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悪人の定義  作者: 黒兎
2日目 救済
23/39

従者


ーー誰かの声が聞こえてくる。


 老齢だがハキハキとした張りのある男性の声。


「坊ちゃん、大丈夫でございますか?」


 ぼーっとした感覚の中で目を開く。

 黒の執事服。品のあるロマンスグレーの髪。

 

 また夢か、と玲は思う。


 よく夢を見る体質の自分だが、何度繰り返してもこの感覚には慣れない。子供の頃の夢だから、小さくなった身体は自分の意思ではまったく動かず、言葉も思うように伝えられない。


「……なんのこと?」


 子供は言う。

 玲は自分を、物語に干渉できない操り人形のようだと思った。


「その傷でございます」


 執事はこちらの首筋を指差した。子供がそこに手を当てれば、ピリリとした痛みが走る。

 手を見れば、赤い血がこびりついていた。思わず顔をしかめると、執事は何処からか手当の道具を取り出してくる。


「この傷は何処で?」

「庭でころんだ」


 にしては、変な位置に傷ができているなと我ながらに思う。それでも執事はまるで気にした様子もなく、慣れた手つきで傷の消毒を始めていた。


「少し、しみますよ」


 そう言われて、わずかに身構えた自分がいる。ピンセットでつままれた脱脂綿が首に触れる。


「ーーいったい!」


 案の定の、子供は刺激に声を出した。

 何度も繰り返し触れられるうちに、丸い脱脂綿がどんどんと血に染まっていく。


 消毒の終わると、傷の上にガーゼがのせられ、上からきっちりとテープで止められる。消毒の痛みで浮かべた涙を、執事はポケットから出したハンカチで拭ってくれた。

 そうしてこちらの頭をそっと撫で、彼は柔らかな声音で言う。


「気をつけて下さい。旦那様も奥様も、坊ちゃんが怪我をなさると大層心配なさいますから」

「……はい」


 ぶっきら棒に言う子供に、執事は優しく笑いかけてくれた。


 多分彼は、家にいた使用人の中で最も頼りにされていた人物だ。父や母に信頼されて、普段は優しいもののたまに厳しくて、しかも強い。


 玲自身、彼にはよく懐いていた記憶があった。


ーーそうだ、……手当してくれたお礼を言わないと。


 玲は彼の顔を見てそう思う。

 この老人はなんという名前だっただろうか。


 二文字の、簡単だけど、なんだかちょっと変わった名前だった気もしている。

 そう、確か……。


 小さな自分は、笑顔を見せる執事に言う。


「手当てしてくれて、ありがとう」



「ありが、とう。ムロ…さん」

「……っ?!」


 突然の呟かれた言葉に、ロウは驚いて目を見開いた。


 ベッド横のテーブルの上には消毒液と脱脂綿。ロウは手にガーゼの端くれを持ったまま、呆然と眠る少年を見つめた。


「寝言……、かな」


 玲が眠った直後、ロウは彼の首の傷を手当てし忘れていたことに気がついた。起こしてしまうかもしれないと考えはしたが、化膿したりするよりはましだと思って、眠る玲の傷をこっそりと手当てしていたのだ。


 余程疲れていたようで、消毒しようがテープを貼ろうが、彼が起きることはなかった。ただ、首にしっかりとガーゼを固定したところで、さっきの台詞である。


「ビックリした……。まさかその名前を聞くことになるとは……」


 目の前でぐっすりと眠り込んだ白髪の少年に、ロウは思わず呟いてしまう。


 閉じられたまぶたの中にある赤は、この国ではかなり珍しいものだ。

 探している対象はもう少し赤黒い目だと聞いていたし、髪の色も違っていた。それでももしかしたら、と少しカマをかけたのだが……。


 ロウはふむ、と首を傾げる。

 話す中で、大方、彼が探していた人物だろうとは思っていた。しかしそれにしたって、釈然としない部分も多い。


 玲の姿は、写真で見た黒髪の少年とは似ても似つかぬ白髪である。彼はこれを地毛だと言ったが、それが嘘だとは思えない。

 となれば、理由はストレス的な負荷だろうか。あの家を出されてから生活環境は激変しただろうし、珍しいとはいえ、あり得ない話とも言い切れない。


 しかし目は、何故こんな血のような赤になったのだろう。

 そもそも分配フェーズの時の動体視力にしても、今目が見えなくなっていることにしても、疑問点はかなり多い。


 玲自身に、彼が自分の探し人だと伝えることを躊躇ったのはそういう理由だ。


 とはいえ、彼が生きていたこと自体が奇跡に近い。

 

 なにより今の非凡な容姿も、彼にはよく似合っている。不謹慎な感想ではあるのだろうが、それでもだ。


「やっと、見つけた」


 呟いたロウは、眠る少年を静かに見つめた。


ーーーー

プレイヤーリザルト 2日目

※は殺人経験ありのものを指す


1位 黒井オウヤ ※

 特定タグ 2枚

 K:スペード、ハート

 ノーマル 23枚


2位 レイ

 特定タグ 2枚

 Q:ダイヤ

 J:スペード

 ノーマル 15枚 


3位 ジン

 特定タグ 1枚

 J:クラブ

 ノーマル 17枚


4位 五十嵐コトウ ※

 特定タグ 1枚

 K:ダイヤ

 ノーマル 12枚


5位 光山イツキ

 特定タグ 1枚

 A:ダイヤ

 ノーマル 10枚

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