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団白虚録  作者: やんだやん
小学生
5/28

小学5年生 夏休み2

夏休みの終盤、いよいよというのかやれやれと言いたい気分だが、4人で遊ぶ日がやってきた。


今日も日差しが怒りの業火となって降り注ぐような晴れである。駅前で待ち合わせをするということで、いつもの様に暑くなりきらないうちに家を出る。


駅前の本屋など屋内で少し時間を潰し、火照った体も涼ませていただく。やはりクーラーはいいね〜人間の生みだした文化の極みだよ。

トーテムポールで鼻歌交じりにそんなことを言いたい気分になりながらも何となく本屋を歩く。


最近は何となく漫画も読む機会が減っていた。

とはいえ、こんなところまで来て勉強の本も見たくないしと、週刊誌のあるあたりを何となく立ち読みする。


中学生か〜自分は何も変わっていないのに年齢という時間的要素だけで叩きつけられる選択肢に私は戸惑っている。将来なんてわかんないよ。

昔はケーキ屋さんになりたいとか、お花屋さんが可愛いとかアホみたいな事も言っていたけど、そんなこと言ってる歳でも無くなったなーと、小学生ながらに達観してみせる。


雑誌に出てくる人たち一人一人が中学高校を出て、自分の職業を選択し、今働いているという事が全て凄いことに思え、自分の人生に一抹の不安を覚えてしまう。まだあわてる時間ではないとは分かっていながらも、ぼんやりとした未来を怖いと思ってしまう。



「頭が良ければ、こんな悩みもないのかなー」



そんな独り言を額の汗とともに垂れ流していると、視界の端でチラッと何かが認識された。


あ、あいつ。

今は勉強奴隷をしている未来の皇帝出来杉カイザーではないか。早くこんな世界から勉強の悩みを無くすべく奴隷革命を起こしてはくれまいか?

と言っても、彼は高みから下界を見下ろす貴族側な気もしないでもないが………

頭がいいのに奴隷の様に勉強してるって意味わかんないよ………追いつけないじゃん。


そんなことを考えながら、雑誌を読むふりをしながら動向を探る。

まぁ私と同じく涼みにきたのかなー

であれば、待ち合わせまではスルーしとくか。


そんな事を考えながら何となく目で追った。

彼の行く先は参考書のコーナーであった。


おいおいおいおい!!!

健全な小学生であれば、18禁コーナー付近の興味もない資格の本とか手に取るフリして、チラチラ18禁コーナーを覗くなり、おっぱいお姉さんがたくさん載ってる週刊誌の隣の本を読むフリするなり、もっと面白い行動や人として為すべきことがあるだろ!!!


それはむしろ私ですら興味津々であった。

おっぱいってすごい。私も今からああなる可能性あるの?ないか。人間理不尽。滅びよ。


そんな私の中のおっさんが邪な事を考えている間に、彼は更に知能をつけようというのか。許せない。そう思って私は参考書コーナーへ歩みを寄せる。



▼▼▼▼▼▼



しかし、葵の話では特進クラスたる彼は、もう小学校の範囲が終わったとか、塾でやったとか言ってなかったか?今更何を………?

そんな事を思いながら、こっそりとバレないように覗き込むと、彼は当たり前のように中学生向けの本を読んでいた。あれはどうやら英語というやつだ。


一瞬、理解が追いつかなかった。

え、なんで?これ、違う人?本当は中学生とか?

私の中での常識が塗り替えられていく。


私の中で勉強は塾や学校で受けるもの。自分の家でやるにしてもその予習復習程度。

それをあなたはまだ誰にも何も教わっていない英語に手をつけようというのかい!?

このゆとり世代代表のような私達の世代でどうしてそんなことを思うんだ!?


そんなのズルじゃん!自分からもっと先の事を勉強するなんて事をしていいのか……


正直、思いつきもしなかった。

私が驚きながら、無用心に近づいていくと、彼はふっとこちらに気が付いた。



「あんた……それ、中学の………」


「あぁ……英語だね。今のうちから勉強したいなと思って」


「そんなの中学生じゃないと無理に決まってるじゃん!まだ小5だよ!?私たち!」


「いや、でも………ほら、海外では3歳児でも分かるものでしょ?

言語なんてやれば誰だって出来るんじゃない?」


またしても私の中で常識が更新されていく。

言語か……そうかこれは勉強では無いのか……

アメリカで日本語の本を手にとる人が居たとしても、私たちからすればそれは何歳の人でも関係ないし、違和感もない。


そう思えば、彼の言う事は真っ当であった。

正しいからこそ、彼が正しいからこそ反論したくなる。直前までその正しさに気が付けなかった惨めな自分を否定するように彼を否定したくなる。



「でも、そんな出来るわけないじゃん!」


「うーん、まぁ確かにね〜。他の英語の本も見たけど、文法とかなんとか勉強ぽくって分かりにくいよね〜」



えっ、この人でも分からないんですか???

じゃあ、あたしも尚更分からないのでは???



「でも、日本語を覚えた時はそんなこと考えなかったし、なんなら無意識だしね。

英語に触れて単語の意味が分かれば、後は何となくだよ。

それこそ文法なんて中学生になってからでもいいかもね」



そうやって彼は笑いながら本を戻した。

私が呆けた顔で英語の本を凝視する。



「そろそろ待ち合わせだね。先に行ってるね。」



そう言い残して彼はその場を去った。



私はしばらく逡巡し、英語の入門書を手に取った。小学生でも分かると書いてあるもっともっと分かりやすい小児向けの本である。


彼でもまだよく分からない………逆に考えればスタートラインは同じ。

海外では3歳児でもわかる………

私はこの日から英語を勉強しようと心に誓った。だから、親父よ金をくれ。



▼▼▼▼▼▼



その日の遊びは、まぁまぁ楽しめた。

茜や葵が彼を挟んでドギマギしながら歩き、私は後ろをついて行く。

しかし、彼は私にもちょいちょい話を振って一人ぼっちにはさせなかった。


水族館に行って分かったことは、イルカさんとペンギンはやはり可愛い。

水族館の後はご飯を食べ、軽くゲーセンで遊びプリクラなんかも撮って夕方には解散した。


茜と葵は楽しそうだったし、皇帝ペンギンカイザーくんも楽しそうだったので良かったな〜と思いつつ、私は頭のどこかでずっと英語や勉強、はたまた将来のことを考えていた。


そして帰って親に英語の入門書を買って欲しいと相談をする。

親は自分の子供がどこかで宇宙人と入れ替わって来たのではないかと怪訝な顔をする。

最近は部屋で勉強までして……嬉しい半面急すぎて戸惑いを隠せない両親。


あたしの頭がおかしくなったのかしら……と確認する母。

夢じゃないか?と言ってくる親父。

気付薬が必要なら、2人まとめて親父の靴下の餌食にしてやろうか?なぁに安心したまえ、靴下というのは二本一組だからな。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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