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世界は無常に満ちている  作者: 花井
第一章
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15 不幸な遭遇

不意に違和感を感じると同時に、何か(・・)が風を切る音を聞いた。



《《トール(様)ッ》》

フードの中から危険を悟ったのであろう二人の声が聞こえるが、反応出来ない。

二人に思考で沈黙する事を促す、少しでも反応を返せばすぐさま2度目の死とご対面という状況になるだろう。

本能的に咄嗟に横に転がらなければ私は無事でいられなかった、そんな目の前の人物に2度目(・・・)が通じるとも思えず、起き上がる途中の体勢で固まる。

鋭い音を立てて空を薙いだのは鈍く陽に輝く白銀の刃、私の羽織るマントの一部はその刃に切り裂かれ宙へと舞っていた。

確実に私の首を狙ったその軌跡にゾッとする。


「ほぅ………避けたか」


叢に転がり立ち上がる途中の姿勢の私に至極愉しげな声音が降って来る。

だが、愉しげなのは声音のみでその場を支配する目の前の人物の雰囲気も、空を薙いだ剣の切っ先も、向けられる視線も冷え切ったモノを湛えている。

瞳など特にその色が顕著で見たモノを射殺すかの様に鋭い、必要とあらばその手で生命(いのち)を刈り取る事にも躊躇しないのだろう。

容赦なく喉元に白銀を突きつける目の前の人物から私はあたかも美しくも獰猛な獣を視ているかの様に視線が外せない。

真紅よりも深く濃い……血の色をした(あか)に見据えられ、背筋に冷たいモノが伝う。

少しでも動けば喉に当たる白銀は私を切り裂き赤を身に纏うのだろう、その状況が容易に想像できた。


確実に次の一閃で殺される


白銀が喉に食い込み皮膚を裁つ感触、そして首を伝う液体の感覚にそんな予感が脳を掠める。

それと同時に、周囲の空気が一瞬にして変化を遂げる。

平穏を顕すかの様に赤や銅に煌めいていた、火気(アジフ)が青を纏い揺らめく。


―― 青、それは約1400℃以上の温度を示す凶器(ほのお)の色


ニュスと定められた私に剣を突きつけた事で目の前の人物に精霊達が敵意を抱いている事に気づく。

死の鎌を擡げる使者の如く、揺らめく透き通った青が目の前の人物を狙って何かを形作ろうとする。


待てっ


咄嗟に心中で叫んでいた。

本能的に精霊達が目の前の人物に向ける敵意を、行動を、その力を縛りつけ縫いとめる。

火気(アジフ)が纏っていた青は失せ、先程までの赤や銅という色合いに落ち着く。

その影響力に「ニュス」という存在の一端を見た気がしたが、ここは放置。

それよりも私が精霊達を制限出来ている間に、この状態から逃れる手立てを考える必要性がある。


それも《迅速に》でないと下手すりゃ、目の前の人はこんがりローストを通り越して

即、炭化の域デスヨ……多分


シェラさんの術の時も影でこっそりゲーゲーしてたのに、再度リバースなんて事になったら泣けてきそうだなぁ、などと思考を巡らすが相も変わらず私と目の前の人物の間には緊迫した様なそうでない様な空気が流れている。

その空気を霧散させたのは視界の端から駆け寄ってきた少女だった。


「お止め下さいっ、兄様(にいさま)っ」


天に昇る陽の如く輝く金糸の髪に、黄昏時に空を柔らかく染める(あけ)色の瞳を持った美少女が私の窮地を救ってくれた。

余りに眩し過ぎて目がチカチカしたのは、秘密である。

彼女は私を護る為にか刃を突きつけられて動けない私よりも前に、刃を持つ人物と真っ向から対峙した。

周囲のから複数の人間の制止の声が聞こえるが、私達の渦中に突っ込んでくる様子はない。


「この方は《ディーヴァ》でらっしゃいますっ……(わたくし)の管轄です」


両手を一杯に広げて、毅然と前を向き、鈍く輝く白銀と深い紅に恐れる事無く少女は言い放つ。

その様子に目の前の刃を突きつける、闇に煌々と在る月の様な白橡(しろつるばみ)色の髪に深い紅の瞳の美少女に良く似た配色の青年が片方の口角を吊り上げた。


「この視るだけの者(ディーヴァ)に悪しき意志があり、危害があった場合如何する?」


そう低い艶の在る声で諭すように言葉を紡ぐ青年。

続けて「確かに…ディーヴァは《稀少》保護の対象だが、我らにとって優先すべきモノでは無い」そう言い切る。

要約すれば、高々視えるだけの者を失ったとしても危害を加える可能性のある不穏分子は早々に芽を摘んで置くべきだ、という事を言いたいのだろう。


別にその考えを否定はせんが、むしろ正しいとも思うけどね……けれども、だ

何も確認せんまま切り捨てられるのはごめん被りたい

しかも、こんな山の中で胴と首の切断なんて切ないにも程がある


二人のやり取りに心中にゆとりが出てきたのか周囲の状況を把握することも、話の内容も推測も出来た。

少し落ち着いて見れば簡単なことで、周囲にいるのはセレファンとは着ているモノの雰囲気は異なるが上質な布を用いて作られた装束を身に纏う者達。遣り合ってる二人が纏う物はそれに和をかけて上質なのが見て取れる。


二人以外はローブで隠してはいるものの鎧の類もしっかりと着込んでおり腰に帯剣している者が大半、多分この少女の…もしくは、二人の護衛とみた。

そして、少女が私を《ディーヴァ》と言った事。

まぁ、助ける為の方便とも取れなくも無いけれど……こんな山ん中を良いトコのお嬢様がお供付でこんな危ない時期に登るわきゃーない。


なら、導かれる答えは必然的に一つだ。


答を導き出した瞬間に、私は念じる事でその場にいる精霊達に緘口令をひいた。

この場にいない精霊達にも即座に伝達する様に指示を出す。

人は気づかないが精霊、気性、動物達は《私》が何であるかを知っている。其処からばれてしまえば元もこもないのだ。


《私》はどの国にも属すつもりは無いのだから。


私が一人であれやこれやと精霊達に指示いる間に、不穏な風が力場を吹き抜けて行く。

以前、感じた事のある胸騒ぎを連れて。

精霊達も異常を感じたのかざわめきさざめく、その声を姿を知った少女がやり取りをやめる。

その様子に青年も何かを感じたのか、突きつけた刃はそのままに(できれば、放して欲しい)周囲の気配を探る。

他の従者基、護衛の方々も周囲を警戒する。


《瘴気だな》


脳内にファルの声が響く。

その声に「近くにありそう?」と問いかけを返せば返答の内容は「否」。


《どういうこと?》

《巨大な根源が触手を伸ばしていると考えればいい》


ファルの簡易的説明になんとなく想像がつき了承の意を返す。


《オケ……力場が狙い、ってことかねぇ》

《わからぬ、だがこのまま放っておけばこの力場は穢されるだろうな》

《………結構大事でナイデスカ?》

《さぁて、な》


脳内で気の無い返答が返されたと同時に手を着いている大地が微かに振動している事に気づく。

それが段々と忍び寄る様に近寄って来るのを感知した瞬間、私は動き出した。

さて、ここでやっと出てきました。

というか、出せました。


この兄妹、初期構想の時点からいたんですよねー

そして、妹ちゃんはおてんばじゃじゃ馬から落ち着いた感じの子になりました。

可愛い女の子は至福です。

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