-閑話- ジチョウ
「……言われんでも、わかっとるわ」
投げつけられた言葉に、いつもは出難い筈の方言で悪態に見えないアクタイを呟く。彼が居ただろう場所に視線を流した後、盛大な音を立ててベットに突っ伏した。
そんな私を慌てた様子で心配する黒玲に、片手を上げて大丈夫だという意思を伝える。
うん、コッチに来てまで面倒事なんて 無くていいと思う
ムコウより内容が格段グレードアップしてるなんて知りたくなくても 解る
解りたくねぇっつに
等と脳内で悪態をつき、顔を埋めている枕に一頻り沈み込んだ後、勢い良く身体を起こす。
「神様の阿保んだらぁーっ こんな忙しない生活はいらんーっ」
「まぁ、リョーコだから、と言う気もしなくはないがな」
不意に脇から聞こえてきた穏やかなファルの声に、喚いている自分が馬鹿みたいで、なんとも微妙な表情を浮かべる。
その表情に些か不憫に思ったのか、ファルはSDのまま私の頭へ昇りよしよしと撫でてくれる。
「はぁ…… 強制的にあの人、転移させたけど……爆弾残された感じ」
「障壁はいいとして、最後のはなぁ」
「ムコウサンに敵認識、されマシタカネ?」
「だろうな」 「でしょうね」
「デスヨネー」
起き上がった上半身をまた枕に埋めて言葉を紡げば、ファルさんが顎に手を当てながら言う。イタイと解っていても続けて問いかけてしまうのは、どうしてなのだろうと思いながら問いかければ、ダブルサウンドで返された。
半べそかきながら、自分でもその問いかけは愚問だと思う。
「だって、だって……他人の血を見るのは嫌いなんだよぅ」
ぐずぐずと駄々を捏ねながら、ジタバタと足を忙しなく動かす。そんな様子の私に、呆れた様な視線を向けて肩を竦めるのはファルサン、黒玲はいつの間にやら取り出したポットで紅茶もどき(コチラではアルレと言うらしい)を入れ、カップに注ぎ差し出してくれる。
「ありがと」と礼を述べてカップを受け取り、行儀は悪いがベットに寝転んだまま、肘を付き上半身だけまた起こしてアルレを啜る。
別にさー…… 自分が流血するのはいいのよ 自分がね
痛いのは確かに嫌だけど、半一過性だし 自分が我慢さえすればいい話だし、ね
………… 多分、他人が傷付いてもどうしようも出来ない自分が嫌なのよね
今は治癒させる事が出来るだろうけど、簡単には切り替えられない
なんて、子供じみて歪んだちゃちな自尊心
彼女なら同じ行動をしたとして、思う感情や思考は違うんだろうなぁ
うん、素で「あの人怪我しちゃうじゃない」とか、そんな単純な理由でやりそう
つか、やるだろ
そして、それで巻き込まれても涙を流しても、最後には笑顔で乗り切るのよねぇ
彼女と自分の思考の違いに鉛を飲み込んだ様に気分は下降する。
彼女になりたいワケじゃないと思いながら、彼女の様になれない自分に不満を持つ、そんな自分に哂うしかない。
うっすらと浮かんだ笑みに、訝しげに二人は首を傾げるがその笑みを別の笑みで塗り潰して、何でもないフリを押し通す。訝しく思われても、彼らは私の心など知りえないと解っているから、何事も無かったようにカップに口を付ける。
自分は彼女の様に「キレイ」にはなれない
容姿も確かにそうだが、心という観点に置いて
そして、自分は変わろうとせずにただ羨み、妬む だけ
……………… あぁ、いけない いつのまにか、思考がそれてしまった
薄暗く形の無い靄の様な悪感情を、秘密の小箱にギュッと押し込んでしっかりと鍵をかける。「私は私にしかなれない」という言葉で。そして、鍵が壊れしまわない様に鎖を何重にも巻いていく「私は私と言う性格を気に入っている」という言葉を持って。
最後に、思考する事を放棄するのだ。それは、面倒臭がりという自分のスタンスで隠した自己防衛。
「まぁ、コトが起こってもどうにかなるでしょ 全力で逃げるだけだし」
そう呟き、「黒玲さーん、もう一杯オカワリちょーだーい」と続けてベットの脇にいる彼女に差し出す。黒玲はにこりと笑顔でポットからカップに中身を注ぎ足す。
「リョーコがいいならいいが、な」
私の様子に軽く溜息を付いたファルはそれだけを呟いて、「我にも」と黒玲に言うが「自分で淹れなさいませ」等と返され、いつもの口喧嘩へと身を投じていく。
そんな二人のやり取りを、穏やかにアルレを啜りながら眺めて癒される。
ゾクリ、と背を這い上がる悪寒に首を傾げるのはその数分後の事。
うだぐだトーコさんが抱えてるモノが出てくるだけで主線に関わりがないので、閑話扱いです(笑)。
一応、能力的にはチートな彼女ですが、精神的な部分は一般人(?)とほぼ変わりません。というよりは、白か黒かと言われれば斑の灰に分類される様な人間で書いていきたいと思っています。
まぁ、善人にも悪人にもなれないドへたれにどうぞお付き合い下さい。
タイトルは色んな じちょう を含めて ジチョウ となっております。