従者
ーー誰かの声が聞こえてくる。
老齢だがハキハキとした張りのある男性の声。
「坊ちゃん、大丈夫でございますか?」
ぼーっとした感覚の中で目を開く。
黒の執事服。品のあるロマンスグレーの髪。
また夢か、と玲は思う。
よく夢を見る体質の自分だが、何度繰り返してもこの感覚には慣れない。子供の頃の夢だから、小さくなった身体は自分の意思ではまったく動かず、言葉も思うように伝えられない。
「……なんのこと?」
子供は言う。
玲は自分を、物語に干渉できない操り人形のようだと思った。
「その傷でございます」
執事はこちらの首筋を指差した。子供がそこに手を当てれば、ピリリとした痛みが走る。
手を見れば、赤い血がこびりついていた。思わず顔をしかめると、執事は何処からか手当の道具を取り出してくる。
「この傷は何処で?」
「庭でころんだ」
にしては、変な位置に傷ができているなと我ながらに思う。それでも執事はまるで気にした様子もなく、慣れた手つきで傷の消毒を始めていた。
「少し、しみますよ」
そう言われて、わずかに身構えた自分がいる。ピンセットでつままれた脱脂綿が首に触れる。
「ーーいったい!」
案の定の、子供は刺激に声を出した。
何度も繰り返し触れられるうちに、丸い脱脂綿がどんどんと血に染まっていく。
消毒の終わると、傷の上にガーゼがのせられ、上からきっちりとテープで止められる。消毒の痛みで浮かべた涙を、執事はポケットから出したハンカチで拭ってくれた。
そうしてこちらの頭をそっと撫で、彼は柔らかな声音で言う。
「気をつけて下さい。旦那様も奥様も、坊ちゃんが怪我をなさると大層心配なさいますから」
「……はい」
ぶっきら棒に言う子供に、執事は優しく笑いかけてくれた。
多分彼は、家にいた使用人の中で最も頼りにされていた人物だ。父や母に信頼されて、普段は優しいもののたまに厳しくて、しかも強い。
玲自身、彼にはよく懐いていた記憶があった。
ーーそうだ、……手当してくれたお礼を言わないと。
玲は彼の顔を見てそう思う。
この老人はなんという名前だっただろうか。
二文字の、簡単だけど、なんだかちょっと変わった名前だった気もしている。
そう、確か……。
小さな自分は、笑顔を見せる執事に言う。
「手当てしてくれて、ありがとう」
*
「ありが、とう。ムロ…さん」
「……っ?!」
突然の呟かれた言葉に、ロウは驚いて目を見開いた。
ベッド横のテーブルの上には消毒液と脱脂綿。ロウは手にガーゼの端くれを持ったまま、呆然と眠る少年を見つめた。
「寝言……、かな」
玲が眠った直後、ロウは彼の首の傷を手当てし忘れていたことに気がついた。起こしてしまうかもしれないと考えはしたが、化膿したりするよりはましだと思って、眠る玲の傷をこっそりと手当てしていたのだ。
余程疲れていたようで、消毒しようがテープを貼ろうが、彼が起きることはなかった。ただ、首にしっかりとガーゼを固定したところで、さっきの台詞である。
「ビックリした……。まさかその名前を聞くことになるとは……」
目の前でぐっすりと眠り込んだ白髪の少年に、ロウは思わず呟いてしまう。
閉じられたまぶたの中にある赤は、この国ではかなり珍しいものだ。
探している対象はもう少し赤黒い目だと聞いていたし、髪の色も違っていた。それでももしかしたら、と少しカマをかけたのだが……。
ロウはふむ、と首を傾げる。
話す中で、大方、彼が探していた人物だろうとは思っていた。しかしそれにしたって、釈然としない部分も多い。
玲の姿は、写真で見た黒髪の少年とは似ても似つかぬ白髪である。彼はこれを地毛だと言ったが、それが嘘だとは思えない。
となれば、理由はストレス的な負荷だろうか。あの家を出されてから生活環境は激変しただろうし、珍しいとはいえ、あり得ない話とも言い切れない。
しかし目は、何故こんな血のような赤になったのだろう。
そもそも分配フェーズの時の動体視力にしても、今目が見えなくなっていることにしても、疑問点はかなり多い。
玲自身に、彼が自分の探し人だと伝えることを躊躇ったのはそういう理由だ。
とはいえ、彼が生きていたこと自体が奇跡に近い。
なにより今の非凡な容姿も、彼にはよく似合っている。不謹慎な感想ではあるのだろうが、それでもだ。
「やっと、見つけた」
呟いたロウは、眠る少年を静かに見つめた。
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プレイヤーリザルト 2日目
※は殺人経験ありのものを指す
1位 黒井オウヤ ※
特定タグ 2枚
K:スペード、ハート
ノーマル 23枚
2位 レイ
特定タグ 2枚
Q:ダイヤ
J:スペード
ノーマル 15枚
3位 ジン
特定タグ 1枚
J:クラブ
ノーマル 17枚
4位 五十嵐コトウ ※
特定タグ 1枚
K:ダイヤ
ノーマル 12枚
5位 光山イツキ
特定タグ 1枚
A:ダイヤ
ノーマル 10枚




