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世界は無常に満ちている  作者: 花井
第一章
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09 逃避行のはじまり、はじまり[中]

晴れた空の下、街中を歩くのは何処にでも売っている様な旅人用のマントを身に付けた者。




目深く被ったフードで顔を隠しているが見たところ齢14〜16あたりの様に見受けられた。

通りにあるカツラ屋に目を留めたのか、彼はその店のドアを臆することなく潜ったのだった。


「店主殿、此方は髪を買い取って頂けるのだろうか?」


その店の店主はそう静かに店に入るなり問いかけてきた人物をマジマジと見つめる。

旅人装束は良く見るが目深にフードをかぶり表情を隠している目の前の人物は明らかに怪しかった。

ただ、問いかける声音は物静かでありながら何処か逆らえぬ雰囲気を醸し出していた。


「…あ、あぁ 良質の髪であれば買い取るが」雰囲気に気おされながらそう応えれば、目の前の人物はマントの影から一束の髪の毛を出しカウンターに無造作に置いた。

その無造作に置かれた髪に店主は目を見開いた、その髪は今までに見たことの無い色の髪をしていたからだ。この世界で、黒に近しい髪を持つモノはそうそう存在しない。

コレまで見てきた髪も鮮やかなモノではあったがやはり、何処かで見たことのある髪色で。

だが、目の前に置かれたこの髪は今までに見たことの無い色をしていた。

より黒に近いが実際日にすかしてみれば濃い茶に変わる不思議な色合い。

しかも、枝毛も痛みも少ない……髪としては上級なモノに当たるだろう、長さ的には肩から腰にかけて位の長さだ。


「この髪は買い取って頂けるか?」


マジマジとカウンターに置かれた髪の検分を行っていれば、目の前の人物から声がかけられる。


「えぇ、これほど上質であれば………2セレで如何でしょうか」

「……………あぁ、それでいい 結構な値がつくのだな」


静かに人物が言葉を漏らす。

その間にも慎重に金庫を開けながら言葉を紡ぐ。


「この世界では、黒に近い髪色の人間はそうそうおりませんからなぁ

 しかも、状態の良いものですから……」


「それ相応の対価をお支払いすべきでしょう」そう言葉を続け鈍く輝く硬貨を二枚、差し出された褐色の手の上にのせる。目の前の人物は「そうか」と呟き、一人何かを納得したのか頷いた後、「邪魔をしてすまなかった」そう言ってドアの向こうへと消えた。



姿が消えたことでふぅっと息を吐く、たかだか歳のころ14、5の人物に何を此処まで緊張していたのかと首を捻る。

そう言えば、何処でこの髪を手に入れたのか聞き損ねたな…と先程まで話していた人物を思い出そうとして固まる。

彼がどんな服装で、どんな肌の色をしていたのか思い出せない(・・・・・・)のだ、服装に訝しんだ記憶もあれば肌の色に感心した記憶もある。だが、まるで其処だけ喰らわれたかの様に思い出せない。

あれは、白昼夢だったのだろうかと思うが手の中に残る髪だけがそれは夢ではないと知らしめていた。








「いやー…以外に良い値がついたねぇ」


「もっと、安いかと思ったんだが2セレにもなればめっけもんかな」そう楽しげに言葉を紡ぐ。

人目が無いことを確認し、目深く被っていたフードを掃う。

零れるのは翡翠色の髪、日に照らされ輝くのは薔薇色と呼ばれる色を持つ瞳…そして、その周囲を彩るのは褐色の滑らかな肌。


「リョーコ、折角の髪を売ってしまってよかったのか?」

「こーら、外ではトールと呼ぶようにいっただろ?」


私の言葉に心配そうに言うファルにカラカラと笑いながら注意を促す。


「む、すまぬ……以後気をつける」

「うむ、気をつけてくれたまえ  まぁ、髪はいいの……母さんの為に伸ばしてただけだし」


「手入れも面倒だったからね」と続ける。今の今まで其処にあった髪の重さが無いことに寂しさも感じるが今はこの身軽さが嬉しかった。


「しっかし、簡単に髪と目と肌を変えられるとは流石」


短くなった………そして、翡翠色になった髪を一房、手に取りそう呟けばファルが「相手がトールだからこそ出来るのだ」とそう言う。

彼曰く、世界が力を行使できる対象は世界自身に対してではなく他者に限られるらしい。

世界に属する個体等には有効らしいのだけれども……どうやら世界自身と世界の一部は異なるらしい。

そして、こういった髪や瞳、肌を変える魔術や魔法では効きを持続出来ずあまり有効でない…のだが、この身体はファルが与えてくれたモノであり、そしてバシレースの能力でオート持続が可能だからこそ…こうもうまく体現できているらしい。

まぁ、私自身の意志が突発的に絶たれた場合などは維持する為の力の供給が絶たれ、元の色に戻ってしまうらしいが。

ようはそんな危ない状況にならなければ良い話しなワケで。


「ぶちゃけ、危ないことをしなければいいわけだ」

「そういうことだな」


うむうむと頷くファルの頭を撫で、改めてフードを被りなおす。


「さて、そうそうにこの街から出る為の依頼ゲットしないとね」

「すぐさま、見つかるのか?」

「そこら当たりは、抜かり無し」


ニンマリと口元に笑みを受け、≪アイオン≫のピンブローチをマントの胸元に取り付ける。

ブローチにつけられた石の色は【紫】、街の外へと渡る仕事を請けられるようになるのは【橙】から、国外であれば【緋】ランクからとなる為今のランクであれば難なく依頼を受けることが出来るのだ。

熊さん達のおかげだわー。


「受け付けのおねーさんに我侭言って抑えてもらってるのがあるんだー」


そんなコトを良いながら街の≪アイオン≫へとスキップしながら向かうのだった。

髪は高く買い取っていただけました。

そして、外見大変身。


翡翠色に薔薇色…とても目に痛い色ということは突っ込まないでやって下さい(笑)

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