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世界は無常に満ちている  作者: 花井
第一章
23/43

13 穏やかな時間

無事に宿も確保し、街の中を探索する。




カスタフという街は中継地点と言うだけあり、大きな街である。

人に限らずに色々な物資等も数多く流通しており、時折店頭には珍しい物品も並んでいる事があるという。

王都に比べて華やかさは無いものの、賑いについては同じぐらいなんじゃなかろうかと思うぐらいには人が多い。華美ではなく実用的な印象を受けるのは其処に生きている人達がこの土地に根付いて、色々な人々が出入りをしているからだろう。

出入りする人達がお貴族様がメインではなく旅人や《アイオン》の人間が多い為、嗜好品の類よりは実用的な用品の露天が軒を連ねている。

時々、おいしそうな屋台がちらりほらりと見えるのは御愛嬌だろう。


しかし、この人の多さ…どうにかならんのかしら。

……うぷ、人酔いしそう。


必要品の買出しの為、外へと出たものの人ごみに流され揉みくちゃにされながら露天や店を見て回る。

ぎゅうぎゅうの鮨詰め状態を以前もどこかで味わった事があるなと思いながら、何処だったかと思考すれば思いついたのは元の世界での移動手段でもあった交通機関。


「この現状、何かで……………あぁ 満員電車」


この状態が苦手でそうそう乗り合わせた事は無かったが、運悪く乗り合わせてしまった時の状態と良く似ている、そう思った。


「トール様、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫………きっと、多分」


人ごみに揉まれる感覚と人其々の個々の匂いが混在しているこの状況で顔を青くしていると、黒玲が心配そうにフードの中から声を掛けてくれる。

その言葉に匂いを吸い込まないように手で鼻と口を覆いながら小声で返す。後半部分に続いた言葉に「きっと、多分って…」と心配の色を濃くした彼女の頭を撫でて流す。


「匂いに敏感過ぎるのはどうにもならないのかねぇ……もう心は折れそうデス」

「まぁ、以前のトールをそのまま再現している様なモノだからな」


コチラに来る以前から匂いの類には敏感で、人との密着時にはその匂いでダメージを受けていた事もあるのである。

ここでもその嗅覚に悩まされるなんて…と心中嘆きながら呟けば、さらりと真実という名の剣を突き刺してくれるファルさん。


「念じたら緩和されるかね」

「わからぬ」

「デスヨネー……念じては見たものの特に変化がナイデス」


そんな言葉を流して半分ベソベソと心中で泣きながら彼と会話をする。

人のざわめきでこの会話は人に聞かれていないようである。


まぁ、防音系の処置も精霊に頼んであるから余計なんだろうけれど。


微かに溜息を零し、人に聞こえていない事を良い事にぐっと拳を握って呟く。

何分、人に聞かれていれば虚しい意気込みなのは分かり切っているので。


「さて、さくっと買い出し終らせようか」


王都よりも旅をする人間に役に立つ物が山とあるのである、まぁ…それらを使用するかと言われれば些か疑問は残るが。

何分、人と気性と世界である…規格外にも程があろう。


一応、一人に見えて三人の道中である………食料も減るのが早い、半分以上は私の所為だが。

もともと私の胃も同年代の女性陣に比べて大きめなのだ、如何せん一度に減る量が半端ない。

ムコウでお弁当と菓子パン3つをペロリと平らげた記憶はまだ記憶に新しい部類である。

色々女子として間違っていると言われたがそこはスルーだ、腹が減っては戦(「戦」と書いて「講義」と読む)には挑めないのである。

まぁ、逸れた思考は戻しファルと黒玲は食べずでも良いらしいが、一人で食べるのも虚しいので二人にも分けてたらいつの間にやら、という話なのである。


「買うならアレ欲しいな……ジ、ジー…なんだっけ」

「ジーファですか?」


人ごみを掻き分けながら店頭に並ぶ品物を見つめ呟けば、黒玲が助け舟を出してくれる。

品物を手に取り吟味しながら話を進める。


「そうそう、ソレ…アレ、モッツァレラチーズみたいで美味しいんだよね」

「モ?、チ?……なんだソレは」

「いや、ファルサン モチじゃないからね?確かに、餅っぽいけど 同じく旨いけど」

「………トール、涎が垂れておるぞ」


呆れた様な視線で私を見つめるファルの言葉に口元を指で拭いつつモッツァレラチーズの説明をする。

大好物なんだ、仕方なかろう。


「おっと、いけね……モッツァレラチーズって言うのは私の居たトコの水牛という動物の乳から

 作ったモノを指すワケ」

「ほーぅ…ジーファと似ておるのか」

「うん、ムコウのは色は真っ白だけどネ…モチャっとした感じが良く似てて、味も割りと

 似てるんじゃないかな?」


そうファルに返しながら、お店のおっちゃんに灰色の塊を5個渡して袋に詰めてもらう。

此方のモッツァレラに良く似たジーファは灰色をしていて、最初見た時は食べられるとは思えなかったが食べてみれば意外と気にならなくなり、今ではコチラでの私の好物になりつつある。

おっちゃんにお代を渡してまた人ごみの流れへと戻り、流されながら呟く。


「コサの実をスライスして挟んだら、カプレーゼっぽいのが出来るんじゃないかなぁ」


コサの実はトマトに似た、酸味と甘さを持つコチラの世界の食用の実の一つである。

形はドリアンの様で色は真っ青という色彩的に食欲をそそらない色合いなのだが、口に入れてみれば水気といい味といいトマトそっくりの為私の中ではトマトで確定しつつある。

案外、胃に入ってしまえば変わんない………と割り切ってしまえば支障は無い、ハズ。

見た目は何とも言えぬ青と灰のコラボだが、味としては美味しいんじゃなかろうかなどと思い「今度作ってみよう」と企ていれば気になる会話が耳に飛び込んできた。


巫女姫(ディーヴァ)様が御忍びで各地を巡礼なさってるんだと」

「へぇ…やっぱ、数年前のアレの所為かねぇ」

「だろうよ……他の国も段々とキナ臭くなってるってー噂だしな」

「近頃、獣が出やすくなったのも関係あんのかね」

「さぁてね 俺らには用心するしか出来ねぇさ」


人混みの中から聞こえてくる言葉に耳を欹てながら足を動かす。それでも、性能の良くなった耳は彼らの声だけを汲み取り脳へと伝える。


「ディーヴァ……ね」


聞き慣れない音にポツリとその単語を呟き、何故その単語がそれ程までに気になるのか。

己でも解らず首を傾げた。

出てこなかった…orz

人物像は決まっているのですが、どう出そうか思案中です。


穏やかな一幕。

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