情報ゲーム
情報ゲームのルールはこうだ。
初めの質問でタグ1枚、2回目で2枚、3度目で3枚……というように、一つ情報を得るごとに、次に必要なタグが一枚ずつ増えていく。
4つ情報を得ようとすれば、1つ目からカウントして10枚のタグが手元から消えるということだ。
また質問をするのはプレイヤーだけに限らず、雷の方も同じルールで質問をしてくる。
つまり上手くやれば、タグの消費をせずに情報を聞きだせる。可能性は低いだろうが、情報を得た上でタグを増やせる可能性もなくはない。
ただ回数を重ねるごとに、タグを大量に失う危険度も増していく。
単純なゲームだ。
だがそれゆえに恐ろしくもあると玲は感じた。タグが増える可能性があるというのは、まあ罠だろうと理解した。
それにまだ、なにか見落としている点がある気もする。
雷は笑う。
「お二人はチームとして参加されますか?」
「はい、お願いします」
そうして双子は彼女と机を挟んだ向かい側のソファに並んで座った。
玲はその様子を、入口近くの壁に寄りかかりながら見守る。
「では、初めの質問を」
促され、2人は顔を見合わせる。彼らは軍服のポケットからタグの束を取り出して机の前に置いた。
口を開いたのはイツキだった。
「黒井オウヤの今日までの行動を、教えていただけますか?」
そうして、ノーマルタグが1枚、雷の方へ渡される。
「ふふっ、かしこまりました」
雷は職員を1人呼び、薄型のタブレット端末を持ってこさせた。そうして何度かそれを操作した後、2人の方へそれを渡した。
イツキもナツキも、食い入る様にその画面を覗いていた。そうして次第に、怒りに似た感情が彼らの表情を覆っていく。
「目を引くのは、やはり殺した人数でしょうかね。現在までで、彼は既に6人の命を奪っている。とはいえ、ゲーム外での彼のことを考えれば、少ない、と考える方が良いかもしれませんが」
「あの野郎っ……!!」
雷の言葉にイツキは怒気を滲ませた。拳を強く握り締めた彼は、さっきまで人見知りしていた少年とは別人のようだ。
意外と激昂型らしいと玲は思う。
「兄様……」
ナツキはイツキの手を握り、落ち着くように促した。
それに対し、今度は雷が口を開く。
「ではわたくしの方から。なぜ、そのような質問を?」
タグが一枚、2人の方へに回される。
彼らは玲に話したのと同じ内容を答えた。
雷は納得したように頷く。次の質問を、という言葉に、双子は新たなそれを雷にぶつけた。
「黒井の位置だけでも構いません。ゲームの間、常にその情報を得られるようにすることは可能ですか?」
2枚のタグが、相手側へ。
「ええ、できますよ。こちらの施設で、その機能をあなた方のスマホに与えることができます」
雷は言葉を区切る。それ以上の回答はない。
「それは、依頼すればすぐに可能なことですか?」
イツキは言う。3枚のタグが相手側へ。
あの2人、何枚のタグを持っているんだろう。そう思って、玲は咄嗟にスマホを確認した。
ノーマルタグはイツキが13、ナツキが8。2人合わせると21枚。使えるのは多くて20枚ということになる。
余裕はある。だが、先ほどのイツキの質問は必要な問いだっただろうか。
玲はつい顔を顰める。あいつは今、冷静に思考できていない。
「可能です。ですが、タダでは、できませんね」
雷は答えた。彼女からの質問は、なし。
「……どうすれば、いいですか?」
4枚が、向こう側へ。消費量9枚。もう半分近くが減った。
「兄様、そろそろ」
ナツキが口を挟んだが、イツキは真っ直ぐに雷だけを見ていた。
「タグを渡していただければ、可能ですよ」
雷はそれだけしか答えない。焦れったいところで、わざと回答をやめている。そうやって、質問誘発しているわけだ。
この情報ゲームは、内容を小出しにして行けばいくらでも相手からタグを引き出せる。曖昧な質問をすればするほど、どこまで答えるかは個人の裁量に委ねられることになり、自然と追加の問いを余儀なくされる。
雷とプレイヤーは、見た目は同じ条件は同等だ。しかし情報量の多さは圧倒的に雷が上。しかもプレイヤーは情報を取りに来ているのに対し、雷には質問をする意味があまり無い。
確実にプレイヤー側が不利なのは明白だ。
玲は思わず眉をひそめた。当然イツキは、雷が答えた先を知りたそうにしていた。
望んだ物を手に入れる方法が、目の前でちらついている。それを諦める判断は難しいだろう。
「……具体的には、何枚ですか」
「兄様……!」
慌てた様子でナツキが叫ぶ。これ以上は許容できない領域と判断したのだろう。5枚のタグが雷に渡る。
これで、2人のノーマルタグは残り8枚。ゲーム開始時点よりも減ってしまった事になる。
「そうですね……15枚ほどいただければ、処置致します」
「じゅうご……」
イツキは難しい顔をした。
タグ15枚。たった一人のプレイヤーの位置を常に把握するのに、これだけの量が必要なのか。
玲は黙って眉を顰める。
偶然遭遇するのを待つのがいいのか、この条件を飲んででも位置情報を知るのがいいのか。
まあ、微妙なラインの数字ではある気もするが。
「…………」
「兄様。今決断する必要性はありません。タグを集めながら、考えましょう」
黙り込んで悔しそうな顔をするイツキをナツキがさとした。妹の心配そうな顔を見てか、イツキはハッとした表情をした後、こくりと頷いてみせる。
そうして雷にゲームの終了を告げ、彼らは揃って席を立った。
玲の前にやってくると、2人並んで礼を言ってくる。
「今日はありがとうございました」
イツキの言葉に、玲は尋ねる。
「これからどうするつもりだ」
「しばらくはタグを集めます。その上で、考えます。黒井の倒し方を」
「私たちも、無策であいつに挑むことはしません。レイさんの言う通り、正面から戦って勝てるとも、思えませんから」
2人の言葉はあくまで静かだった。
だが彼らの瞳で懇々とくすぶるものに、玲はつい気圧される。それほど、濃い憎悪の光があったからだ。この年齢の少年少女がする目にしては悲しすぎる。
特にイツキは、どこか危うい。
「……必ず、殺してやるんだ」
部屋を出る寸前に、イツキがそう呟くのが聞こえた。その声は玲の耳に、やけに不吉に響いていた。




