い・・・もとい、絶滅危惧種扱い?

 そんなワケで、クレイル君は自分を捕まえようとするヒトから逃げたり、奴隷にされかかって逃走したりととてもハードな生活をここ何年も送っていたそうな・・・お疲れ様です

 ダークエルフになったが為に、成長がゆっくりになって21歳の現在、今だ子供の外見で生活してきた模様です


 まぁ、そんな彼はファルの伝手で神の一柱に保護して貰う事と相成りました

 ダークエルフに縁(ゆかり)の深い神様に頼んだとファルが言ってたし、安心してお頼み申し上げましたよ

 流石、世界・・・顔が広いヨネ


 ちなみにこの場合の神は、この世界に住む生き物が尊び崇め、畏怖した祈りが昇華して成った存在の事を指すそうです

 ベースになる考え方的には、日本やギリシャとかと似てるんじゃないかな?と思うワケでして、八百万(やおよろず)や火なら火の神、大地なら大地の神というように其々に神様がいらっしゃるっていうスタンスらしい ・・・実は、掃除の神様もいらっしゃるらしいヨ

 都や大きな街だと複数の神殿が建っているのが普通なんですと・・・まぁ、日本だと市内や町内に複数の神社とかあるもんねぇ

 異なるトコとしては、コッチが《世界(ファル)》ありき、、ムコウは神様ありきってトコかな


 この世界内での神霊的(・・・なのかどうかは、さておき)ヒエラルキーをざっくり表すと、頂点をファルその下に神々、その下に精霊種、以下有象無象となる

 ファル以外の段階内でもまた階級系が存在し、神々から精霊種の間は色々と個人で変わってくるらしいが、基本的にはこんな感じとのこと

 本来のバシレースの階級は神々と同等、しかし私の様に異界からの魂の場合、別枠扱いなんだそうです


 ・・・極論的に言えば、異物なので同じ器の中には入れられませんってヤツです

 酷い扱いである


 閑話休題


 ざっくりがざっくりではなくなり、脱線に脱線を重ねてしまったが彼に関する話はココまで

 その後、リウデアに至るまでの経緯は手に入れた根っこが関係している

 バシレースとしての立場を使って、裏の裏っ側にある伝手で《仕事》として、 感情も表情も出さずに傍に控え《雇い主》の身を護る そういう契約をし、現在の状況が存在する

 ちなみに契約は書面契約です、まぁその際に《雇い主》の手配した術師に何かかけられた気もしなくはないですけど


 などと、一ヶ月前に起こった事から現在に至るまでを思い返しながら、勤めて無表情を貼り付け、優雅にお茶をしている《雇い主》の傍に控えている。

 《雇い主》は名を ジャレネイア・ベイグ・ドリアールフ 先代連邦共和国王の側室だった女性である。

 鮮やかかな髪に劣らぬ、赤い紅が印象的な美しい女性であり、その彼女を引き立たせるように胸元を飾るのは巨大な虹色の宝石。


 言わずもがな・・・忌石である


 彼女・・・ジェレネイアは、満足気でありそして、残忍さの滲んだ笑みを浮かべティーセットの置かれたテーブルのむこうを見る。

 本来ならばテーブルのむこう側には、高級という事が一目で理解できる上質な絨毯と部屋に見合うように配置された洗練された家具類がある。だが、今はジェレネイアとテーブルを挟んで対面する位置の絨毯上に人が拘束されて転がされていた。


「久しいのぅ・・・巫女姫殿?」


 手足は荒縄で拘束されており、目元には目隠し口には猿轡をかまされており、顔は伺えないが深い緑の絨毯に散るのは陽だまりの様な金糸の髪には見覚えがあった。目隠しに隠されたその瞳は(あけ)色をしていることも理解した。

 術により五感を奪っているワケでもないので、床に転がされた巫女姫・・・皇女ナフィティーヴはジャレネイアの声に反応して肩を震わせる。

 悲嘆にくれる気配も怯える気配もない皇女に感心しながら、私はジャレネイアの傍に控える。

 反応を返さない皇女に興ざめしたのか、ジャレネイアは鼻でせせら笑い別室へと連れて行くように扉脇に立つ執事に告げる。


「ふふ・・・ふふふ もうすぐ、もうすぐに 全てを奪いつくしてやろうぞ」


 狂気を孕んだ言葉を溢しながら、ジャレネイアは満足気な笑みを浮かべる。彼女の感情に呼応するように、胸元の忌石は光もないのに煌く。


「アルレイシア・・・そなたには、明日も存分に働いてもらう 報酬を楽しみせよ」


 その麗しい顔に毒々しいまでの笑顔をのせ、彼女はそう言い。私はそれに答えるようにして表情を動かす事無く、粛々と頭を垂れる。

 そして、この場から下がるよう指示がなされ、私はそのままその場を後にしたのだった。






 カチャリと扉の金具が噛み合う音が聞こえ、亨子もとい今はアルレイシアがこの場を離れたことでいつの間にやら部屋に戻っていた執事が口を開く。


「ジャレネイア様・・・差し出がましい様ですが、アルレイシアを信用しすぎるのは些か危険かと存じます」

「ふふ・・・あの()は、妾から放れられぬよ 既に、サトゥやエナン、ドゥアンの元首に軍部の補佐官数名、高位神官と警護神官兵を手にかけているのだからのぅ」


 そんな者が他に行く場所などあるものか、ジャレネイアはそう言って深く腰掛けていた椅子から背を浮かす。執事は、言葉を続ける事無く彼女の椅子を引く。


「・・・妾は奥庭へゆく」

「畏まりました」


 ジャレネイアは執事を伴い、その部屋を後にした。 ガチャリと微かに金具の噛み合う音とともに静けさは訪れた。

H24.03.06 一部改行、字修正

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