12 コトの終わり
道中何度か山賊に襲われつつ、カスタフに無事到着。
まるで誘蛾灯が蛾を惹き付けるかの如く、山賊のオジサマ方に遭遇する事に色々と考えはしたものの他の方々の様子を見る分に何かを急いている様子も訝しんでいる様子も無い。
特に「何か」の秘密を含んでいる様な空気も感じられないので、この山賊に襲われる回数は旅をするモノにとっては当たり前のことなのだろう。
それは、それでウザ過ぎるが。
どちらかというと彼等が訝しんでいるのは獣達との遭遇数だと思う。
本来の道中であればこの山賊に襲われつつという構図にプラスα 獣に襲われるという図式が当たり前であるのだが、今回の道中獣達に襲われるという事は一度たりとも無かったのだ。
その事については話し合っている彼等の話を聞き流すだけにしておいた。
「私の所為で遭遇しません」などと誰が言えよう。
そんな事を言えば、シグルドさんに鼻で笑われて嘲笑された上で流されて終わりだと思われる。
それに、この世界で無くともヒトが動物達を動かす事が出来る事実は「異端」の一言に尽きるだろう。
その事実が知られても然程害の無いモノなのかどうなのか、判断が付かない間は公言する気は無い。
まぁ、そもそも害が全く無かろうが誰かに話す事はしないのだけれども。
他者に知られて重宝されるならまだいいが、それが嫌悪されるのであれば……運が悪い状況、最低最悪で2度目の死を迎える事も視野に入れて行動するべきなんだろうなぁ。
………ヒトは異なるコトには敏感だしね。
そんな事を思いながら、依頼受領書に無事依頼達成のサインを依頼者であるお貴族様の従者さんに頂き懐に受領書を収める様に見せかけてマントの中へ、ポイ。
「トール」
マントをゴソゴソと整えている私に柔らかな声でお呼びが掛かる。
後方からの呼びかけに頭を上げ、振り返りながら言葉を紡ぐ。振り向けば、ソコには穏やかな笑みを浮かべた声と同様に柔らかい雰囲気を醸し出す男性。
「……ファルマさん」
「今回の旅ではお疲れ様」
「いいえ、ファルマさん達こそお疲れ様です…そして、大したお役にも立てず申し訳ありません」
そう述べて頭を下げる。
事実、山賊のオジサマ方の感知に関してはまだいいのだが、あまり戦闘では役に立つ事がなかったのだ。
それで、何か言われても致し方ないと思う。
使用法は間違っている気もするが、この世界でも…というか何処に行っても基本的に働かざるモノ食うべからずである。
例え、それが何も解らず放り込まれた異世界人だったとしてもとても動けないような怪我や病気を患っていない限りは然り、だと思うのである。
まぁ、私の考えなのだが。
「いや、そんなことないよ?」
頭を下げている私にファルマさんは「頭を上げて?」と続けながら言う。
その言葉に言われるまま、素直に頭を上げれば目の前の彼はフードの上から私の頭を柔らかく2、3度撫でる。
「君のおかげで俺達は被害を出す事無く、ここまで来れたんだから」
「感謝こそすれ、君を役に立っていないとは誰も言わないよ」そう続けて言われた言葉に恐縮してしまう。
もともと其処まで大きくない身体をちぢこませながら「いえ、そんな事は全く持って…」そう言う呟きは語尾に向かえば向かう程小さくなっていく。
何分褒め(?)られる事には慣れておりませんので。
どう反応すべきか悩みマス。
「後…」
そう言ってファルマさんは身を屈めコソッと私に耳打ちする。
何となくその様子は悪戯をする様な愉しげな様子が見え隠れしていた。
「シグ、大人しかったでしょ?」
紡がれた言葉の意味を取りかねて首を傾げながらも、頷く。
そうなのだ、最初の襲撃を終えた後からシグルドサンは無言を貫いていたのである。
てっきり、襲撃前の様なのが続くと思っていたのだが………特に何かを言われるでも無く、きつい視線を向けられるでも無く。
役に立たなさ過ぎて呆れられたかねぇ…と、自分の使えなさにしょげていた所なのである。
「あれで君の事、認めてるんだよ」
続けられた言葉にあんぐりと口を開けて反応を返しかねていると、くすくすと愉しげに笑いながらファルマさんは「まぁ、最初に不躾な事しちゃってるからバツが悪くなってるだけだから」そう言う。
「はぁ」
突如として判明した事実に思考は回らずに気の抜けた言葉しか返せない私に、彼はその綺麗なお顔に笑みを浮かべて「ねぇ、俺達のトコに来ない?」そう囁いた。
「ドイウコトデスカ、ネ?」
紡がれた内容の突飛さに、そして目の前の彼の麗しさに、思考回路は半分以上機能していない状態で言葉を紡ぐ。
私が返した言葉に彼は首を少しだけ傾げて「チームへのスカウト、かな?」と茶目っ気たっぷりに楽しげに応えてくれる。
…………真面目な人かと思えば、そんなこたぁなかった。
とてつもなく喰えない人だ、この人。
心中でそんな事を思いながら口元に笑みを作り、断りの言葉を紡ぐ。
「申し訳ないのですけれども、一人旅の方が何分気楽ですので」
「そっか、残念だな……色々聞きたかったんだけどな」
そんな私の言葉に、至極残念そうに呟いた後爽やかな笑顔を浮かべて彼はそう言った。
何処で、そんな爽やかな笑顔する必要性があるんですか。
というか、爽やかさの中に微妙な黒さも混じってません……カ?
背を冷たい汗が伝う感覚に襲われながら、それでも心中を悟られる事の無い様に口の端を上げて言葉を紡ぐ。
「こちらこそ、折角お誘い頂いたのにお応え出来ずすいません……?、何を…ですかね?」
特に何も考えていないかの様に、首を傾げながら問い返す。
その様子にファルマさんは苦笑を零しながら「まぁ、詮索するのは無粋だしね」そう呟いた後「まぁ、気が向いたらアイオンに俺かシェラに繋ぎ取ってくれると嬉しいな」そんな事を言う。
「機会があれば取らせていただきます、ネ?」
「依頼も待ってるよ」
……………商売人魂(ではないのだろうけど)強いなぁ。
そんな事を思いながら「はい」と会釈し彼らから離れる。
どうやら、彼らは既に別の依頼も受けているらしく即座に次の行動へと移っていた。
こうして、私にとっての初めての旅(?)の移動は終わりを告げたワケだが。
「ドッと疲れたのは何でだろうねぇ」
そんな事をポツリと呟きながら宿を取る為に街中へと踏み出した。
ここで一端移動は終了となります。