小学5年生 夏の始まり
そんな仇敵の一挙手一投足で彼女たちが盛り上がりを見せるのもお決まりなった夏。
「あ、よろしく」
「どうも」
ぶっきらぼうにそう答えた彼が、席替えで隣の席になってしまった。
確かに勉強は出来るようだ。私が頭をこねくり回している間もスラスラと問題を解いて、終われば静かに待っている。
えっ!?今、こっち見た!?と思って視線をやると合わない。外を見ていたようだ。
むしろ、私が急に振り向いたことで目が合ってしまう始末。
凄い。横から見ても正面から見てもイラつく。
そのすました顔に親父の靴下を叩きつけたい衝動に駆られていた時、彼は口を動かした。
「ここの計算間違っているよ」
私がフェルマーの最終定理でもこんなに難しくないだろ!と思いながら解いていた問題は、2×4=6という序盤の計算ミスを直すと、とても綺麗な値が導き出されてきた。
「あ、あ…………rgato」
凄くネイティブなお礼が出た。
彼はクスッと笑って
「どういたしまして。それより急に振り向いたけど、何かあった?」
やめろやめろ。お前と話したくて振り向いたんじゃないんだからね!!!いや、これだと話したいみたいじゃないか……
「いや、別に………外を見てたの?」
「うーん?そう?かも?」
なんだこいつ優柔不断不思議ちゃん系男子かよ。需要はない。今すぐ滅びろ。
あ、いや、私のすぐ近くに2人くらい需要あったか?
「頭良いらしいね?勉強好きなの?」
なぜ私は会話に花を咲かせているんだ?
自分でも不思議に思いながら、特に考えることなく言葉を紡いでいく。
「うん。そうだね。好きかもしれない。皇帝になりたいしね。」
なんだこいつもバカか。
突然の皇帝宣言に私はやはりこいつに反旗を翻すことを心に決めた。
▼▼▼▼▼▼
「ちょっとちょっと!白ちゃんずるい〜!!!隣になっただけでも豪運なのに!!!楽しそうに話してたでしょ!!!!えええーーーん!!!白ちゃんが不倫したーー!!」
知らない間に私は茜と世帯を持っていたらしい。
というか、先に浮ついていたのはそっちだろうに。ドラマを見すぎて、たまに茜はフィールド魔法修羅場を発動する。
「えーーー!隣の席なのー!!!!いいな〜私もまだ塾で隣に座ったことないのにー」
「その言い方だと、話したりはするんじゃないの?」
「んーーーー?挨拶くらい?えへへ?」
「がーーん!葵も裏切ったー!」
2人が今日も楽しそうで何よりである。
今のところ、あのカイザーボーイの良さは私には全くワカリマセーン。
しかし、別に意地悪でも悪いやつでもないという事は伝わってきた。
ただ、もう1人の僕とか突然出てくる可能性がありそうだなとも思った。
その時は、茜を城之内くんとして召喚してターンエンドしような。
「もうすぐ夏休みだしさ、遊びに誘えたりしないかなー」
城之内くんが突然、滅びのバーストストリームを放ってきた。お前には真紅の黒竜がおるやろがい!
「誘ってみれば?」
私はぶっきらぼうに、関係ありませんという空気を出しながらそう言った。
「そこはさ、ほら?隣の席の方が誘いやすいんじゃん?」
「えー!いいじゃんいいじゃん!絶対来るよー!」
城之内くんに便乗するお前は本田くんか?
友情に厚いはずの2人が、友達を生贄にカイザーボーイを召喚しようとしている。
「いや、私は全然興味無いんだけど…………」
「ほら、そこは心の友でしょ????」
城之内くんがジャイアンになっちゃった。
「白ちゃんは着いてくるだけでも楽しいからさ!きっと!」
本田くんもとい、スネ夫が何か言っている。それ、絶対私いらないじゃんね?
とはいえ、のび太くんたる私は、特に断る理由もないので誘うくらいならいいか?と思い、とりあえず、聞くだけ聞くという話で落ち着いた。
しかし、待てよ?果たしてこの出来杉カイザー団長くんは、茜と葵を認識しているのか?
席に戻ったあと、出来杉皇帝くんに尋ねてみる。
「ねぇ、茜と葵って知り合い?」
「ん?……あぁ白花さんの友達の2人だよね?」
気安く私の名を呼ぶな。突然名前を呼ばれて、反発するように特大の悪態を心中でつく。私の中の白花が黒花へと染まっていく。
というか、なんで私の友達を知ってるの?きもっ。
「話したことあったりする?」
「茜さんは、なんかたまに目が合うくらいだけど、クラスメイトだから知ってるよ。葵さんも塾が一緒だから、たまに話すかな。」
なんだか大人びてさん付けで呼んでくることにすら、苛立ちを覚える。この出来杉カイザーくんは私を苛立たせることにおいては、天賦の才があるようだ。
それこそ、皇帝の器だと認定してやろう。ガハハ。
「ふーん、そうなんだ。夏休み私たちと遊ばない?」
ちょっと待て。なんで私が主体でナンパしてるんだ?それこそ私は行かなくてもいいのに、言葉の弾みで私たちと言ってしまった。
「別にいいよ。」
そう言って、彼は家の電話番号を教えてくれた。
「あ、ありがとう。そのうち連絡するね。」
「うん。7月はハワイに行くから、8月以降ならいると思う。」
「あっそ」
その情報いらないから。
凄くマウントを取られた気がして、私は足早に席を立つ。教室の外でニヤニヤしながら、行く末を見守るジャイアンとスネ夫の元に歩み寄る。
「どうだった!?どうだった???」
のび太を咎めるがごとく、2人がすごい勢いで覆いかぶさって聞いてきた。なんだかいつもより大っきく見えますね。
「あ、うん。一応、いいよって」
「「やったー!!!!イッヒーーー!」ワッホーー!」
ジャイアンとスネ夫が奇声をあげる。
私の親友2人は、どうやら野生に帰ってしまったようだ。
しかし、私は何故か彼から貰った連絡先は開示せず、自分のポケットでクシャクシャになるほど握りしめていた。
ま、まぁ一応個人情報だしね???
そう言い聞かせる私は鼓動を少し早くするのであった。
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