25 検索するモノ
「さて、陽も落ち始めたし 場所もオッケーっと も、ちょっとしたら始めますか」
ライールから確実10キロは離れているであろう密林の奥地にある、ある程度開けた場所にて空が小金から茜色に移り変わるのを見上げながら呟く。
町を出たのは、どうにかドライフルーツもファルと黒玲の手助けを借りて消化しきったおやつ時。そして、今の時刻は夕刻にかかるぐらい、おおよそ町を出た時間から2時間弱経過したぐらいという所である。
明からに10キロ地点にいるにはおかしい時間換算であるのが、ご理解頂けると思う。
種明かしとしては、少し考え方を見直してみただけの話なのだが、
自分の中で整理するのに少しお付き合い頂けると嬉しい
「トール、誰にむけて話している?」
「あー・・・気にしないでくれると嬉しい、よ?」
不意に向けられたファルからの問い掛けに、てへっと可愛く小首を傾げながら誤魔化す。ファルと同じように、クエスチョンマークを頭上に浮かべている黒玲にも「気にしないでー」とだけ、声をかける。
納得したわけでもなさそうだが、そこまで追及する気もないのか二人は再びのんびりとお茶に口をつけている。
ふいー・・・一人芝居を心中でしてみた、なんて誰が素面で言えようかっ
心中で遠い目をしながら、そんな事を思いつつ思考を先ほどのネタへと戻す。
考え方を見直す切欠となったのは、午前中に行使した創造という作業。無から有を作り出す、ならばこの世界の法則に法らない術も使える筈、とそんな風に考えたわけである。
複製は、もともとある手順を私的不要部分を省き作り変えた言わば「二次創作」だが、今度は術自体を一次創作してしまえばいい、と。
そもそも、ファルから享受された魔術は一代目バシレースの方が使用していた術である。その頃から既に誰かが体系化していなければ、術は存在していない筈と捉える。一代目が「魔術」を作ったというなれば、講義中にファルが小ネタにでも出すだろうが、それもなかった。
総合するに、「バシレース」ではない誰かが魔術を作ったと言う事に気付いたワケである。
無いなら、作ればいいじゃなぁい
どこかの黒いお狐様の宿の女将さんが飛び出た気もしたが、そして作るモノも明らかに違うのだが其処は置いておくとして、とその時は思考したのである。
行った事の無い土地に行くその前提があるから今までの術は成り立たなかった、ならば行きたい土地に行く為の条件をつければいい。
簡単に言えば、本とネットの違いだろうか。
とある冊子に載っている有名な格言があるとしよう、読んだ事のある人はその格言がどのようなものかは理解できるだろう。この行為が、今この世界で体系化されている術に相当する。
では、読んだ事がない人がその格言がどのようなものか知りたい場合、どういう行動にでるか?
それは、今や向こうの日常になりつつあるインターネットにおいて検索をかけるのではないだろうか。本のタイトル、著者そこまで分かれば粗方絞れるだろうし、その項目に目的の「格言」という単語を組み込めば大体はヒットできるのではないだろうか?
その検索するという行為を、新たに術として作り出そうと考えたのである。
無理矢理な力技的感覚も受けなくは無いが、その術が成功して此処にいるワケである。
ライールから10キロ離れた、密林 の 奥地 の 開けた土地 に。
現状としては、早々についてしまった為にレジャーシートもどきを敷いて人型をとっている黒玲に淹れて貰ったお茶を啜りつつお菓子を食べているという、一件ピクニックに来たような状態である。
まぁ、場所がなんだかんだと危険事が多い密林という前提を省いた状態ではあるが。
「周囲には、動物達の気配も御座いません」
テキパキと不必要物を片付けながら、黒玲が応える。改めて、周囲に気を配れば植物以外の気配は感じないので、そうなんだろうなぁ等と思考する。
「で、トール アレをどう捕らえるつもりだ?」
「どーしようねぇ・・・一部を拝借できれば、上々なんだけど」
のほほんとカップに残ったお茶を啜りながら、ファルの問い掛けに答える。
返した言葉が気に食わなかったのか、呆れの篭った視線をファルから受けるがそれは気付かないフリで言葉を続ける。
「まぁ、単純作業 か、なぁ とは思ってる」
そう、結局あの根から一部を採取するには対峙は避けられないだろうし、誘き出すには私自身の"魔力"を匂わせるしかないだろう。
何を基準にあの根が私を探しているのか、あの出来事の直後は断定が出来なかったのだが、その後の状況を整理すると、どうも魔力の質というか、匂いというか波長というかそういった個体特有のモノを感知してるようだというのが解った。
何分、街の地下を巨大ミミズの様に這い回る根を感知できしまった為に、割り出せた事ではある。マント装着時や"魔力"さえ阻む障壁行使時はさっくりとスルーされたので。
しっかし、魔力で探知出来る機能とか素晴らしいね
「トールの魔力が、わかりやすいだけかもしれんがな」
等としみじみ思えば、隣からファルさんが思いっきり考えたくなかった項目を持ち出してくる。いつの間にこの世界は、こんなに意地が悪くなったんだ等と内心ブチブチ言いながら、「いや、ほら根っこの性能が良いんだ、きっと」なんて口にしてみた。
「まぁ、それも事実だろうな あの二人を追う為に、その能力が底上げされている可能性もあるだろう」
適当にでっち上げた内容に、ふむっと呟きながら顎に手を当てるその姿は手元に携帯があれば写メりたいぐらいに可愛らしい。待ち受けに出来たらいいのにな、なんて本体の携帯も無いのに心中で呟く。
ちまくて可愛いのは 正義 だ、と言い切ろう!
と、脱線しかけた思考を元に戻しながら「へぇ」なんて相槌を返しつつ、茜色に染まった空を見上げ、腰を上げる。ゆっくりとだが、身体を動かしやすい様にほぐす私を二人は視線で追う。
「始めるのか」
静かに紡がれた言葉に「ちょうど良い頃合だしね」等と気軽に応えて、腰元に下げらている二振りのダガーを手に取る。
戦闘になるのであれば、黒玲の方が私にとっては易しいのだが、今回は採取が目的の為この二振りに頼る事になったのだ。黒玲には、私のサポートと撹乱作業を担当して貰う予定である。
凄いね、自動連続射出出来るって
そんな事を思いながらシートモドキを片付けた黒玲と視線を交えた後、私はマントと自身にかけていた術を解いたのだった。
読んで下さる方々、拍手を下さる方々に感謝です。