表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Andvaranautr

作者: 水無飛沫

「Sigrdrífa」(https://ncode.syosetu.com/n5072ip/)の後日譚です


それからは本当に生きる気力が消えてしまって……ヴァルキュリャであることを辞めました。

炎に囲まれた城(フリュムダル)に引きこもって、あなたから貰った指輪を眺めては、あなたと過ごした日々を想う日々でありました。

数多の求婚者を断るのにも飽きてしまったものだから、

「この炎を乗り越えてきた勇士とならば結婚しましょう」

ついそう言ってしまったの。

だって、そんなことができるのはシグルズ以外にはいないでしょう?

あなたが世に轟かせるであろう武勲と、あなたがこれから手に入れるであろう幸せのことだけを考えて、せめてあなたの邪魔をしないように生きていこうと思っていたの。

……そう、思っていたのよ。


けれど、あなたは私の前に再び現れた。

あなたは姿も形も偽っていたけれど、その太陽のような瞳を忘れるわけがないじゃないですか。

この城の炎を怯まずに飛び越えられるのは、世界広しと言えどもグラニ(あなたの馬)だけですし、

この城の炎を切り払えるのも、グラム(あなたの剣)しかありえません。


膝をついてあなたは言いました。

――自分はギューギ王の長男グンナルである。あなたに結婚を申し込みに来ました、と。


その時の私の気持ちを、誰かに理解してもらおうなどと思いません。

愛しさと憎しみと怒りを――あぁ、どのように言葉にしたものでしょうか。

あなたは別の女と結婚しただけでなく、よりにもよって、私を誰かの女にするためにここに来たと言うのです。


私は――ブズリの娘はここまで辱められて、おめおめと泣くような女ではございません。

剣を手に取って、彼に付きつけます。

「私を妻にするからには、この世界の誰よりも強い証を見せなさい。さもなければ、私の亡骸を妻となしなさい」

彼は少し困ったような顔をすると、

「けれどあなたの義父の許しは得ている。それに、それはあなた自身の言葉とも違う」

そんなことを言われては私も剣を降ろすしかないじゃない。


それから、二人だけのささやかな婚儀が行われた。

三つの夜をあなたと同じ(しとね)で過ごした。

けれど、昔とは違って、あなたは私たちの間に抜身の剣を置いていたわね。

それはグンナルへと忠誠なんでしょうけど、私にとっては死刑宣告のようなものだったわ。


それからね、これだけは本当に許せないのだけれど、

あなた、私が寝ている間に、大切な指輪(アンドヴァラナウト)を、抜き取ったわね。


ギューギの妻グリームヒルドは愛娘グズルーンをシグルズに嫁がせるため、あなたから私に関する記憶を魔術で消した。

それはいい。シグルズは悪くないもの。

私が諦めればいいだけ。


けど、じゃあ、なんで。

どうしてあなたが私に贈った指輪のことを覚えているのよ。

どうしてグンナルなんかのために、私に求婚に来たのよ。


この三日、一緒にいる間に私のことを思い出してくれたなら、そう言ってくれればいいじゃない。

私のことを愛してるって言ってくれれば、ずっとここで一緒にいられるのに!


わかってる。わかってるわよ。

そんなことをしたら、あなたはせっかく手に入れた名声を失うことになる。

可愛い奥さんも失っちゃうしね!

私だってそんなことを望んでるわけじゃない。


けど、じゃあ私は誰を恨めばいいのよ。

私を忘れるように仕向けたグリームヒルド?

あなたと結婚した幸せなグズルーン?

私を妻にしたいと言ったグンナル?

私を忘れたあなた?

私を忘れているフリをし続けるあなた?


この城と一緒。私の心はまるで炎の中にいるみたい。

ぐるぐると渦巻く恨みと怒りが、私を苦しめ続ける。


けれど、私とて元はヴァルキュリャとして戦場を駆けた者。

女々しい恨み言は口には出すまい。

自らの誓約は違えますまい。


運命が変えられないことは初めからわかっていました。

あなたが私を愛してくれないのなら、私も覚悟を決めましょう。




私はギューギの息子、グンナルの妻になります。




……あとは彼が誉れ高い武人であることを祈るばかりです。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ