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悪人の定義  作者: 黒兎
始動
5/39

選ばれたもの


 数人が言い当てを終えると、今度は誰も動かなくなった。


 あてずっぽうで行っても特定タグは当たらない。ならば自分の運に任せて、特定タグが当たるのを願う方がいい。

 下手に動いてタグ1枚で始まるよりはマシだと、多くのプレイヤーがそう考えた結果なのだろう。


 だがしばらくすると、そんな空気をぶち壊す声が、すぐ隣から聞こえてくる。


「はーい!」


 やたらと明るく元気な声は、ずっと玲の横にいた少年から発せられたものだった。


「お前……」


 玲は驚いて火狩を見下ろす。


「へへっ、大丈夫。オレって運だけは超絶いいんだ!」


 彼はそう言うと、すぐさまステージに駆け上がって行った。そうして壇上にたどり着くと、そこに置かれたこのホールで最も大きなモニターに目を向ける。


「うーん……」


 かと思えば、火狩は顎あたりに手を当てて考える素振りを見せ始めた。それはまさに、絵に描いたような考えるポーズ。


 しかも近くに御堂のマイクがあるからだろう。「どれにしよっかなー」なんて、気の抜けた声が微かに会場に響いてきている。


「あいつバカだろ」


 そんな嘲笑混じりの声が、いたるところから聞こえてきていた。


 実際、玲もそう思った。ただそれは別に、火狩の台詞だけで判断した故ではない。

 シャッフルがおこなわれる際、玲はモニターを見る視界の端で火狩の動きを捉えていた。だからこそ、そう思わざるを得ないのだ。


 玲が見る限り、火狩はシャッフルの間、一切モニターを見ていなかった。なぜかは知らない。でもとにかく、彼はボーっとしているだけだった。モニターには少し関心を向けただけで、それ以降見向きもしなかったのだ。


「じゃあ、279番で!」


 だが、火狩はステージ上ではっきりとそう宣言する。


 ケースが開かれ、中からタグが現れた。

 見えたのは、ハートのクイーン。


「ウソだろ……」


 玲は唖然と呟いた。

 周囲の人間も同じように思ったのか、目を見開いて驚いている。


 誰かが言う。


「……偶然? 293分の13だぞ? 当たるか?」


 そんな声を、玲の頭は否定した。

 

 4%。

 そんな確率、滅多に当たるものではない。偶然にしては出来過ぎだ。


 なにかカラクリがあるのだろうか。

 ついそんなふうに邪推してしまう。


 あるとしたら、火狩が主催者側と繋がっている可能性ぐらいだろう。最初からあいつに、御堂が勝たせようとしているならば。


 確かに火狩と話した限り、彼は色々と情報を持ってはいた。だがそれは判断材料として心もとない。


 いや、正直それはどうでもいいのだ。


 もし御堂が火狩を勝たせようとしているのだとして……だとしても、御堂の目的はまったく見えない。こんなゲームを主催する時点で、最初から目的などわかったものではないのだが、それは一旦横に置く。


 もしもこの説が本当だとするなら、それにしたってもっとうまくやるはずだろう。火狩自身も、せめてモニターぐらい見るだろうに。


ーー……やっぱり、ただの偶然か。


 玲は一度目を閉じる。

 もし本当に勘で当てたのだとしたら、単にあいつの運が良かったということになる。

 くじ引きだってなんだって、当たる時は当たる。けれど、


『オレ運だけは超絶いいんだ!』


 という火狩の言葉が不意に頭で再生された。


 正直なところ、信じたくはない。なんなんだあいつ、と玲は頭の中で独りごちる。ついため息が溢れてしまった。


「他には、いらっしゃいませんか?」


 考えている間に御堂は言う。


 ホールは静まり返ったままだった。

 このまま行けば、もう誰もステージに上がることはないだろう。

 

 ……潮時だ。


「……はい」


 玲はそっと手を上げ、ステージ上に向かうことにした。


 嬉しそうに与えられたタグを持つ火狩とすれ違って壇上へ登る。


 火狩自身は周りが見えていない様子で、横を通り過ぎる玲に目を向けることはなかった。


 玲はゆっくりとステージに上がった。


 すると御堂は何故か軽く会釈をしてくる。


 それは、今までのプレイヤーにはなかったはずの行動だった。


 玲は一瞬きょとんとして、その場で足を止めてしまった。

 彼女はどこか嬉しそうな顔でこちらを見ていた。


「何番ですか?」


 尋ねられて、はっとする。

 胡散臭さを感じながら、一度呼吸を整えた。


 答える番号はここに上がる以前から決めている。


「230番」


 現れたタグは予定どおり、スペードのジャックだった。


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