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悪人の定義  作者: 黒兎
1日目 開幕
10/39

合流


 草壁は唖然とした表情で宙を見ていた。

 玲はふらりと身体を起こすと、持っていたナイフをホルダーに収める。


「嘘、でしょ」


 数秒経って、彼女は震えた声で呟いた。


 その声を聞きながら、玲は自身のスマホを確認する。画面上にジャッジされているのは『winner』の文字。ご丁寧にも、対戦カードとしてこちらの登録名と草壁のそれも示されている。


「これで決着ってことか」


 勝敗の判定がどうおこなわれるのか疑問だったが、なるほどこれならわかりやすい。玲は感心しながらぼんやりとスマホを眺めた。


 機械的な判定にしてはなかなか素早い。

 攻撃の有無の判定の時もほとんどタイムラグがなかったことを思うと、ゲームのシステムはなかなか優秀なようだと思う。


 その時、この場所につながる唯一の扉が音を立てた。


 姿を見る前に【ソナー】で誰かを確認すると、そこに表示された名前に、玲はとりあえずほっとする。

 火狩が到着したようだ。


「……ムカつく」


 ボソッと、草壁が呟くのが耳に入る。視線を戻せば、彼女は頬を膨らませてハブてたような顔をしていた。


「だろうな」


 玲は無表情で答える。


「何よだろうなって! あんたムカつく! 大っ嫌い! こんないたいけな女の子に向かって!」

「銃振り回してこんなゲームに参加する女のどこがいたいけなんだ」

「ひどい! サイテー! ひとでなし!」


 ぎゃあぎゃあ騒ぎはじめた草壁に、玲は思わず耳を塞いだ。負けてもしょげるどころかここまで騒げるとなると、ある意味大物なのかもしれない。

 ただ、彼女の声は頭に響く。

 キンキンして耳が痛かった。


「お2人さーん。痴話喧嘩は後にしてくれるー?」


 玲が振り返ると、入り口の扉を開いた火狩が呆れた顔で立っていた。


「遅かったな」

「これでも早かったつもりだけど。でも、結局来る前に終わっちゃったか……」


 残念、と言って火狩は玲の隣に立った。地面に座りこんでいた草壁は、またもや目を見開いている。


「なんで……、火狩クレハがここにいるのよ」

「なんでって、オレと玲がグルだからだけど」 


 火狩の言葉に、玲はすっと目を細める。


「グルじゃない。一回限りの協力だ」

「どっちでも一緒よ!」


 鋭い目つきで睨みつける彼女だが、火狩にはまるで気にした様子がない。むしろ清々しい笑顔を浮かべる。


「この子が、オレを狙ってた人?」

「ああ」


 玲はそっけなく肯定した。


「美人さんだったかー」


 火狩が言うと、草壁は面を食らったようにピシリと固まる。


「美人って、私が?」

「うん」


 美人さんだね、と火狩が続けると、草壁はなぜか誇らしそうな顔になる。まあ、褒められて悪い気はしないのだろう。こいつら意外と気が合うのかもしれないと玲は思った。


「それでお姉さんは、なんでオレを狙ってたの?」

「え、それは……」


 火狩が首を傾げると、草壁はチラリと玲の方に視線を向けた。気まずそうな顔をする彼女に、玲は一つため息を吐く。

 彼女が何を言い淀んだかはすでにわかっている。


 今更隠すなんて不可能だろうに。


 玲はそう思いつつ、草壁に向かって真っ直ぐ右手を差し出した。


「1番いいヤツ、くれるよな」


 言葉の意味を正確に理解したようで、彼女はすこぶる嫌そうに1枚のタグを首につけていたチェーンから外した。


 投げつけられるように渡されたそれを、玲は危なげなくキャッチし絵を確認する。

 火狩はひょっこりとその手の中を覗き込んだ。


「なに? ノーマルじゃないやつ?」

「こいつがお前を狙った理由は単純だよ」

「え……、あっ?!」


 草壁が渡して来たタグの絵柄は、ダイヤのクイーン。

 そうしてこれが、玲が火狩が来る前に草壁を倒すことを急いだ理由でもあった。


 もしこれを火狩にとられていたら、彼をさらにゲームクリアに近づけてしまうことになっていただろう。


「……うわぁ、最悪だ」


 火狩は頭を抱えてそう呟く。


「運、悪かったかもな」


 玲は皮肉げに口にした。


 もしもこちらに協力を求めず自分だけで対処していれば、このタグは火狩の物だったかもしれない。逆にとられていた可能性も否定できないが、それでもチャンスは広がっただろう。

 とはいえ、たらればを言っても仕方がない。


「で、お前はどうする? 俺と戦って、こいつを奪いに来るか?」


 玲が何の気なしに尋ねると、火狩は顔を引きつらせる。


「やめた方がいいわ」


 そう言ったのは草壁だった。


「スピードと言い、反射神経と言い、こいつ人の動き方してなかったもの」

「そりゃどうも」


 玲は無感情に呟いて彼女を睨んだ。

 草壁は気づいていなかった。


「……だよな。オレがここに来るまで多分10分もかかってないのに、勝負ついてるし……」


 火狩は顎に手を当てて、絵に描いたような考えるポーズをとる。

 なんにせよ、自分からアクションは起こせない。玲はおとなしく火狩の判断を待つしかなかった。

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