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世界は無常に満ちている  作者: 花井
第二章
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22 ふりかえるモノ

あれ、そういえば城からトンズラこいてわりと経つけど百合さんはどうしてんだろ?




 そんな事を思いながら、本日は泊めて頂いている宿屋のお手伝いをしております。

 と、言っても裏方でザクザクと野菜を切ってたり皿を洗ったり、ヒトが出た後の部屋の洗濯モノの回収にベッドメイキングや掃除したりとかですが。


 特にベットメイキングは中学の時の職業体験が役立ってびっくりだ

 しかも、おかみさんに褒められた やっほい


 後は、薪割りだったり小枝を集めたり、結構古典的な事をしてたり水場の掃除をしたりしていたワケなのですよ。基本的にはやらなければいけない事は山積なので、冒頭の思考は記憶の彼方に流されていってしまったのは内緒の話である。

 コチラの世界はムコウと比べて、一部生活水準が高かったり(魔法魔術に因る)以外に低い所もあったり(コレは薪割りとか)と比べる基準が違いすぎるので、一概にどうこうは言えない。


 それに、専門の知識があるわけではないので、詳しくどうこうなんてムリムリ


 ただ、一般水準は印象的にわりと低めに感じるのは、私の主観である。ただ、水周りの設備はしっかりしてるので、そこは安心。さすがに、お風呂のない生活はちょっと遠慮願いたいと思うのは日本人なら分かってくれると信じてる!多分。


 そして、いつの間にやら宿を手伝っている間に陽は沈み、深い闇が全てを覆い隠す。

 深い色をした空の波間に見える、恒星達を見上げてしみじみとこういう所も似てるんだなぁなんてシミジミと呟けば、郷愁にかられる。


 ムコウから離れて、一ヶ月経つか経たないかぐらいよねぇ

 一人暮らしとかは、嬉々として過ごしてたんだけどなぁ


 恋しく思うのは致し方ないとも思う、もう戻れないのも理解はしている・・・自覚しているのかは、微妙なラインだけれども。ムコウとコチラは大きく異なるのに、ふと視界に入るモノが良く似ていてそれでも、やはり違って。記憶の中にしか、もうない世界に還りたくなる。


 あぁ、こっちの月は二つもあるんだ


 頬を伝いそうになる涙を溢すまいと顔をあげれば、見慣れた夜空に浮かぶ見慣れない二つの月が目に入る。アレらを月と言ってもいいのか多少迷うが、気にしない方向性で「月」なのだと思っておく事にする。

 今までは、生きるのに・・・行動する事に必死だったから、月なんてじっくりと見なかったのでよくよく観察してみる。遠近法的に手前に存在する月は、濃い茶色にミルクを垂らしたかの様なマーブル色。なんというか、木星とか土星とか言われても納得出来そうな色である。その月の奥、手前の月よりは二回りか三回り程小さく見える月は碧白い。漢字からも推測して頂けると思うが、空の青ではなく海の碧、青に緑を混ぜた色合いである。


 どっちにしろ、月らしくない色ねぇ


 あまりのムコウとの違いに涙も流せないし、郷愁もどこぞへ吹っ飛んでしまうその色合いに、ちょっと遠い目をしながら溜息を吐く。結局はシリアスになりきれない自分を心中で嘲笑いながら、窓辺から離れる。


「リョーコ」


 心配気な色を湛えた声音が背後から聞こえ、その声の方へと身体を向ける。


「んー?」

「寂しいのか」


 間延びした声で呼びかけに応えれば、真剣な瞳をしたファルが静かに言葉を紡ぐ。黒玲もその後で心配気に、アルレをのせた盆を持ちながらコチラを見ている。その二人の様子に、苦笑を浮かべながら「かもね」とだけ言葉を返す。

 慰めようとファルがいつの間にか肩の上に移動しており、小さく柔らかな手が私の頬に触れる。その温もりに、いつの間にか詰めていた息を静かに吐き出す。


「リョーコが居なくなるその時まで、我らは其方を独りにはさせぬ」


 静かに紡がれた言葉に、空を彷徨っていた視線を彼へと向ける。


「ファルも黒玲も、私が期限付きなの知ってたのね」

「コレでも 世界 だからな、死神から話は聞いておる」

「私もファネス様の視た事を聞いております故、ある程度の事は存じております」


 二人の言葉を聞いて、それもそうかとも思う。ミュケーさんが二代目様が私の今後のケアをファル達に頼んでくれたのかな?何て、脳裏にちらりと過ぎれば、ソレに気づいたのか。ファルは真摯な光をその目に宿して言葉を紡ぐ。


「我らを見くびるな、たかだか死神言われたぐらいで動くと思うな」


 「我らにも意思があり、選び取る権利がある リョーコ、其方の傍にいる事を我らは選んだ・・・その意味を間違って捉えてくれるな」そう深々と降り積もる雪の様に静かにそれでも確実に彼の声は彼らの思いを紡ぐ。


「我らはリョーコを好きだからこそ、この場にいるのだ」


 そう、続けられた言葉に、緩く静かに息を吐き出し言葉を返す。


「ありがとう、そしてゴメン」


 「最後の一言は余計だ」なんて言うファルと、いつの間にか盆をサイドテーブルに置いて傍で片手を握ってくれている黒玲を強く抱きしめる。零れる透明な雫を見られないように、強く 強く。


「んで、改めて その時まで宜しく、二人とも」


 その声が、微かに震えていた事は三人の秘密となった。

ちょいとしんみり。

でも、次の日には復活するそれがトーコさんくおりてぃー♪

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