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世界は無常に満ちている  作者: 花井
第一章
30/43

18 不穏の欠片[後]

「そうですね、貴方と向こう側にいらっしゃる方々の周囲の障壁を解きます」




 続けて「あぁ、回避する為に障壁が貴方を拒む事は無いので、内に戻って頂いても結構ですから、怪我なんてしないでください」と付け足す。言外に「証明する様アンタが言ったんだから、怪我しても文句は言うなよ」ぐらいの意味合いを含めて見せれば、目の前の青年の少し厚めの唇が緩やかに吊り上がる。

 少女はその表情に何かを思ったのか口を開こうとするが、青年と視線が絡めば大きく溜息を吐いて口を閉ざした。

 青年は話を通す為にか、離れた場所にいる従者達へと向かい一言二言言葉を交わしている。

 その姿を視界に入れながら軽く、息をつく。


《リョーコ》


 不意に脳内に響くテノールに、内心苦笑を溢しながら《大丈夫》とだけ手早く返し、ついでに次に声を掛けるまでは実体化しないようにお願いをしておく。勿論、黒玲にもである。

 二人とも不服そうではあったが聞き届けてくれたので、心中で安堵の溜息をついた。今から行う事で不測の事態が起った際に、二人の姿を確認してしまわない自信はない。誤魔化したとしても彼は、その誤魔化しすら見透かしてくるだろう。


 視界の青年が此方へと歩を進めて、戻ってくるのをただ見据えながら言葉を紡ぐ。


「では」


 彼の視線が此方へ注がれている事を確認して、指を弾く。ピシンと小気味いい音を立てると同時に、障壁の一部が意味を無くす。

 まるでドーナツの様に穴の開いた障壁部分に、否……青年のみが立つ穴に、我こそはと言わんばかりに根が密集し大地を貫く。

 根に押し上げられる土は勢い良く宙を舞い、私の視界から根の壁により青年の姿は隠される。


 そして次に目に飛び込んできたのは、目を焼く様な 白。


 青よりも高温を顕し、全てを無に還す様な焔。

 続いて、響くは断末魔の様な地鳴り……それは、根の絶叫の様に思えた。


「成程、確かに俺達を狙っているようだな」


 土塊の降る視界の中、揺ぎ無く立つ青年の言葉が静かにだがはっきりと耳に届く。もしかしなくても、あの白き焔はその彼が造り出したモノなのだろう、とそんな考えが脳内で丸まって霧散する。

 其処に然りと在る彼は、特に何事も無かったかの様に「面倒な事だ」等と服に付いた土塊を軽く掃い、呟く。

 その様子にあまりの事に固まっていたであろう、もう一方の障壁解除対象者の方々は素早い動作で、彼の元へと駆け寄る。そんな彼らに青年は特に表情を変える事無く、淡々と「そう慌てずとも心配するな」とだけ言葉を投げる。

 その言葉に食って掛かる者、呆れる者、苦笑する者様々だが全員、彼が無事でホッとした様な表情をしている。意外に、上下関係無くフレンドリー(?)な関係である様子が見受けられる。

 そんな彼らの様子を見ながら、私は詰めていた息をゆっくりと吐き出した。

 自分以外の血を見るかもしれないという恐怖は存外、私を強く縛っていたようである。


「兄様が使ったのは《無への饋還》全てを無に還し浄化する、ノヴェリア一族のみが使用出来る術です」


 不意に、時を見計らったように脇にいる少女から彼の造った白き焔の名を知る。

 視線を彼女に向ける事無く、その言葉に内心では眉根をきつく寄せ、次に紡がれる言葉を待つ。


「…………」

「何故、そんな話を? とは、聞かれないのですね」


 静かに紡がれる言葉を聞きながら、心中では「あぁ……面倒事こんにちは」と嘆く。その嘆きを表に出さない様、細心の注意を払いながら言葉を紡ぐ。


 「聞いたら後へは戻れないのでしょう?」


 注意を払いながら紡いだ言葉は、思った以上に硬質的に空気を振るわせた。

 先手必勝とばかりに紡がれた少女の言葉に、彼女の目に己自身が必要要素に見えている事を認識する。

 別に彼らに連れられて他国へと向かうのに異論は無いが、彼女や彼がどのような位置で見ているか、それが解らなければ身の振り様がないなぁと思考する。

 そんな事を思っている最中に、要らない事に気づいてしまった。

 正しく言えば、気付きたくない事に気付いてしまったのだけれども。


 一も二も無く、駆け出す。


 いきなり走り出した私に少女の驚いた様子が伝わってくるが、それに気をとめている暇は無かった。


 あぁっ、もうっ 自分で自分の首絞めんのかよっ!!


 心中で自分自身に罵倒を浴びせつつも、障壁を穴開き広範囲から少女周辺と青年周辺に切り替える。私の足音に気付いた彼らが視線を向けると同時に、目的地に辿り着き手を伸ばした。


「オイタにはオシオキだよね」


 私は、目的のモノ(・・)を鷲掴みにしながら静かに呟いた。

 手の中で、かなり大きい仕草で逃れ様ともがくのは先程と同じ様な、根。


「先程ので逃げ帰った、と思っていたのだけど 案外粘着だねぇ」


 障壁と焔で十分な程にダメージを負っている癖に、起死回生でも狙っていたのか。

 彼らがこの障壁から出るのを待ち受けていたであろう、根を目を細めて見据える。


「目の前で、ヒトが傷付くのは頂けないんでな」


 そんな事をのたまいながら、私は躊躇せずに根の動きを奪う。 

 掴んでいるその手に纏うは青白き閃光、最初は僅かな反発音を伴っているが次第に音は激しくなる。

 くつり、と自分の唇が歪む音が聞こえた気がした。


()け」


 言葉と共に、まるで地中に住む大蛇が暴れるかの様に地が揺れる。

 掴んでいた根は一瞬の間に黒々と炭化し、指の間からパラパラと地に落ち、風に攫われて行く。掌中に残った残骸は、軽く手を叩くことで払い落とす。

 その間に根が残っていないことを確認し、障壁を解除、と手早く行っていく。

 一通りの作業を終えて思うのは、段々と人外になりつつあるなぁという切なさ。


 深々と溜息を吐き出し、転移の魔方陣を展開する。


 後ろの方々が何から息を詰めていたり、騒がしかったりするのはスルーして、心中はもう既に大いに音を上げている。全ては私の為に完全無視である。


 私はご飯食べて、寝るのです

 そして、ファルと黒玲に癒して貰うんだっ


 そう心に決めて、残りの全てを放置した。

さて、見事なトンズラをかましたトーコさんですが……。

思った以上に人外になりつつある自分に結構なショックらしいです。


暑い日が続きますが、皆様お身体お大事にお過ごし下さい。

私は、暑さにヒーヒー言いつつ頑張りたいと思います。


*****

修正履歴

H22.7.27 誤字修正

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