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5話 私、魔法が使えません。4/9訂正完了

 我が家に新しいオブジェが来ました。上位精霊シルフィと私の魔力が籠った、巨大魔石です。

この魔石は王都の神殿にある魔石の大きさにも匹敵するらしいです。今私のお家には、王都から魔石を調査に来た使節の方がお泊りしていて、とっても賑やか。


さぁ、来客の対応を頑張りましょう。


「ティア、レオ、この魔石はどうしたの!?」


 最初は私と父と、少々の荷物が乗っただけの馬車が重量たっぷりになった様子を見て、母は呆れて言葉を失っているようだった。


「ソフィア、この魔石を一階の一番大きい客室に運びたい。事情はそのあと話すよ。」


 父はすっかり憔悴していた。創り出してしまった魔石を隠しきることは出来なくて、お店には相当の人が押し掛けてきたようだった。

 父の姿を目撃した人がレオナルド様と少女が居たと話し、それが5年の時を経て目覚めた娘だとわかると、英雄の子だ、聖女の娘だ、魔石を作り出した精霊の愛し児だと騒がれた。

  魔石を移動する魔法を使いながら私を抱き上げ、店の中に避難。裏口を案内してもらい、ほとんど無理矢理馬車に魔石を乗せて屋敷に逃げ帰ってきたのだった。


「ラロム雑貨店の巨大水晶にティアが興味をもって、マスターから精霊の儀式をやらないかと誘いを受けたんだ。 テオの件もあるし、ティアが目覚めたなら王都へ挨拶をしたいと思っていたから遠慮しようと思ったんだが、どうもシルフィが悪戯したようでな。」


 悔しそうに話す父に申し訳なくなる。風が突然吹いたことで、踏ん張る用意もしていなかった幼い体は簡単に倒されてしまったのだ。私は悪くないと言い張りたい。

 父の疲労困憊ぶりを見ると、そんなこと言えない雰囲気なのだが。


「テオは水晶を壊してしまったから、ティアは迷宮から採掘されたSSランクの上位水晶にしましょうって決めて、買い取ったのに。」


 母が困ったように言う。そうなのだ、お店でも父が言っていたのだが私用の水晶は既に購入済みだった。

 国内屈指の大迷宮最下層付近から採取された強度の申し分ない水晶が。値段も可愛いものではなかったらしい。


「ティアはシルフィに会ったようで、戻ってきたころには水晶は魔石に変わっていて、ティアの精霊の儀式も終わっていた。」

 

「え!?ティア、シルフィ様に会ったの!?儀式も終わってるって……。王様には申し訳ない事をしてしまったわね。」


 謁見の時に精霊の儀式を行うという慣習を守ることは叶わなくなってしまった。


「王様には俺から説明するよ。事故で起こったことなんだ、許していただけるさ。」


 父は王様への謝罪と、魔石の説明をする為の文を書くために書斎に籠るそうだ。


「さぁティア、外行の服を着替えて疲れたでしょうからお茶にしましょうか。」


 テオはマナーの勉強を自室でしているためまだ魔石の存在を知らないが、知られたら質問攻めにあいそうだ。母があまり深く聞いてこないのは、私の顔に疲れが滲んでいるからだろう。


 着替えを終えゆっくりと温かい紅茶をミルクと砂糖たっぷりで頂く。お茶菓子はミルククッキーとカロリーが少々心配だが、若いこの体が消化してくれることを願っている。


「ティアはマナーもまるで悪くないし、どこか大人びてるわ。それも女神様から教わったの?」


「……女神様とは沢山お茶をして、沢山お話をしました。話し方や所作は女神様の真似っこです。」


 前世の私の知識です、なんて言えるはずもなく適当にごまかしながらお茶を嗜む。暫くすると部屋から家庭教師とテオが出てきた。マナーの勉強を終えたようだ。


「それではソフィア様、今日はこれで失礼させていただきます。あら、こちらのお嬢様は……?」


「初めまして、ティアと言います。」


「私の娘よ、先日目が覚めたばかりなの。もう少し落ち着いたらお世話になるかもしれないから、その時は頼むわね。」


「かしこまりました、お嬢様にお教えできる日を心待ちにしております。それでは失礼いたします。」


 初老に差し掛かる、と言ってもいい見た目の先生だがその背筋はピンと伸びており所作も無駄がなく美しい。それでいて気取って見えないのはその所作が体に染みついているのは勿論、それが許される気品があるからだろう。


「ティア、なんだか家が騒がしかった気がするけど何かあったの?」


「……それが色々ありました。」


 部屋を移動して、魔石を見たテオは狐につままれた様な顔をしていた。こんな魔石を見るのは、お城で儀式をした時以来だって。

 ……それはそれは見事な魔石らしい。まさか兄にキズに塩を塗られるとは思っていませんでした。






 夕食の時間になり、王都から魔石を確認しに来る人達は約1週間ほどで到着することとなった。それと入れ替わるように、父と一緒に来た騎士団の人は帰るそうだ。

 流石に数十人プラス数十人となるとうちのお屋敷も手狭になるし、食事を用立てる使用人たちもキャパオーバーしてしまう。


「それでティア、何個か聞きたいことがあるんだが。」


「なんでしょう……?」


 そんな風に聞かれたのは、夕食も食べ終わり食後のティータイムを楽しんでいた時だった。使用人も下がらせ、ここには両親とテオ、私の4人しかいない。


「ティアは、精霊の儀式をしたときに何か精霊に貰ったか?」


「精霊に……?特に何も、あの時はほんとに一言二言シルフィさんとお話ししただけですから。」


 そう言うと父と母、そしてテオまでもが難しそうな顔をした。


「そうか……何も貰ってないか。」


「本当に何も言われていないの?」


「はい、ただ魔石の件をお父さまに伝えてほしいって。」


「父上、じゃあティアは……」


 テオが深刻そうに、そして言いづらそうに父に問いかける。


「魔法が使えないってことですか?」


「……昔話をしようか。この国でずっと言い伝えられている御伽噺の様なものだ。」


 父から語られたのは、どこかで聞いたことのある話だった。


 もうずっと昔の話、精霊と人間は同じ世界に生きていた。人間は知識を、精霊は魔法を扱いお互いが違う文明を持って共存していた。

 精霊は土地が乾けば雨を降らせ、食物が不足すれば畑を耕し、傷ついた人が居れば癒した。

 精霊は人間が大好きだったから、力を惜しみなく貸してくれた。でも人間は困ったときにしか力を貸してくれない精霊に、少しづつ不満を募らせるようになった。


 食物に困ってなくても畑を精霊に耕し、豊かなものにしてほしい。

 

 水に困ってなくても、精霊に雨を降らし喉を潤してほしい。


 怪我をする前に、怪我と言う概念が無い精霊に働いて欲しい。


 そんな傲慢な考えが、少しずつ人間の間に蔓延っていった。精霊は断った、人間は力を合わせれば、すべてを魔法に頼らなくても生きていけると、精霊は知っていたから。

 でも、人間は満足しなかった。精霊から力を自由に借りられないのなら、自分が精霊のように魔法を使えるようになればいいと考えた。


 それは、温厚な精霊たちが唯一許すことのできない事だった。


 精霊たちは人間から姿を隠した。精霊の力を借りることが出来なくなった人間はどんどん衰弱していった。もう、魔法無しでは生きていけなくなってしまっていたのだ。

 畑の耕し方も、雨水の溜め方も、傷の癒し方も忘れてしまった。

 精霊はかつて共存していた人間を見捨てることが出来なかった。だから精霊は生まれてくる新たな人間に小さな魔法の源を授けた。


 アーティフィカル妖精(人工妖精)、これが現代の人間が使う魔法の源。精霊が姿を見せる事無く、人間に魔法を使わせるために考えた手立て。


「俺たちが魔法を使えるのは、この妖精から魔法の源を授かっているからなんだ。俺は、風、火、土、雷、爆発の妖精から。」


「私は、水、光、音、氷、風の妖精から力を授かったのよ。」


 父と母がそれぞれに教えてくれる。


 アーティフィカル妖精……そんな話は女神様からも聞いていない話だった。


「その妖精から力を与えられていない私は魔法が使えないと……。」


「すまないティア、全ての人間は生まれた時に妖精から力を授かり、精霊の儀式の際に体に眠る魔力を覚醒させ魔法を覚える。それ以外に、魔法が開花した人はほんの数例しかないんだ。」


 その後の事は、よく覚えていない。


ー2週間後ー


 私はショックからか熱を出して寝込んでいた。この世界で、魔法は生きる術だ。水だって魔法で出すし、火だって魔法で点ける。

 母は光の魔法が使えるから、屋敷は魔法で照らしているし、父は風の魔法を極めて空を飛ぶ事だってできる。そんな魔法一族に産まれながら、私は魔法が使えないのだ。寝込みたくもなるだろう。

 勿論普通に暮らせない訳ではない。水は井戸があるし、火だって火打石や便利な魔道具を購入すれば賄える。明かりだって同様だ。


「水が欲しい。」


 目を覚ましたら見覚えのある天井、今生の私の部屋の天井だ。起き上がることが辛い、魔法が使えれば目覚めたことを伝えるのも簡単だろうに。

 私はだるい体を起こして、ベルを鳴らした。


「ティア!」


 母が飛ぶように来てくれた。心配をかけてしまったのだろう、うっすらと涙が浮かんでいる。


「おはよう、お母さん。」


 苦しいほどに抱きしめられる。落ち着く匂いを一杯に吸い込んで、喉が渇いたことを伝えた。


「精霊よ、我が意思に応えよ。ウォーター」


 母が唱えると、一口大に水が何個か並ぶ。不思議な光景だ、まぁ私には一生縁がない光景だが。


「ありがとう」


 パクリと水を咥えるとじゅわりと解ける。何度体験しても不思議で、美味しい。寝込んでは目覚めてを繰り返しているので、体は疲労困憊だ。

 それでも体を起き上がらせることが出来るのは、母が定期的に治癒の魔法を掛けてくれているからだろう。

 冷やりとした手が私の額に触れる。


「熱は下がったみたいね。良かった、今お粥でも持ってくるから横になって待ってて。」


 私の家族は、魔法の使えない娘をどう思うだろうか。父は騎士団団長で、母は聖女と呼ばれていた。こんな大きなお屋敷もあるし、相当な家柄なんだろう。そんな中産まれた魔法の使えない娘(出来損ない)、外聞も良くないだろう。

 テオが受けている高度な教育も、将来を期待されてのことに違いない。私は魔法も、体格や性別故に剣もうまく使えない落ちこぼれだ。今はまだ、誰かの助けなしには生きていけない子供だが、大人になったら出て行って欲しいとか言われそうだ。


「どうしてこうなった、せめて人並みで良くない?」


 思わず声に出して呟いてしまう。女神様の話では私の中には光の精霊が溶け込んでいる、なら光の魔法くらい使えてもいいのに。


((使えるよ、だって貴女はティターニア様から愛されてるもの))


((知らないふりしてるだけだよ、あの人の生き写しだもん))


((妖精の力なんて要らないよ、貴女自身で魔法を使えばいいのだから))


 突然、あたりに飛び交う精霊が語りかけてくる。人の心を読んだのか、あくどい精霊め。


 私は生まれた際に妖精に力を与えられなかった、そして現代を生きる人間はその妖精からもらった力を使って魔法を使っている。だから私には魔法が使えない、でしょう?完璧なまでに辻褄があってるじゃない。

 私の生まれは普通とは言い難いし、何かの手違いで力を授けることが出来なかったのだろう。

 女神様だって全知全能ではないのだ。手違いだって起こりうる。


((貴女は特別なの!))


((ティターニア様の愛し児なの))


 女神様に会っただけで魔法が使えるなら困ってないよ。魔法が使えないと分かった日から私が何もしなかったと思う?色々試したよ、魔法の初級の本を読んで呪文を唱えてみたり、体を巡っている魔力と真摯に向き合ってみたり……それでも何も起こらなかったじゃないか。


((本当だよ!))


((私たち嘘はつかないよ))


 どうやって使うの?家族もなんだかお手上げ状態で、私が体調を崩したから何となく触れてはいけない空気感があるし。


((ビュって使うの!))


((ぐわわって力を集めるの!))


((想像すれば使えるの!))


 どれも抽象的過ぎて全然アドバイスになっていない。擬音ばかりで参考にはならないが、最後に話した妖精は想像すると言った。イメージすれば使えるようになるのだろうか。


((人間来る!))


((ばいばい))


 それだけ言い残して消えてしまった。見えるも見えないも、あちらの気分次第という事か。


「ティア、お粥持って来たわ。食べられそう?」


 ホカホカと湯気を立てるそれは食欲を掻き立てる。子供のようにフーフーと冷ましてもらって口に含むと優しい味がした。今生はお米も食べられるのか。白米というよりは玄米の方が近いけど、それでも十分だ。


「お母さま、私もっと本が読みたい。」


 異世界転生物といえば、主人公が本で知識を得ることだ。本を読んで魔法を使い、常識をぶち壊す。私が魔法を使うなら本を読んだ方が早いだろう。


 そう言うと母は少し考えて、


「それじゃあ、色々本を見繕ってくるわ。それとティア、テオと同じように剣術や馬術、マナーのお勉強をしてみない?いろいろな事を幅広くやって、ティアのやりたいことを見つければいいわ。」


 そう言った。その後は私が寝込んでいた間のお話を聞いた。


 私が寝込んでる間に、王都から予定していた魔石の鑑定団が到着。鑑定後、王城へ献上することが決まったそうだ。

 父は予定していた1ヵ月が経過し、一旦王都へ帰り仕事をこなす。次に来るのは数か月後とのこと。


 次に父に会うときは優雅なお辞儀でもして驚かせよう。くよくよしている時間は無い。


ー1週間後ー


 母は、王都の使節が来る前に最低限のマナーを覚えさせたいとは考えていたようで、家庭教師候補はすぐ集まった。


 3人の候補が集まって、結果残ったのは悲しくも一人だった。理由は私が魔法を使えないからだ。将来的に、この子の家庭教師をしていましたというブランドが、私が魔法を使えないことで殆ど無いからだろう。

 私に価値が無いという判断だ。


 テオと同じ家庭教師にしようとしたが、私が他の勉強も並列して行いたいというと自ら辞退した。年齢的に長時間教鞭をとるのが難しいとの事だった。……本音は分からない。

 残った一人の家庭教師はレラという名の若い風貌の女性だ。こことは違う国の出身らしく、身寄りがないため住み込みで働ける仕事を探していたそうだ。


「はじめまして、ティアお嬢様。本日から家庭教師としてお世話になります、レラと申します。宜しくお願い致します。」


 家庭教師に合格するだけある。とても優雅なお辞儀だ、淑女教育の賜物だろうか。身寄りが無いのにどうして教わったのだろう。


「よろしくお願いします。」


 私はここから1週間、徹底的にマナーを習った。言葉使いや食事のルール、動作から姿勢まで、事細かいことを習いつくした。ダンスや刺繍もあるが、それはとりあえず後回しらしい。


ー数か月後ー


 忙しく過ごしていると時間はあっという間で、父が帰宅する日になった。


「おかえりなさいませ、お父様」


 洗練された動作で父を迎えるとあんぐりと口を開け驚き、


「ただいま、ティア。」


 朗らかにほほ笑んだ。


 そしてレラの他に我が家には使用人が増えました。


 庭師兼力仕事:アーロン


 メイド:エリン


 メイド:ヘレン


 3人ともシルフィセレフで育った孤児だそうで、元々孤児の少ない街ではあるが、やはりゼロとはいかない。15歳を過ぎて就職に困っていたところを拾ったという。

 教育の面は、孤児院でアローンは庭師を、エリンとヘレンは雑務や家事を学んだことから一通りは大丈夫だそうだ。


 我が家の使用人の殆どが下級貴族の長男長女以外の人材であり、年齢もベテランと言っていい程だが私の身の回りを任せる使用人を育てたいという母の意向から、年齢の若い使用人を採用した。

 合わせて新しく仲間入りした3人は魔法を使う事は殆ど無く、孤児出身の為か魔法が使えない人に対する差別がない事も採用の決め手になったらしい。


 こんな情けない事に気を使わせて母には大変申し訳ない。

誤字などありましたらご指摘をお願いします。

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