10 何時の間にやら旅立ち[前]
壮絶な舌合戦の結末は私の言葉により中断された。
「で、その2代目の造った武具がなんでこの国に?」
素で素朴な疑問に首を傾げながらそう言葉を紡げば、黒銀の髪の少女はコホンと一度咳払いをし私の質問に答えてくれる。
何でこの子ファルには態度が悪いんだろう……あぁ、ファルが余計なコトを言ったからか。
先程の会話の流れを思い出して、納得する。
「2代目がご逝去後、私を含む幾つかが市場に流出したんですわ」
「……よく今まで残っていたな」
ファルが感心したように言えば、少女は苦笑を浮かべながら言う。
「私は見る方が見なければただの弓ですの そう見える様、施されております
正当な主の手に在って初めて本来の姿に見えるのだそうですわ」
「……………なんてーか、2代目は凄いヒトだったんだぁねぇ」
シミジミと呟いた後、「さっきも言っていたけど、鍛治屋さんで未来視とかも使えたんでしょ?」と言葉を続ければファルが「無意識に力を行使する其方も凄いと思うのだが」とか言ってるが、聞かなかったフリで。
だって、能力の行使なんて無意識でやってたら意味無いじゃん。
「えぇ、ファネル様は特に未来を視られる事に特化しておいでで数代先のお方が
どんな方かも視えてらしたんです…………それが、貴女様ですの」
「……えぇっと、こっちの未来では私が来る事は確定だった…ってこと?
いや、でもミュケーさん達は私が死ぬ事は本来なら無かった様な事を言って………」
彼女の言葉に私の思考はグルグルと渦を描く。
2代目の能力の未来視で私がわかっていたとするのであれば、私はミュケーさんに謀られた事になるんだろうかと頭を悩ませていればファルが口を開く。
「未来視とは砂漠の砂の一粒を取上げる様なモノ、可能性でしかない…………ただ、
ファネルは神よりも正確にその≪可能性≫を取上げる事が出来ただけの話だ」
神様よりその能力が高いって凄くない?…………そんで、大変そうだ 色んな事が。
「我や、3代目が先を視ても其方は見えなかったのだ……ファネルも己の力の精確さは
認識していたのだろう 事の重大さに、我にさえ言わずにこやつを用意したのだろうな」
そう言ってファルは彼女を見る。私も視線を彼女に向ける…私の為だけに先々代が造ってくれていた武具。そんな有り難い武具が居てくれたとは。
「私精一杯、貴女様におつかえしますのでお傍に置いて下さいませ」
涙を目じりに溜め、うるうるとした目(ぶっちゃけ上目遣い)の美少女に見上げられれば…陥落しないヒトなんているんですかーっと問いかけたい。
あぁ、もう可愛過ぎるよ…撫で繰り回したい。
自分の思考に苦笑を漏らしながら彼女に言葉を紡ぐ。
「貴方が必要だから私は貴方を手にした、私に力を貸して頂けるかな?」
「貴女様が望まれるのであれば………私は全てを射ぬくモノとなり、打ち払うモノとなりましょう」
そう私が言葉を言い、手を彼女へと差し出す。その手に彼女は嬉しそうにはにかみながら答え手を乗せる。
言ってる内容凄いけど。
「宜しくお願い致しますわ、我が主」
「宜しく…」
そう言って名を呼ぼうとして、はたと彼女の名を知らない事に気づく。
「名を伝えてもいなかったし、名を聞いてもいなかったね……ごめん
私は水江亨子、亨子が名で水江は家の名 この姿の時はトールで宜しく」
「御意に、トール様……折角名前を聞いて頂いたのに申し訳ないのですけれども、
私に名は無いのでございます」
申し訳なさそうに少女の口から語られるのは武具としては必然的な事。続けて「貴女様の為の武具なので、ファネル様からは頂戴しておりませんの…名を戴けるのであれば、貴女様に名づけて戴きたいのですが」そう懇願する仕草で言われれば断れないのがヘタレ。
あー…可愛いすぎるんだよぅ。
可愛らしい子に懇願されて、しかも内容は内容で一向に害の無いモノ………叶える事は造作も無いモノだったりする日には、負けるでしょう。
この可愛らしさは自分には真似出来ないなぁ、などと思いつつ言葉を紡ぐ。
「別に名を付けるのに異議は無いんだけれど、も…………どっちかって言うと私でいいの?
とか、確認取りたいですヨ」
「王が付けて下さるのが嬉しいんですのよ」
キラキラとした目で見つめられれば、考えざるを得ず。
…………ネーミングセンス皆無なんですが、宜しいのでしょうかねぇ。
ちらりほらりと先代の話を交えつつお話は進みます。