-閑話- 巫女姫のケネン
やっとこ、団体さん達の名前が出てきました!
愛称なので、正式名称では御座いませんが(笑)
ザワリ、と空間が揺らぐ気配に周囲に緊張が走る。
少し離れた場所に浮かび上がるのは、緻密な術式が刻まれた《転移》の為の魔方陣。
本来なら、魔術師が複数掛りで無ければ展開する事が出来ない筈の術式。単体で扱える者が極、限られているモノ。そして、単体で扱えるのであればその術者は各国から引く手数多の人材となる。
それに加え、古代魔術である障壁とあれ程の術式を扱える方……惜しいですねぇ
しかも、ディーヴァの方でしたし……
属していないとは考え憎いですが、出来ればご助力いただきたかったのですけれども
それも、無理なお話かもしれませんねぇ等と、兄の彼への言動を思いながら軽く溜息をつく。その兄も魔術師殿の転移に巻き込まれにいってしまい、私達は此処に留まらざるを得なかった。
己や兄とて一応、単独で扱える術者に該当はするもののそう、やすやすと展開出来ない事は扱えるからこそ理解できる。それ故に、兄も彼に興味を持ったのだろうと思考を巡らせる。それ以外にも興味を引かれた点はあったのだろうが、兄ではないのでなんとも言えない。
兄様にも困ったもの
幾度目かの溜息を吐きおえれば、魔方陣に重なる様にハッキリした輪郭を描き兄が姿を現す。魔方陣は兄がしっかりと地に足を付けた瞬間、役目は終わったとばかりに霧散した。
「殿下、ご無事でっ」
護衛について下さっていたディタ殿が安堵の表情ともに兄に駆け寄る。彼はこの密礼の中では一番の年長者であるから、何かあった時の気苦労は計り知れないのだろうなと思いながら彼と兄のやり取りを見守る。
「別に心配することもなかろう ディタ」
「殿下の御身に何かあってからでは遅いのですぞっ」
「大概の事はどうとでもなる」
「だから、それでは遅いとっ」
ディタ殿のお小言に、横柄に言葉を返している兄を見やりながら。ディタ殿には深く頭を下げたくなってしまう。
相変わらず我が道を行く兄に、後から軽く後頭部に拳が入る。良い音が鳴ったのは思い切りがよかったのでしょうと思っておく。
ディタ殿は溜息を軽くついた後、後は任せたとでも言う様に口を閉じてしまわれた。
「サーリ、てめぇの所為でジェド爺からお小言貰うのは俺らなんだ 少しは考えろ」
「なら、お前も来ればよかっただろう? ザジ」
「得体の知れない奴の、展開途中の術に突っ込んでいけるのは サーリぐらいだと思うけど?」
「僕もそう思います」
兄の後頭部に拳を入れたのは、兄の乳兄弟であり、兄の近衛を司るザジ。ザジに返す兄の言葉に、サラリと言うのは兄とザジの幼馴染であるルイエ。兄の補佐文官であるルイエは、穏やかな笑みで「術者が安定してなきゃ、何処に飛ばされるか解ったもんじゃないのにねぇ」と言葉を続ける。内容は危険なのに、その口調はのんびりとしていて、心配していたのかどうか些か怪しい所ではある。そのルイエの言葉に追従する様に言葉を口にのせ、うんうんと横で盛大に首を縦に振っているのはザジの補佐を担当するクィフト。
「しかし、まぁ……転移の術に障壁そして、あの術式なかなかの大物のようですね 彼は」
兄達のいつも通り過ぎる様子に呆れた視線を向けていれば、すぐ傍でそんな言葉が降ってくる。そう言ったのは私の側近であり、副神官長の名を掲げるナーザ。副神官長という役職の通り、彼もまた私と同じく《視る者》であり、術にも長けた魔術師でもある。
その彼が大物と称するのだから、先程の古代魔術師であろう彼は並々ならぬ《力》か《技量》の持ち主なのだろう。
それに……
「それに、やけに精霊達に好かれて……いえ、それとは少し違うような」
そう、確かに彼は至極、精霊に好かれていた
視る者は基本的に精霊に好かれやすい、それは相互扶助という関係があるからなのだが、視る者が瀕死でもそれを助ける、という事まではしない筈
精霊は基本的には気まぐれで、人とは相互扶助の関係の為に関与しているだけだ
まぁ、たまに個人を深く気に入れば守護精霊として《誓約》を行い、《護る》けれどそれは個精霊の意思であり、精霊全体の意思ではない
あの時、あの場にいた精霊達は兄に剣を向けられた彼の身を心配していた……そして、剣を向けた兄を排除しようとした
ただ、排除しようとした意思は途中で霧散したようだけど
多くの火精霊が兄に牙を剥こうとしたのは事実、普通の精霊と人の関係では其処まで密ではない筈なのに
まるで、精霊達は彼と共にある事に嬉々としているようにも見えた
………………まさか、ね
言葉を途中で止め、思考に耽ってしまった私にナーザが問いかける。
「ナフィ様、何か気になる事でも?」
「いえ、多分 私の気のせいだと」
ゆるりと首を横に振り、否定の意を告げ兄に視線を向ける。
視線を感じたのか兄はザジ達との遣り取りを置いて、私の方へと向き直る。
「例え、兄様と言えど勝手はご遠慮いただけませんか?」
「ふむ、守備よく終わらせたではないか」
「無関係な方を巻き込んだというのに、それですか」
「アレは、自分で突っ込んでいったように思うがな」
最後の言葉とその表情に浮かぶ愉しげな笑みに、ゾクリと肌が泡立つ。
兄が大概、至極愉しげに笑うその理由は、兄にとって「面白いモノ」が見つかったからである。
ザジやクィフト、ディタ殿も兄の久々の愉しげな笑みに動きを止めている。ルイエやナーガはどちらかというと、微笑ましげ(楽しそう)に兄を見ている。
この兄を穏やかに見ていられるのは、陛下も含めて3人だけだと思うの
妹としては、毎日何かに飽いている様な餓えている様な兄の楽しげな様子は、嬉しい事この上ないのだけれども、その面白い「モノ」と兄に認識された方への心配の方がが先に立つ。
何故なら、兄は認識した対象を弄り倒す癖があるのだ……本人は気づいているのか、いないのかは定かではないけれども。多分、気付いてはいる筈だが、改める気は本人には一切ないのだろう。
兄が見つけてきた優秀な護衛官は、数日間でげっそりと別人に見紛ぐらいまで、窶れてしまった事があるぐらいである。幼い頃の私も対象だったのだから、よく覚えている……あの恐怖を。兄にとっては自分の好きな「モノ」への愛情表現なのでしょうけれども、愛情表現としてはかなり屈折しているのは困ったモノである。
私には、兄の対象となってしまった彼の無事を祈るしか出来ないが、こんな時にふと思ってしまうのである。
兄様が恋する方は、どうなってしまうのでしょう?
降って湧いた、疑問にふるふると勢い良く首を振り、考えなかった事にしておく。
このまま、この場に長居をするわけにもいかず、皆に城へと帰る胸を告げ、転移の術を展開した。
団体さんの中での良心である、巫女姫視点でした。
タイトルからしてネタばれ(?)ですが、まぁ周知の事実ですのでタイトルは赦してやって下さい。
巫女姫や皇子の周囲はこのメンバーがスタンダードです。
ディタさんは……入ったり入らなかったりですが、ザジとルイエとナーザはセットです。クィフトは弄られっ子です(多分)。
いつか、彼らの外見とかどこかで出せたら……いいなぁ。