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世界は無常に満ちている  作者: 花井
第一章
14/43

08 初めてのお仕事[後]

ギリギリで対面衝突を回避する、が その動きと同時に他の熊達も動き出す。




「トールッ、雷を喚べ」

「む、むりっ……絶対、大穴あけるっ」

「ならば、腰の二振りは飾りかっ」


ファルに叱咤されながら、身に着けていた二振りのダガー手に持つ。

生まれてこの方扱った事のある刃物は包丁しかないですよーっ。

そんな絶叫を心中でしながら振り下ろされる熊の鋭い爪をダガーで流し、補正でどうにか怪我を負うことなく逃げ回る。

以前より上がった腕力、跳躍力、反射能力その他諸々が無ければ私は既に此処でもう一度死んでいただろう。

とんっと軽く地を蹴り二足立ちをしている3m越えの熊の頭上を軽々と越える。

一体の背後に回り、覚悟を決めて熊の身体にダガーを付き立てようとした瞬間、黒い靄が私に絡み付いた。

嫌悪感で無意識に眉間に皺を寄せる…………そして、口にしていた。


≪失せろ≫


黒い靄が私に触れた所から≪消失≫していく。あまりの予想外の事に固まっていれば4体の熊に絡まっていた靄は影も形も無くなっていた。

しかも、先程の凶暴さは靄の所為だったのか…それらを取り払った熊達はいきなり大人しくなった。

というよりは、本来はもともと大人しい気性だったのだろうか……凄く好意的になった。


「え、何……今の」

「トールが行ったんだろう」


驚いてそんな事を言うとファルが呆れたように「何を言っているんだ」と言う。

えー…私、何もしてねぇよ?

アレが生理的にとても受け付けなかっただけなんだが。

そんな感じで呆然としていると「王、ありがとう」一番の巨体がそう言いながら擦り寄ってくる。

うぉう、ちょっと待て。まだ、私は刃物片付けてないからっ。

いそいそとダガーを仕舞い、擦り寄ってくる熊達の毛並みを撫でてやる。そうすると嬉しそうに彼らは身体を摺り寄せてきた。

かわえぇ。

はっ、まったり癒されてるわけじゃないのデスヨ。


「キミ等は忌石の所為であんな感じになったの?」

「……キセキ?あの石をそう言うのであればそうだ」

「場所を教えて貰っていいかい?……ソレはキミ等もヒトも森も不幸にしてしまう」


さっきのあんな状態の動物達が増えれば森は荒れ、人が動物や森を傷つけるだろう。

ソレを予想していながら放置することは出来なかった。

其処まで非情ではないのです、私。

何分さっきの状況から察するには、私が拒絶すると消えるっぽいのでどうにか此処から引き離すことが出来るだろうと踏んでいる。

ファルが言うには、あるのは欠片だって言ってたしね。

こっち、と案内してくれる熊達に囲まれながら欠片が存在する場所に向かう。





其処は風は淀み、草木は弱り、土は腐っていた。

隕石の欠片である忌石……それも極々小さく小指の先程しかないソレが埋まっている場所は荒地と化していた。

動物達は5m以上離れた場所で心配そうに様子を見ている。


「………このサイズでこの影響力って忌石ってえげつくね?」

「コレだけで済めばマシな方だ」

「そういや、ファルさん以前もこんな事あったんだっけ……一種の病気?」

「かもしれんな」


そんな会話をしながら忌石に手を伸ばす、まるで抵抗するように石から靄が湧き出てくるが邪魔なんで叩き落とせば簡単に≪消失≫した。

そして、私の指先が忌石に触れればまるで世界を呪うかの様な暗澹とした色から白っぽい灰色へと変化を遂げた。


「あれ?…嫌悪感が亡くな…………った」


つんつんと忌石だった石をつつきながら危険が無いことを確認して拾い上げる。

じっくりと穴が開きそうな程見つめても先程まで気味の悪い靄を吐き出していた石は、ただの変哲の無い石のまま。


「流石だな…リョーコにはアレを掃う力も在ったのか」

「え、バシレースの力じゃないの?」

「我がニュスに定めたといっても、能力は魂の持つ性質に左右される」


「だから我も全ての能力を知っているわけではない」そうファルは続けた。

ふむ……力を与えるには与えたがどんな能力になるかは魂の素質次第ということらしい。


「………私も救済の旅に出た方がいい?」

「解らぬ、その旅はヒトとの関わりは外せぬ この度の様に動物達だけであればいいが、

 リョーコの力は≪浄化≫や≪祓い清める≫ではなく≪失くす≫≪喰らう≫という質のモノ

 ソレをヒトが認めるか忌むかは……………また別だ」

「デスヨネー……って≪失くす≫は解るけど≪喰らう≫って何さ」

「我には先刻のアレはリョーコが喰らっているように見えた」

「………総じて≪掃う≫に纏めておいて、哀しくなるから」

「わかった」


がっくりと落ち込んでいる私の頭をファルがよしよしと慰めてくれる。

ありがと…………でも、落ち込ませたのはキミデスヨ。

忌石の気配がなくなったのを感じたのか動物達が寄ってくる。感じられる好意と感謝がこそばゆかった。





一息ついて、さて街へ戻るかと顔を上げれば視界に入るは忌石の所為で荒れてしまった土地。

忌石が埋まって居た場所を柔らかく撫でながらポツリと「ごめん」それだけ呟く。

別に私が悪いわけではない、ソレは理解している。

でも、気づくのがもう少し早ければ……世界(ファルディカーレ)の傷は少なくて済んだのではないかと思ってしまう。

それは傲慢にも等しい考えだというのも解っているのだ、自分が居ない場所で私がどうこうできるワケも無いのに。

それでも……傷ついた土地が精霊が動物達が木々達が見えるから声が聞こえるから、彼等を愛しく思う心があるから何も出来ないことを悔しく思うのだ。

そして、瞼を閉じ無意識に行動を取っていた。

荒れた大地に傅くように口付けを贈る、ソレはヒトに贈る呪い(まじない)と同じ「早く良くなりますように」という気持ちを表す術。


「リョーコ、目を開けろ」


ファルの言葉に伏せていた瞼を上げ、顔を上げる。


「なっ」


目の前に広がっていたのは先程までの荒地ではなく生き生きと生きる大地。

空気は清浄なものへと変わり、草木は瑞々しく生い茂るそんな風景が広がっている。


「なななななな」

「リョーコがやったんだぞ」


呆れた視線を私に投げかけながらファルは「リョーコが力を分け与えたからだ」と言う。

ごめん、私は自分が何かやった気がしない。

だって、自己満足しかやってないよっ!!ただの呪いだよ!?


「だが、事実リョーコが此処を再生させたんだ………ありがとう」


嬉しそうに笑む彼を、擦り寄る動物達に私の心は救われる。精霊達が嬉しそうに踊るその様子に、何かできたのならいいかと思い私も笑みを零す。

一頻り、落ち着きを取り戻し腰を上げる。


「あ、そういえば 人食い熊騒動は治まったんだが………依頼書どうするか」







≪アイオン≫に依頼の終了を伝えに行った頃には既に日は赤く熟れていた。


因みにプルプランクの人食い熊の依頼は熊さん達の伸びた爪を4体分を切らせて貰って、一応撃退しましたーと申告し取り下げてもらった。

だって、大人しくなった熊さん達を無闇に傷つけたくないしね。

出来る対処はして置くべきでしょう。


そしていつの間にか報奨金がその依頼分も含まれてたり、ランクが【紫】まで引き上げられてた事実に首を捻る嵌めになったの言うまでもない。

何時になったら動き出すんだろう。

そして、相変わらずバシレースは色々と謎のまま。

というよりはトーコさんの魂が謎?

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