高1 夏休み 海
「夏といえばー!海だぁぁぁぁー!やっほーーー!!!」
いつも冷静な翠ちゃんが文脈も何も訳も分からない言葉を叫びながら、海へと帰っていった。
紅葉は、日焼けダメ絶対みたいな格好で、パーカーを羽織り、パラソルを立てて、グラサン麦わら帽子で、ビーチに巣食う愚かな男を誘う食人花と成り果てた。
スタイル良くて童顔な彼女がこんな所に落ちていたら、ほっとく男の方が少ないだろう。
私はそう思いながら、とりあえず暑いので、涼むべく翠ちゃんの後を追って海へと向かった。
事の発端は、翠ちゃんだ。
定期的に勉強会を開いて、お互いに教えたり自習したりする日々を送っていたが、
「海に行かないと私は死ぬ体なんだ」
と、突然真剣な面持ちで海坊主であることを暴露した。
「白ちゃんとか、海行かなそうだよね〜」
と、紅葉が的確な指摘をしてきた。
「最後に行ったのは、小学生だと思う………」
「海、行かないと死んじゃうよ!?」
と、海坊主が仲間を増やそうと海面から出てきて、私の腕を掴む。
「いや、泳げないから、むしろ行ったら死ぬよ」
と、私がカナヅチを告白したことで今度は紅葉が半魚人かと言わんばかりに、
「泳げないとほんとに死んじゃうから、今のうちに泳げるまで溺れよっか〜」
と、意味のわからない理屈で私を海へと誘いだした。いや、普通に怖いんですけど!?
そう言って2人に言われるがまま、私は海に来てしまった。水着とか授業もいつも見学してたから、本当に久しぶりだなぁ………
割とこうやって2人のテンションに巻き込まれて、何かをする事は多いというか、日常茶飯事だ。
翠ちゃんは、いつもクールなのに突然の謎理論でタコパしないと死ぬとか、流しそうめんの実験しなきゃとか、春からの短い期間だけでも色々な突然をプレゼントしてくれた。
でも、それは季節感やタイミングも合っている事が多く、割と今を全速力で楽しんでいる結果ということで、やると本当に楽しい。無駄に細部にこだわりたがるおかげで、私一人では見られない様な景色にも連れていってくれる。
紅葉は紅葉で、その悪ノリを否定したりせず、のほほんと便乗して、たまに意味不明な設定をつけて、イベントにフレーバーを付けてもくれるし、割と美味しいところもかっさらって行く。
今もきっと後ろのあの人だかりは、紅葉に群がるハエもとい男どもなんだろうな。
可哀想に。それはそこに生えているように見えるけど、高嶺の花だし、なんなら花だと思ったらモンスターだからね。
あんな顔してそつ無くこなし、トラブルになることも無く、自分を安売りすることも無く、満足したら霧のように消えている。
葵と似た系統、主に雰囲気と胸が、だとは思うんだけど、やっぱり忍者の末裔なのかな。甲賀かな?こういう話好きそうだな紅葉。今度聞いてみよう。
なんてアホなことを考えながら、私は波がちょうど足に当たるくらいの波打ち際で、海坊主の生態を眺めていた。
「本当に不思議な2人だよな〜海とかさすがに楽しめないかとは思ったけど、来てみるとまぁ悪くは無いかな」
そんな独り言を呟いていたら、海坊主の姿が見えなくなっていた。
遠くに行ったのかな?そう思った瞬間、目の前から海藻まみれの翠ちゃんによく似た海坊主に足を掴まれ、悲鳴をあげて慌てているうちに、今度は後ろからも脇を抱えられ、視界がその豊満なビッグサンダーマウンテン×2で遮られた。
完全に身動きが出来ないながらも、これはこれはおじさん至福です〜!!!なんて考えている余裕もなく、
「ちょっ!!!!あんたらっ!!!!」
「はいーー大きく息を吸ってーーー!!!」
心無しか翠ちゃんがどっかのマウスの様な裏声で指示を出す。夢の世界へ行こう!とか言い出す気か!?
私は慌てているせいで何を言われているのかは分からないが、この後起こることは予想がついた。
「ちょっ!!!まっ!!!!」
「「せーの!!!!!」」
ザボーーーーーーン!
予想がついただけに、さらに慌てる私の心情とは裏腹に、ゆったりと振り子運動する私の体は、スローモーションに感じる世界の中で、掛け声とともにスプラッシュマウンテンするのであった。
そのまま海へ投げ込まれた私は、足の着く浅瀬で息を止めるのに必死になっていた。
落ち着け!落ち着け!落ち着け!息を止めていればとりあえず大丈夫!!!
落ち着き払ったフリをして、足がつくことにも気が付かず、目を閉じ、口と鼻を必死に押さえていた。
そして、長い間そうしていたと感じるほどの2秒を経て、私は少しずつ目を開けた。
割と本当に危ない。
人間はパニックに陥ると本当に危ない。
私が冷静でよかった。
サバンナでも同じこと出来んの?
そう2人に文句を言いながら、開けた瞳は人生で初めて海の中の景色を捉えた。
決して綺麗とは言い難いその海中の景色に私は心を奪われた。
すごい。何が凄いのかわは分からないがすごいと思った。
決して神秘的でもないし、画像では見たこともあるはずのその景色に心を奪われた。
あの2人はやっぱり私を知らないところに連れてきてくれる。そうして、口を閉じるのも忘れて呆けていた私は息苦しさを感じ、海面から姿を表した。
「ぷはっ!!!!」
「あっはっはー!」
「あははー白ちゃんかわいいー」
そんな風に笑いあっている海坊主と妖怪男荒らしであったが、私が何をしてくるのか想像できたようで、少しずつ笑みから困り顔へと変わっていくのであった。
当然、私は前髪を垂らしたまま、2人へユラユラと近づき、海坊主二世としてこの2人を海の底へ沈めんとするのであった。
なんだ、海、楽しいじゃん。泳げないけど。
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