再会
玲が次に見たのは軍服少年のページだった。
登録名 光山イツキ
年齢14歳 身長 155cm
ホールにいた人間の感じを見れば、おそらく最年少だろう。人形のように整った容姿の少年だ。髪の金色も、肌の白さも、どこか作り物めいている。
そして彼にはやはり兄妹がいるらしい。名前は光山 ナツキ。年齢も苗字も同じことから双子であることが濃厚だろうか。
そして肝心の【悪の定義】。
まずはイツキ。
・光山イツキに逆らった者
・光山ナツキに攻撃を仕掛けた者
まさかの超俺様定義である。
こいつに土下座しろと言われて断ったら、悪人にされるってことだろう。
それはそれでなかなか厄介だなと、玲は後ろ頭を掻いた。
続いてナツキの方はと言うと、こちらはこちらで兄妹至上主義みたいな定義である。
・ 光山イツキが悪とした者
・ 光山ナツキに攻撃を仕掛けた者
つまりイツキに逆らえば、ナツキにまで攻撃対象にされてしまうということだ。あの2人が離れて行動する姿は正直想像し難いし、相手取る場合は2人同時と考えた方がいいだろう。
ただこの内容だと、ナツキはイツキは逆らえないことになるが、そこは2人で許容したのだろうかと疑問も浮かぶ。
仲違いしたら一発アウトとも考えられるが、それは一度横に置いておくことにした。
次に調べたのは髪で片目を隠した男のこと。
登録名 ジン
年齢28歳 身長186cm
そして彼の【悪の定義】も、
・人間
だった。
こいつもか、と玲は思う。
ホールで見た時は、黒井と違ってあまり狂気的なものは感じなかった。ただまあ、見かけだけで判断するわけにもいかない。
存在のプレッシャーなら、決して黒井にも劣らなかった。
警戒しておいて損はないと、玲は強くスマホを握った。
さて、特定タグを持っていることが判明しているプレイヤーはあと1人。ただ彼については初めから名前がわかっているため、データを探すのにそう時間はかからなかった。
「……俺と似たようなもんか」
ページの定義を見て、玲がそんな感想を呟いていたその時、
ーー ドン!!!
と凄まじい音が周囲に響いた。
慌てて立ち上がれば、すでに割れていた窓から何かが転がり込んで来ている。玲は静かにスマホをパーカーのポケットに収め、腰に差していたナイフに手を掛けた。
柄を握ったのはシースナイフ。折りたたみ式なんかとは違って、鞘に収めて持ち運ぶタイプのナイフだ。
刃は片方にしかなく、一番使い慣れた愛刀でもある。
切る直前にスマホで確認したが、ゲーム開始まであと15分は残っている。
開始前の攻撃はゲームオーバー扱いとなるため、まだナイフを抜くことはしない。
「いっ、たたた………」
埃が舞う中に見えたのは覚えのある金髪だった。くすんだそれと間抜けな声を聞いてもなお、玲はナイフは握ったまま。 柄を手から離すことはしない。
「あれ? 人……って」
そう言ってこちらを見た男は、目を見開いて驚いた顔をする。だが玲の手がナイフに伸びているのを見て、焦ったように制止のポーズをとりはじめた。
「まっ、まって! オレ攻撃するつもりないから!」
当たり前だ。こっちにだってない。
「…………」
「いっ、いやー……さっきぶり?」
ーーアホなのか、こいつ。
片手を上げて苦笑いする火狩に、玲はそんな感想を抱いた。
ここはビルの4階である。
地上から窓に飛び込めるはずがないので、おそらく隣のビルから移って来たのだろう。さっきまでの自分と同じように。
ただそれができるのは身体能力に自信がある人間の特権だ。でも火狩はおそらくそうじゃない。
「……大丈夫なのか? お前」
玲は尋ねた。
結構派手に突っ込んで来た上に、床には割れたガラスが散乱していた。怪我をしていてもおかしくはない。
「へーきへーき! 怪我とか全然ないよ!」
しかし予想を裏切って、火狩はへらへらと明るく言い放った。よく見れば、彼の掌、身体、どこに目を向けても本当に傷一つない。
どうなってんだこいつ、と思い、玲はジトリと目を細めた。
「いやー、驚かせてごめん。
なんかずーっと見られてる感じ? 視線? みたいなん感じてさ。なんとなーく危ない気がして、相手の撹乱のために隣のビルの屋上から跳んだは良いんだけど、ジャンプ力全然足りなくて。結局4階に着地しちゃった」
なんて呑気に頭を掻きながら火狩は言う。
童顔なせいか、服装がガキっぽいせいなのか。まるで同い年とは思えない。
「下手したら死んでたぞ」
「へへっ、さっきも言ったでしょ! オレ昔っから運だけは超絶良いから」
つまり、自分の運などという不確実なものを頼って、ビルの上から跳んだ、とでも言いたいのだろうか。
ゲーム開始前に自殺未遂もいいところである。
だが考えてみればこの男、分配フェーズの時もろくにモニターを見ていなかった癖に、それでもタグを当ててしまった。
もしかしたら初めから、タグは当たると信じていたから、モニターを見ようともしなかったのかもしれない。
本当にそうなら、まさしく馬鹿げたラッキーボーイだ。
玲は無意識にため息を吐いた。