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悪人の定義  作者: 黒兎
3日目 探し人
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因縁


 イツキは玲に向かって尋ねる。


「レイさんは何か知りませんか? 黒井に関しては、中立地帯には入ったという情報も、そもそも目撃情報も殆どなくて」


 それは、出会った人間の殆どが死んでいるからなのではないかと玲は思った。

 運悪く黒井と出会ったとき、彼の足元に転がっていた死体のことをつい思い浮かべる。ああなってしまった人間は、きっと少なくないだろう。


「本当に少しのことでもいいんです」


 ナツキも真剣な目でこちらを見てくる。玲はむずりと口を動かし、仕方がないと肩を落とした。


「昨日、会った」

「本当ですか?! 」

「どこで?! 戦ったんですか?!」


 双子が勢いよく食いついてくる。こころなしか息も荒く、玲は思わず苦笑した。


「落ち着いてくれ」


 呆れた様に口にすれば、彼らはハッとした顔をして、それから軽く肩を落とす。


「すみません……。でも教えてください。どこで戦ったんですか?」


 控えめなナツキの問いに、玲は答えた。


「中立地帯から東へ1kmぐらいのとこ。戦って、殺されかけた。逃げられたのは偶然だな」

「レイさんでも、勝てなかったってことですか」


 イツキは口元を歪める。それはきっと、同じ運動能力の強化が行われた人間でも、という意味だろう。彼らは黒井が被験者だと知っている。


「タイミングも悪かったんだ。でも普通にやったところで、俺が勝てる相手じゃなかった」


 その上で、こちらの見たてもはっきりと伝えることにした。


「正直、黒井と戦ったら、お前らは殺されるだけだと思う」


 言った瞬間、2人が息を呑んだのがわかった。


 不調だったとは言え、人体実験の能力面で同等と思われる自分でも勝てなかった。


 玲からすれば、この2人の実力は自分よりも下だという認識だ。あんな即席の6人チームに手こずる様では、黒井を相手にしても殺されるのがオチだろう。

 

「俺が口出しするべきじゃないのはわかる。でも、やめたほうが良いのは確信を持って言える。少なくとも、2人だけで挑むのは避けるべきだ」


 玲は誤魔化すことなくそう伝えた。


 ナツキはなんとも言えない顔で黙り込む。

 イツキは悔しげに唇を噛んでいた。しかし暫くすると、俯いたまま口を開く。


「でも放っておくわけにも……。別に死んでも、僕は……」

「無駄死にするのか?」


 玲は反射的に口にした。


「死んでもいいと本気で思うなら、ゲーム開始前の分配フェーズで壇上の黒井とすれ違った時に仕掛けても、俺は良かった気がするが」

「っ! それはっ! ……それは、……」

「ゲームのルールは、あの時もう分かっていた。ゲーム内で黒井の居場所が分からなくなることぐらい、予想もついてただろ。お前はずっと黒井のことを睨んでたしな。

 ルール違反としてお前が殺される可能性もあるが、多分あそこで動くのが、確実に戦うには一番良いタイミングだったはずだ」


 言いながら、暴論だなと、玲は自分でそう思った。

 だが自分がイツキと同じ立場だったなら、そうしている可能性も高いと思う。


 本気で死に行こうと、考えていた場合の話だが。


 だけど2人はそれをしていない。多分どこかで、黒井との戦いを恐れてもいる。

 俯いたイツキは強く拳を握っていた。


「……確かに、その通りかもしれませんね。兄様」


 黙り込んだ兄の代わりに、ナツキが言った。 


「死んでもいいなんて、思ってはいません。私たちの目的は、お母様とお父様の仇を討ち、あの2人の分まで生きることです」

「……うん」


 妹の言葉にイツキは頷く。納得はしきれていないのだろう。表情自体は悔しそうなままだった。


 その瞬間、足元で気絶していた男がピクリと動く。 

 それを目の端で捉えた玲は、2人に向かって口を開いた。


「一度場所を移りたい。……それから、別に真正面から倒しに行く必要もないだろう。奇襲か、とにかく人数をかけて攻めるかなら、一矢報いるくらいはできるかもな。

 とにかく移動しながら話そう」

「はい」

「わかりました」


 順に頷いた兄妹に頷き返し、玲は続ける。


「最低でも3日は黒井の元へ行かず、冷静に行動すると約束するなら、お前らにいい情報を渡してやる。と言っても、俺も人から教わったんだけどな」


 人が死ぬのは好きじゃない。

 この行動が原因になって、この2人が死ぬなんてことには絶対にしたくないと玲は思う。


 だけど、と玲は思うのだ。少しくらいは協力してやりたいとも。


 自分も親を殺された身の上だから、彼らの気持ちも理解はできる。

 今だって、両親を殺した親戚のことは憎い。でも、復讐のために命を懸けることはしなかった。それを両親が望んでいないと思えたから。

 

 ただ反対に、黒井に対して一種同族意識みたいなものが無いわけでもなかった。正直気分的にはこいつらよりも黒井の方が……なんて思えてしまうことも事実で、彼が死ぬ姿は、正直想像したくないとも思う。


 黒井と双子、どちらに味方したいわけでもない。関わらないのがきっと一番楽な選択だ。


 しかし例え間違っていたとしても、せめて双子に、考える余地を与えるために。


「約束します」

「私もです」


 真っ直ぐな目で双子は言う。

 玲は頷き、2人を連れて情報屋への道を進むことを選択した。

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