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悪人の定義  作者: 黒兎
3日目 探し人
31/39

情報屋


 ロウから教えてもらった場所にあったのは、気にせず見ればこの街のどこにでもありそうな、ごく普通の廃ビルだった。


「……ここ、ですか?」

「多分な」


 首を傾げる一気にそう言いながら玲は周辺、主に建物の壁を観察していく。白いコンクリートの壁。窓は少なく、外からは見えないようにガラスにモザイクが入っている。

 やがて目的の物を見つけると、玲はそれを指差すことで2人に教えた。


「コード?」

「ああ」


 イツキの視線の先にあるのは電気ケーブル。

 一見すると見落としてしまいがちだが、観察するとかなり新しい。それもわざとらしく一本だけが露出した状態で捨て置かれており、線を辿ると、その上にはわりやすく設置された監視カメラだ。

 おそらくこれが、この施設を見付け出すヒントになっているのだろう。


「中から数人の人の声と、機械音が聞こえます」

「そうなのか?」

「はい。それが、私に与えられた能力なので」


 聴力強化。ナツキが得た能力に、なるほどな、と玲は思う。


「凄いな。俺には何も聞こえない」


 思わず言えば、ナツキは照れくさそうに頬を染めてはにかんだ。


「話した通り、一度使うと2日は使えないルールだ。お前らは、今でいいのか?」


 ロウから聞いた内容は、既に道すがら2人に説明し終えている。

 こちらは元々くるつもりだったからいいが、この場所さえ教えてしまえばあとは2人の問題だ。


 玲が尋ねると、ナツキが言う。


「よろしいですね、兄様」

「うん」

 

 イツキは頷き、一緒に行きますと伝えてきた。


 少しわかったことだが、イツキは決してしっかりしていないわけではない。ただナツキの方が明らかに判断が早く、また積極的なのだ。

 しかし同時に、最終的な決定自体はいつも兄に委ねたがる。


「じゃあ、行くぞ」

「「はい!」」


 2人の返事を合図に、玲はビルの扉を開いた。




「うわぁ……!」

「すっ、涼しいです」


 扉の先はエアコンがフル稼働していた。

 中は外観と違って新しく、床は綺麗なタイル張り。天井にある照明は明るく、他のビルとは明らかに造りが違っている。

 よくもここまでのギャップを作り出せたな、と言うのが玲の抱いた感想だった。


 一階フロアには何もなく、上へと続く階段だけがある。玲は2人を促し、その先に進むことにした。


 登り切って初めに目を惹かれたのは大量のモニター。どこを見渡しても、画面、画面、画面……。

 正直目が痛くなるほどで、その明るさに圧倒される。


「おや、お客さんでございますね」


 しばらくその場で双子と一緒に固まっていると、涼しげな声が部屋の奥から聞こえてきた。


 現れたのは女性。精緻な模様が施された赤い着物を身につけている。履物は草履。手には扇。

 おおよそ、このゲームの場にはまるで似つかわしくない装いだ。


「ふふっ、まあ貴方がいらっしゃることは既に予想が着いておりましたが……。まさか、こんな可愛い子達まで、一緒においでなさるとは」


 特徴的な喋り方。訛り。

 嬉しそうに、楽しそうに。女性は何処か意味深な笑みを浮かべている。


 玲には自分の後ろでイツキが肩をこわばらせたのが分かった。人見知りは本当に激しいらしく、その様子に苦笑する。

 そんなイツキとは対照的に、ナツキは


「綺麗……」


と言いながら、着物の女性に魅入っている様だった。


 女性は彼女に対し、「ありがとう」と微笑んだ。


「自己紹介をいたしましょうか。

 わたくしはいかづちエンと申します。御堂様より、このゲームに関するあらゆる判断を司ります、当施設の主任を任されている者です」


 そう言い切って、彼女は恭しく頭を下げる。


「どうも」


 玲はぶっきらぼうに言った。


「「よろしくお願いします!」」


 反対に双子は元気よく頭を下げる。何が面白かったのか知らないが、雷はクスクスと笑い声をこぼした。


 美人なのは確かだが、年齢がつかめない人だ。

 さして化粧が濃いわけでは無いのだが、口調のせいか年増にも見える。


「立ち話もなんですから、奥にどうぞ。職員の邪魔にならぬ様、できれば静かにお願いいたします」


 玲がそんなことを考えていると、雷はこう言葉を紡いだ。


 言われてみれば、モニターの前には多くの職員らしき人々が待機している。彼らは揃って壁や手元の画面を凝視していた。

 そして画面の中で動くのは戦闘中のプレイヤーや、話中のプレイヤー。時に職員は画面を操作してなにやら合図を送っている。

 これは凄い監視体制だ。


 流石にホテルの部屋などは表示されていないようだが、フィールドの中にいる間はずっと見られていると思った方が良いだろう。プライバシーの概念などあったものじゃない。


「レイさん?」


 考えていると、目の前でナツキが首を傾げていた。イツキと雷は既に奥に向かい始めている。


「すまない。行こうか」

「はい」


 玲はナツキと共に彼らの背中を足早に追った。



 3人が通されたのは、いわゆる応接間のような部屋だった。机が一つと、高級そうな長椅子がそれを取り囲む様に2つ。


「さてここは、プレイヤーの公式に発表されていない情報を、タグを使用して買って頂く施設となります」


 部屋を進んだ雷は、机を挟んで向かい側の椅子に腰掛ける。

 玲と双子は入口の扉の前で立ちつくした。


「わたくしの役目は、皆様に要求された情報をタグと引き換えにお渡しすること。ですがそれだけでは面白くありません。……なので、ここではわたくしとゲームをしながら情報を得ていただく、ということになっております。

 その際、ある程度ノーマルタグを要求させていただきます。特定タグの使用はできません」


 注意事項やゲームルールをざっと話し終えると、彼女は意味深に微笑んで見せる。


「では、どなたが参加なさいますか?」

 

 玲は咄嗟に前に出た。双子と顔を合わせることなく、参加の意を表明しようとする。

 その時、


「あの! 雷さん!」


突然ナツキが大きな声を発した。


「なんでしょう?」


 雷が笑みを深くする。


「例えば私たちが先にゲームをしたとして、それをレイさんが見ていても、問題ありませんか?」


 臆することなくナツキは雷に質問をぶつけた。

 彼女の度胸は大したものだ。この年齢にしてはかなり大人びていると思う。


「ゲーム内容をこの施設内以外で口外するのは、ルール違反となりますが、それくらいでしたら問題ありません。しかしよろしいのですか?  彼に会話を聞かれ、あなた方が損をすると考えられると思いますが」

「いかがですか? 兄様」


 ナツキは振り返ってイツキを見た。彼が頷くと、今度は2人揃ってこちらに向き直ってくる。


「危ないところを助けてもらいました。それに、この場所だって、他のプレイヤーにはまだあまり知られていないのでしょう?」

「僕らが先にゲームの実践をします。会話も聞いてもらって構いません。これくらいの恩返しはさせてください」


 要するに、2人は先にゲームに参加することで、こちらに情報を与えようとしてくれているらしい。

 それは願ってもない事だが、


「いいのか?」

「はい!」


 聞くと強く頷かれる。


「……分かった。頼む」


 玲は少し迷ったものの、結局は彼らの好意に甘える事にした。


「任せてください!」


 双子は明るくそう言うと、雷の方に足を進めた。

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