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世界は無常に満ちている  作者: 花井
第一章
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16 儀式という名の言語

咄嗟に、白銀の刃を掴み引き離す。




刃が手を傷つけ血に染まるのも気にせずに少女と青年の隙間をすり抜ける。

その瞬間に二人に緊張が走ったのを感じたが、そこで躊躇している余裕は私には無かった。


其の起源は我(オルレギンドゥベイ)() 源たる我が(シタルフェイベイロ)赤き血潮により(グィンアルレリツェ) 顕現せよ(ムディラ)


その間に一息で詠唱を終わらせ、流れた己の血すら好機と判断し媒介として今の私が使用出来る最上級の障壁を展開する。

障壁が出現した瞬間、地中から出現した巨大な無数の影が激しい音を立てて弾かれる。


「……おっし、間に合ったっ」


そう呟きながら障壁の向こうで弾き飛ばされ、その衝撃で引き千切れた「根っこ」らしきモノがビタンビタンとのた打ち回っているのを見やる。

微妙にシュールな光景にちょっとばかし遠い眼になる。


「うーわぁ………こらまたエグイ」


根を取り巻くのは黒味がかった靄……《瘴気》のお陰で見事なまでに変質してしまって原型を留めていない。大まかな形を残してはいるが、もう既に別のモノだ。

千切れ引き裂かれた部位からは腐臭と共に粘着質の緑黒い液体が流れ出ている。

香る腐臭に眉間に皺を寄せ、そんな風に呟く私の横から可憐な声音がしっかりとした音で術を紡ぐ。

何分、障壁は接触や攻撃、魔法、術等は弾いてくれるが音、匂い等は弾いてくれない為匂いの影響を遮るには鼻を摘むしかないのだから切ない。


「我れ属すは祓い清める者也、個々に在りて燻ぶるは禍つ者 我が力にて絶たれるべきは其

 この場に留まる事許さじ 《祓》」


少女が呪文(スペル)をいい終えると同時に、《瘴気》はまるで蜘蛛の子を散らすかの様に微かな残滓を残して霧散した。

その様子を感心して傍観している間に少女とは反対脇から静かな声が「(アウル)」とだけ紡ぎ、容赦なく高位の炎を喚び変質した複数の根を焼き尽くし炭と化す。

青年の実力の一端にヒューとか口笛を吹いてみたかったが、どうも私は口笛が苦手なので吹けなかった為心中で棒読みで言ってみる。


「今、この場で儀式を執り行います」


少女が凛とした様子で言葉を紡ぐ、その言葉に未だ私の障壁で守られている護衛の方々が「何処の馬の骨ともしれぬ前で…」とか何とか言っているが少女は彼らの言葉を見事にスルーし、私の向こう…彼女が兄様と呼んだ青年を見やる。

その少女の視線に青年はフッと鼻で笑いその後は何も言わなかった。

少女は彼のその様子を了承と受け取ったのか満足した様に目元を緩める、そして私の方へと視線を向けふんわりと陽だまりの様に微笑んだ。


「申し訳ございません、御辛いかと思いますがもう少しだけこの結界を

 維持していただいて宜しいですか?」


そう言いながら、私の未だ血を流している手を両の手で包み端的に「(ウォレル)」と呟く。

詠唱のない治癒系の高位術に感心しながら、私も彼女の問いに答えるように言葉を紡ぐ。


「わかった……もう少し広く展開した方がいいのかな?」


特に何かを意図したわけでは無いのだが、儀式を行うと聞いて広い場所があった方がいいのかなと思い素で返した言葉に少女も青年も驚いた様に目を見開く。

え……何かいらん事言った?等と内心焦っていると少女が先程までの様子に戻る。


「出来るのであれば、もう少しだけ…あちらの火気(アジフ)が密集しているあたりまで

 お願い出来ますか」


おずおずと言った調子で問いかけられ、彼女の指した方へと視線を向け、別に答えられない注文でも無かったので軽く頷きパチンと指を弾く。

まぁ、指を弾く行為に左程意味があったワケでは無いのだけれども、私の意識と認識の切り替えに今回は役立ってくれたワケである。

ぶっちゃけ、ただ単にやってみたかっただけである。


「こんな感じで、いいかな?」


指示された範囲まで広がった障壁に満足気に頷き、少女に問いかければ呆然という言葉が当て嵌まりそうな表情を浮かべていた。

青年は丹精な顔に何やら愉しげな笑みを浮かべており、背筋に悪寒が走ったのは余談である。

そんな状態で、美少女ってどんな顔してても目の保養だねぇ等と下らない事を思いながら首を傾げてみる。


「え、えぇ ありがとうございます」


私の仕草に固まっていた表情が動き出し穏やかに笑みながらお礼を言われる。

そして、少女は広げた障壁ギリギリまでゆったりとした所作で近寄り深く息を吸い込むと明らかに今まで話していた言語とは別の言葉を用いて高らかに謡い始めた。


周囲の者達はその歌を阻むモノが無いか警戒しているのか、ピリリと空気に緊張の色がのる。

だが、私はそれ所ではなかったのである。

少女の紡ぐ音は今まで聞いた事も無い音だと確信できる、そして次々と頭の中に音の意味が、祈りが、泡沫のように浮かび上がり鮮明に刻まれ消えていくのだ。

今の今まで、敢えて触れる事は無かったのだがこの世界の言語は確実に日本語では無い。

ソレはなんとなく解っていたのだ、だからこそ余計に疑問に思うのである。

今までは召喚特典なのか全て私の耳には日本語に変換されて聞こえていたのに、何故これだけ……そのままの音として「聞こえる」のか。


《これは…古ジティリア語》


ポツリと洩らされた黒玲の思念に微かに首を傾げれば、ファルが《精霊と交わった一族が使う言葉だ…精霊と会話をする際に用いられたモノだな》説明をつけてくれる。ふーんと思考で感心したように二人に返せば黒玲が余談を付け足してくれる。


《精霊は人の言葉を理解はしますが、力を貸すか否かは気分次第と言ったところですわ

 ですが、この言語は精霊達の意志の波長とよく似ていて彼らの理解を得易いのです》

《既にジティリアの民もこの言語も絶えて久しいと思ったが、まだ失われていなかったんだな》


ファルの言葉にこの歌にも聞こえる言葉は希少なものなのだと理解する。

が、やはり私自身に妙な聞こえ方をしている為に浮かんだ疑問を問いかけてみる。


精霊用の言語ってのは解ったんだけど、私には音は聞き慣れないのに意味は浮かんでくる

そんな状態なのは何故デショウカ?

《……ニュスは人だからだ、リョーコの言う通り精霊との為の言語だからな

 人の「身」には意味の在る音として認識されぬ、だがニュスは精霊達を司る者

 存在の在り方は人より寧ろ精霊や気性等に近い、それ故に意味が浮かぶのだろう》


私の意味の解らない説明にファルは暫し考えるように沈黙した後、思念を紡ぐ。


普通にファルや黒玲みたいに思念で会話すりゃ済むんじゃなかろか


そんな事を思えばすかさず黒玲が返答をくれる。


《この様に思念で会話できるのは人では「(バシレース)」だけですわ

 王の役割の一つは彼らを司り安定へと導く事 それ故に王の意思は精霊の総意、

 精霊達は王の意思を受け取れますし、王は思念で彼らと会話出来るのですわ》


黒玲の思念を噛み砕いて脳が理解するまで暫し。

妙な沈黙が落ちた後、私は呻く様に思念を垂れ流した。


……今更、気付いたんですが それってものごっつー大役ジャナイデスカネ?

私が悪用でもしたらどうすんのさ

《悪用するような魂の者であれば既にその役に喰らわれて自滅している》


さらりとファルさんが恐ろしい事を言い切ったすぐ後、少女の歌は途切れた。

この話は言語の話が出てきました、いつ触れようかとても悩んだんですけどね。

無事に出せてよかったです。

今後の話でまたかるーく触ることもあるかもしれません。

ニュスの役割も少しだけ出てきました……アレ?入れる予定は無かったんだけどなぁ。


読んで下さる皆様ありがとうございます。

今後も地道に、書き進めていきたいと思います。

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