6話 魔石と妖精
とても長くなってしまいました。
((2重カッコ))は妖精の声です。
父が帰ってきた日の夜、私が体調を崩して見逃していた魔石の鑑定結果の写しを持ってきてくれた。
内容はこうだ。
魔力濃度:100(MAX)
魔力探知:上位精霊シルフィ、ティア・アーサー・ヘイデン
魔石効果:風魔法効力50%増強、光魔法30%増強、魔力量3倍
魔石名:シルフィセレフの奇跡
すごく強そう。
(これは国宝級の魔石だな……王宮に保管してあるどの魔石よりも効果が秀逸だ。2属性の効力増強に魔力量3倍、前代未聞だ。こんな物見たことが無い。)
そういったのは、王宮に長く仕える錬金術師だそうだ。
「嬉しくないお墨付きね……。ティアはどこに出しても恥ずかしくない自慢の娘だけれど、王様との謁見はもう少し遅らせたいわね。」
「魔法の基礎知識や、この世界の常識、街や王宮、教会についての理解もまだまだ足りていない。テオの様に賢くあれとは言わないが、時間が欲しいというソフィアの気持ちには同感だ。」
やはり王様との謁見は避けられないことの様だ。礼儀やマナーは怠らないつもりだが、何といっても私の常識は前世の物でこちらの物ではない。
すこし齧った程度のマナーでも知らないことの方が多いのだ。この国の頂点に立つ王様に会えるような状況ではないのだろう。
「父上、私が青年の儀を行う時に王様へご挨拶してはどうでしょう。」
「青年の儀というと2年後か、ティアは7歳だし頑張ればマナーも問題ないか……?」
父が母の顔を伺っている。淑女のマナーは男の人のものより複雑だ。淑女の先輩として母の意見を聞きたいのだろう。
「私は反対よ。2年じゃマナーの勉強や慣れることに精一杯で、ティアのやりたいことを何もさせてあげられないわ。ティアの青年の儀まで、王様への謁見とお披露目は待って欲しいと伝えて頂戴。」
「5年かぁ、陛下は寛大な方だが余り我慢強くはないぞ。」
「勿論、屋敷に陛下が直々に来てくださるのならお断りは出来ないわ。ただ、王都へ行きお披露目をするのは青年の儀の年だと伝えてくれればよろしくてよ。」
わざとらしく余裕たっぷりに言う母に、父は頷くしかないのであった。
「お父さまは王都にいつ戻られるのですか?」
「予定は1週間だな、そうじゃないとローレンスが潰れる。」
今回父はまさかの空から登場した。王都から屋敷まで風魔法を駆使して飛んできたのだ。ヒーローのようにマントを付けているわけでも無く、なにかのロボットに乗っているわけでも無く、いつもの軽装で生身のままである。
理由を聞くとお忍び且つ緊急で来たかったからとの事だが、空を人が飛んでいるなんて見つかればなかなかの大騒ぎになるので滅多にできないらしい。
恐らく私の様子が気になって物理的に飛んできてくれたのだろう、ありがたい。
「副団長さんにお礼を言わなきゃいけないわね。いつも無理ばかりさせて。」
「あいつの仕事は俺の補佐だから問題ない。それよりティア、明日はお父さんの魔法を見せてあげようか。」
「ほんとうですか!楽しみです!」
「明日はレラの授業があるので、やるとしたら午後になりますよ。それと、危ない事は厳禁です。ティアは目覚めたばかりだし、誰かに似てやんちゃなんだから。」
母の小言が止まらない。私と父への信用が低い様だ。まぁ、初めてのお出かけで国宝級の魔石を持って帰ってくる父娘なんて、信用も何もないかもしれないが。
「わかってるよソフィア。ほらティア、今日はゆっくり休んで明日からやってみような。」
本を読んだり、父と剣で戯れる兄を眺めたりレラにお話をしてもらったり、あっという間に時間は過ぎて夜になった。
ここには母も、マナーに厳しいレラも居ない唯一一人になれる時間。私の小さな脳みそはこの世界に来てからフル回転であまり休まっていない。この時間が貴重な休息時間なのである。
ぼーっと思考を投げ出し、考えることを辞めると浮かんでくるのはやはりあの事だった。
そう、(魔法)である。
私、本当に魔法が使えないのだろうか。不安だなぁ、魔法を使うことを楽しみに転生を受け入れたつもりだったのに。(そんなこと考えてないけど)
((?無理じゃないよ))
((大きい魔法使えるよ))
現れたのは先日お話した精霊たちだった。何とも要領を得ない彼女達との会話は疲れるので、一日を必死に過ごした終わりにはぜひとも会いたくない。
寝たふりをしようとしているが、どうやら彼女?達には私が寝ていないことはお見通しのようだった。
「もう寝るからうるさくしないで下さい」
((魔法使えるのに?))
((悩んでるのに?))
((使いたくないのかなぁ))
無視を決めこむ……というより構うと余計につけ上がるという事を理解した上での無視なのだが人の心を慮ることのない精霊の言葉にイライラが募る。
使いたくない訳ないだろう。そもそも私が魔法に対して悩んでいることを悟って話しかけてきている癖にどうしてそういう思考回路になるのかが分からない。
「……使いたいに決まってるでしょう。でも、両親の言い分を聞くと、私に魔法の才は無いとの事でしたが?」
((変なの、使えるのに。))
((明日使うの?))
そうだ、明日は父の魔法が見れる日、要領を得ない精霊と対話して魔法のヒントを得るよりよほど効率よく勉強することが出来るはずだ。
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「おはようティア。」
「おはようございます、お母様。」
レラから習ったばかりの礼で挨拶する。まだまだ不慣れだが、積み重ねが大切なのだ。
「朝ごはんを食べたら庭へ、レオが待ってるわ。」
机の上にすでに用意された、量が少なめの朝食を食べる。相変わらずおいしい朝食だ。周りはもう食べ終わっているため、珍しく1人での食事。
「ごちそうさまでした。」
量が調整された朝ごはんは私の胃袋のキャパぴったりだ。
「ティアお嬢様、食後の紅茶はどういたしますか。」
「結構です。お父様を待たせていますので、今日はいらないと伝えてください。」
レラへの言葉使いもすっかり慣れてしまった。最初は年上に高圧的?な言葉を使うなんて嫌だったが、下手に出た言葉だとレラが決まって(自分は平民でティアお嬢様は貴族だから気を付けてください)と言われてしまう。
先生と生徒の関係性で、敬語を使わないというのは非常にやりずらいので何とか許してもらったが、本人が納得しているかは謎だ。
「かしこまりました、侍女へ伝えておきます。ティアお嬢様はお庭へどうぞ。」
椅子を引かれて立ち上がる。私にも多少は淑女らしさが備わってきているのではないだろうか。
「レラはどうするのですか?」
「私はお茶の件を伝えたらすぐ追って参りますので、エリンを連れて先に庭でレオナルド様に稽古をつけてもらってください。」
淑女の微笑みで返される。あまりにも完璧すぎて表情が読めない。
「わかりました。早く来てくださいね。」
私がこの家で、家族以外に一番懐いているのがレラだ。なんせ毎日一緒に居るし、この世界の情報はほとんどレラから教えてもらっている。私の世界のすべてはレラと言っても過言では無いのだ。
新入りのエリンを連れて庭へ出ると、父が剣を素振りしていた。いつも腰に掛けている愛剣ではなく、稽古用の木刀で。てっきり休んでいると思っていたから拍子抜けだ。
「お父さま、お待たせてしまいましたか?」
万が一があっては危ないので少し離れた場所から話しかける。
「いや、テオの相手だけでは体が寂しかったから丁度いいさ。」
額にほんのりと浮かぶ汗を手拭いで拭きながらイケメンなことを言う。
「もう終わりで良いですか?」
「あぁ、ティアが来たんだから終わりだ。早速始めるか。ほら、おいで。」
父が差し出した手に自分の手を重ねると、少し引っ張られ体のコントロールを失う。力が抜けた瞬間に抱き上げられた。
「お父さま、乱暴です。お母様に言いつけますよ。」
不貞腐れた目線を送ると父は困ったような顔をした。
「それだけは勘弁して欲しいな。」
父は母に弱い。あんなに優しい顔をしている母だが、意外としっかり者で父は頭が上がらない様だ。
確かに仕事で殆ど家に居ない父を頼りきりにするのは現実的ではなかったのだろう。母はすっかり大黒柱の貫禄がある。
「嫌なら早く始めて下さい。」
そんな私も母の血を継いでいるのだ。父は私にも弱い、実力的には一番なのに家では一番下なのだ。
「それじゃあ、告げ口される前に始めようか。」
父がそう言った瞬間、体に魔力が流れるのを感じた。魔石の時と同じ、体の中に何かが巡る感覚、あの時よりはっきりとわかる。体をどのように魔力が巡っているのか、そして、魔力の源がどこにあるか。
「魔力の流れを感じることは出来ているか?」
「はい、お父様の魔力が私の体に流れるのを感じます。少し冷たくて、力強い魔力です。」
父の魔力は不思議な感じだ。シルフィの魔力を感じたときに似ているが、それよりさらに力強い。
「そうだ、それが俺の魔力だ。冷たく感じるのは、シルフィの加護の影響で風の魔力が強いからだろう。力強いのは単純に、俺の魔力操作が下手くそだからだ。」
そんな自信満々に下手くそなことを言わないで欲しい。それにしてもシルフィさんの魔力は冷たいというより涼しいというのが正しい気がする。
「魔力は問題なく感じれるようだな。」
ゆっくりと私を床に降ろす。
「じゃあ次は魔力を流す練習をしてみるか。俺たちは普段、魔力を微量に体に流してる。その魔力を一点に集中させて放つのが基本の魔法のイメージだ。」
父は人差し指を立てると指先を光らせて見せた。微かな淡い光が指先で揺れる。
「これが指先に魔力を集中させた結果、魔力そのものは淡い光を放ってる。普段は体内を通っているから光ってるなんてわからないけどな。これを言霊に乗せて魔法を発動する。」
「精霊よ、我が意思に応えよ」
私の足元からふわふわと心地の良い風が吹き上げる。
「今の魔法は、ティアの足元の地面をイメージしながら発動させた。そうだな……目で場所を指定してそこに魔法を使うイメージをする……?って事か。口に出すと難しいな。」
父が言いたいことは座標の事だろう。自分の掌から水を出す、地面から水を出す、同じ工程にしても魔力を使う量も違えば込める場所も違うはずだ。
問題は、どうやって離れた場所に魔力を込めるかという事だ。離れた場所には自分の内側にある魔力を込めることが出来ない。
「どうやって遠い場所に魔力を込めるんですか?」
「自分の手の届かない場所、または広範囲に魔法を使いたいときは基本的に、使いたいところに己の魔力の痕跡を付けておく。極端に言えばその場所に行ったことがあれば、風景を想像するだけでも構わない。その代わり魔力の消費量は増えるがな。」
要するに想像するだけ、それだけで魔法が使えるという事だ。そのイメージがどれほど精密ではっきりとしているか、それによって魔法が発動できるか、並びに威力や強度なんかも決まってくるのだろう。
「なら私は手からお水出せますか?お母様みたいに」
母は良く魔法で水を出してくれる。あの水は空中に浮いてはいるが出てきているのは母の指先からだ。
「魔法は大きく系統で分かれているんだ。火、水、風、土、光、闇、音、雷、毒、氷、爆発の11種類。他にも術者自身が作成した系統外魔法なんかも存在するが、それはまぁ覚えなくてもいいだろう。」
種類多いな……。基本的なのに加えて、音だったり毒、爆発なんかも前世の知識では聞いたことが無い。それに気になる系統外魔法……。絶対必殺技だよねぇ、カッコいい!
「私は何が使えるんでしょうか。」
「そこが問題なんだよティア、使える魔法は産まれたときに一緒に居る妖精に依存する。だから、妖精の加護が無いティアは使える系統が無いんだ。」
あーあ、そういうことか。妖精に依存するか、何でだよ。じゃあお父さんの横にいつもぴったり張り付いてる狼子供みたいな妖精は風の妖精って事ですか。確かにそんな気がしてきますよええ。
「それは、魔力を流すことは出来ても、外に出せる術がないという事ですか?」
魔力を系統に変換しなければ魔法は発動しない。確かにそういう仕組みなら私は詰みだろう。例えば集めた魔力を水に換えることも、火に換えることもでない。
ましてや王都から来ていた使節団の1人みたいに音魔法と言いながら、妖精に歌わせることもできないのだから。
「そうだ。魔力を集めても留めておくことしかできないだろう。大昔の魔法に、単純に魔力だけで攻撃する魔法もあったらしいが、今は殆ど普及してないし、使える人も少ない。」
はい、そうですか。終わりじゃん、でも私には秘密兵器があるのです。それは父が大切だと言っている妖精の親玉が見えるという事だ。
私が見えている妖精はきっと今の人たちには視えなくなってしまった本物の妖精だ。それを応用すれば使えるのではないだろうか、魔法。
「お父様、実は、」
刹那、物凄い爆風と土煙が襲う。何の前触れもなく、広大な庭が爆発した。
何も、反応できなかった。
空間を無理矢理切り取るような爆発は、どれほどの規模なのかわからない。視線を動かすと、私が立っていたであろう場所は深く抉れてしまって落とし穴の様だ。
私は父の腕の中に居た。立っている場所は父が居たはずの場所から大分離れており、大きく移動したことがわかる。爆発まで、体感では1秒もない。
((人間に言ったらいけないよ))
((僕たち見えない人には言ったらいけないよ))
((言伝えにもあるよ))
((人間には見えないって))
((人間に知られてはいけないよ))
「((約束だよ))」
いつの間にか周りにはゴブリンの様な顔をした妖精が集まっていた。次々に呟く妖精たち、私は逆鱗に触れてしまったのだろうか。
人に言ってはいけない、その約束という言葉に賭けられた代償はどれほどの物だろう。
「ティア、無事か?」
父の声がして顔を上げると周りの土煙も収まっている。父は改めて私を抱き上げて顔を覗き込む、視界に入った父の体には傷一つない。
私と父の体の周り数センチに、凄まじい勢いの風が吹いている。きっとこれで飛んできた石や爆風から守ったのだろう。
必死にコクコクと頷くと体を覆っていた風が収まる。
「ひどい爆発だな、範囲が広すぎる。使用者の魔力の痕跡を殆ど感じない、余程の手練れかそれとも……」
「レオ!?何の音!?」
家から母が顔を出す。
「良く分からんがケガはない!一応探知魔法で他の魔法が無いか確認してくれないか!」
父はもう一度私を抱き上げると家に向かって歩いていく。さっき爆発があったばかりなのに怖くは無いのだろうか。それとも、あれ程の爆発では脅威に感じないのだろうか。
「わかったわ!気を付けて歩いてよ!!」
母が家の中に入ったかと思うと巨大な魔方陣が全方位を覆う。この魔法は丘ごと覆いつくしてるのだろうか。
次の瞬間、魔方陣がぼんやりとした光に変わっていく。
これが母の魔法、光の魔法か。優しい光が屋敷を中心に広がっていく。
その光景は、あまりにも美しく、暴力的な物だった。
「お父様、私、魔法が使えるようになりたい。」
両親の圧倒的な魔法をみて、私が思ったのはこれだけだった。
ローレンスはレオの右腕(王国騎士団副団長)でした!
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