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世界は無常に満ちている  作者: 花井
第二章
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26 退治/対峙するモノ

 先触れは、かすかな振動。それは、直ぐに足元を揺るがすモノとなる。




 地面を突き上げてその姿を現したのは、強大な根。何度見たとしても、その造形に慣れる事は出来なさそうだなぁ等と思いながら、後続であろう地中から突き上げてくる他の根を避ける。


 気配が分かるって便利デスネ


 なんて、自身の補正に感謝|(?)しながら鋭い突きを放ってくる根っこを()けたり、()けたり、偶にダガーで分断したりしつつ、司令塔だろう巨大な根の傍へと近づく。

 別に採取するなら分断した先っちょだったり、ダガーに付着した粘液でもいいのだけれども。さすがに、採取だけして後は放置なんていう心算はないので、一応。


 あのでっかい根っこはさくっと、土に還っていただきたいと思います

 その後は、穴だらけの地面をならすんですね、わかります

 ・・・めんど(げふん


 そんな思考をしながら、ステップを踏むかの様に根っこの攻撃を掻い潜る。後方では黒玲が援護射撃で細い根っこ(雑魚)を大地や木々に縫いとめ、私が動きやすいようにしてくれている。

 黒玲を狙う根は、私の張った火属性結界に焼かれて炭と化していく。一応、地盤強化的な術も同時にかけているので二人の足元は鉄板10m並みの強度である。


 それを根が突き破れたら、私は拍手したいと思う うん、マジで


 まぁ、破れたとしても 実体ではない彼ら二人・・・世界と気性にはかすり傷負わせられはしないのだろうけど、と続けて思考しながら連撃を繰り出す。

 飛び散る飛沫と何ともいえない臭いに、そしてドロリと手を伝うソレに眉間にしっかりと皺が刻まれるのがわかる。そして、ダガーの切れ味も格段に落ちる。


「くっさっ、最悪」


 それだけを呟き、力付くで根の先端部サイドに刃を突き立て、思い切り横へ滑らせる。途中で、咆哮を上げる様に根がのた打ち回るが、そんなもの知った事か とより力を込めて刃を進め切る。

 それと同時に、思い切り根を蹴り、即座に距離をとるそんな私の手には、まだびちびちと蠢いている根っこの先端部。ポイ捨てのようにファル達の方へと投げて、ついでにダガーも丁寧に彼に投げ両手を空ける。


「極力、術は使いたくなかったんだけど、なっと (ズーガ)


 使用したのは、束縛の術。不可視の鎖が対象の身体を絡め取り、動きを留める為のモノ。故に、根はその鎖から逃れようとその身を蠢かせているが、僅かにその身を身じろがせている様にしか見えない。

 周囲の細い根達も同じく、術に縛られている為大きく動けない事を確認し、身体を対象へと向ける。静かに、口から空気を吸い込み集中する。思い切り異臭を吸い込んでしまい、噎せかけるが気力で嚥下する。


 喚ぶは、浄化の(いかづち)そして、還すは大地 ()るは、純然たる力


 そう心中で精神統一の様に繰り返し思い描く。そして、そのイメージに呼応するように空気が動き始める。風は雲を呼び、雷雲と為る。雷雲は、激しい雷を生み出し頭上を明るく照らす。

 そして、それは一言で終わる事となった。


「クらえ」


 激しい雷鳴と同時に、空気を震わせた呟きは対象を貫く雷に付与され瘴気を喰らい尽くす。雷は、この場に在る根を一つ残らず貫き炭化させた。


 頭上の雷雲が生み出した、多量の雨が大地を叩き黒く炭と化した根を其々の穴へと押し流す。瘴気を纏う事のない炭は、やがて穴の中で大地へと還るだろう。

 身体に付着した粘液も、モノを焼く臭いも、激しく降り注ぐ雨と共に流されていく。


「・・・一応、本日の目的は達成 かな?」


 マントや衣服が雨を含んで重くなるのも気にせずに、そうほっと息を吐き出すと共に呟く。

 地精霊(リィーデ)に呼びかけ、地中に開いたであろう穴を出来る所まで塞ぐように指示を出す。

 先の喚びかけに応えてくれた雷精霊(デーア)水精霊(ウィーフ)には、「ありがとう」と礼を述べる。

 濡れた衣服の感触に、乾かさないとなとだけ思考を巡らせ雨を避けようと一歩踏み出す。その瞬間に感じた気配に、背を向けていた方向を振り返った。


 しっかりと交わったソレは、海の碧でありこちらの月の一つに良く似た色。雨の中でも分かる、褐色の滑らかな肌とヒトのものよりは長く尖った耳に白い髪。

 だが、それ以前にこの場に生物が・・・それも小学生中学年程の子がいることにとても驚いていた。

 視線を交わす相手も、微動だにしない。この場にヒトがいる事を驚いているのか、それとも息を殺して私をやりすごすつもりだったが振り返るとは思わなかったのかは知らない。

 やっとのことで、紡いだ言葉はブツ切れでとても不恰好な音だった。


「こ、ども?」


 降りしきる雨の中、不思議なほどにその言葉は通った。


 通ったという事は、相手にも聞こえた可能性があるという事である。が、それを考えに上らせるだけの思考能力は無かった。


 まぁ、上らせてどうにか出来たかはわからないけれども

 そこは個人の手腕であり、技量であるワケですね! わかります!


 後にそう思った事を、追記しておく。





 そして、数刻後。

 一番近くの町の宿屋にて、ベットに身体を横たえる目の前の人物と椅子に座って対峙していた。

 睨み付けられるが合う視線に心中で斜め上に視線を向けながら、どうしたものかとフードの上から頭を掻く。

 嫌がるのを無理やり連れた来たワケでは無いものの、ソレに近しい状態で此処に連れて来てしまっている為に下手な内容は喋れない。


「えぇと、身体に痛みなどはない デスカ?」


 だがしかし、喋らねばこの空気は払拭されない。ので、一応頑張ってみるが 目の前の人物から誘拐犯とか言われてしまえばもう苦笑いするしかないなぁ等と思う。

 それでも、あの雨の中、気絶した目の前の人物をそのまま放置して姿を消す事は自分には出来なかった。


 出来る訳がないのだ 私を育てた倫理が道徳が逃してはくれない


 そんな事を思いながら、ベッドの上からこちらを見る人物を伺う。


「・・・あぁ」


 出来るだけ、刺激しないよう問いかけた言葉に暫しの沈黙の後、落ち着いた声音で肯定を返される。そして、また暫しの沈黙。

 沈黙が居た堪れず、お茶でも淹れてこようかと椅子から腰を上げる動作に移行しようとする。

 その時、声はかかった。


「腹のは、アンタが治してくれたのか?」


 どうやら、その沈黙は問い掛けを言葉にする為の余白だったようである。

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