3話 覚醒
2023/2/10~大幅修正中
女神様と別れて、体の感覚が戻ってくる。ゆっくり目を開けると、誰かが顔を覗き込んでいた。
「お、お母様!ティアが目を開けたよ!来て!」
ビー玉の様な瞳が揺れ、小さな唇が震える。暫くするとバタバタと階段を上る音がした。
「ティア!目が覚めたの!?」
ベットの天幕が捲られ、美しい女性が顔を出す。恐ろしく綺麗な顔だ。白金の長い髪をサラサラと靡かせ、色素の薄い水色の瞳と目が合う。
「お母さん?」
「ティア、本当に良かった……!とりあえずレオを呼ばなくちゃ!」
私が目覚めたことで家は大混乱の様だ。話によれば私は5年ぶりに目を覚ました訳だから、激しく動揺するのも頷ける。
母らしき人は慌てた様子でどこかに行ってしまった。
「ティア、もう眠くない?僕と一緒に居てくれるの?」
……この子可愛すぎる。先程の女性より落ち着いた金髪に、深い紫色の瞳はまるでお人形だ。
「貴方は誰?」
なるべく幼く、5歳児に見えるように心掛けて不躾に質問する。
「僕は、ティアのお兄ちゃんで、名前はテオ。」
もしかして……私の名前はティアと言うのだろうか。
「テオお兄ちゃん?初めましてティアです、心配かけてごめんなさい。」
兄と少しばかり会話していると、綺麗な女性が再度部屋に入ってきた。
「今からお医者様が家に来るけど、ティア、お話できる?」
病み上がりに子供を医者に診せるというのは当たり前の話だ。5歳児なら(イヤイヤ!)と駄々を捏ねそうだが、中身は18歳なのでおとなしく了承する。
「うん。」
そこで(大丈夫です)とか答えると5歳児としての信頼が崩れ落ちそうなので、大きく縦に首を振った。
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「……不思議ですね。どうして5年も眠っていたのに、言葉が話せるのでしょうか。」
……その辺全く考えてなかった!!
5年も眠ってたのにどうして言葉が話せるかって?そりゃあ勿論中身が18歳だからですよ。聞こえる言葉も理解ができるし、その辺は女神様パワーのお陰なのかも知れないけど。
「本当に一度も目が覚めていなかったのよ。それこそ、声を掛けたりはしていたけど……。」
大人たちはうんうんと頭を悩ませ、兄のテオには顔をずっと凝視されている。
「お嬢様に纏わり付いてた魔力は無くなっています。予想通り、あれが意識の覚醒を妨げていたのでしょう。」
「主人が家に戻った時に、魔法の解除を試みていたわ。解除といっても、力任せの無理矢理だったけれど……。そのお陰かしら?」
私に纏わり付いていた魔力は、きっと女神様の物だ。あの世界に私を呼ぶ為に、眠らせていたのだろうか。
「正直に申し上げますと、あの魔法と思われるものは我々も見たことがありません。呪い殺す、強制的に意識を混濁させる魔法はあっても、眠らせるだけで健康を一切害さないなどという魔法は何のために使われるのか。」
「……ティア、眠っているときに何かあった?夢を見たりとか、誰かに話しかけられたとか、覚えていることはない?」
話していいのだろうか。女神様に会ったこと。
「女神様に会いました。そこでお話もしました。お父さんが、私を迎えに来たと言って、お別れしたんです。」
さぁ、大人はどう捉えるだろうか。5歳児の妄言、と決めつけられれば万歳だ。詳しいことを説明する気は今の私には毛頭ないのだから。
「女神様……?それはどんな人だった?」
「お母さんみたいに綺麗な人。」
そう言うと母は目を丸くして驚いて、教会の人は困ったように笑っていた。
「ごめんなさい、やっぱりまた今度来てもらうわ。健康的には一切問題ないのよね?」
「はい、平均的な5歳児より少し痩せているといった程度です。最初の食事はスープ類にして、食べ物に体を慣らしたほうが良いでしょう。」
そう言って教会の人は帰っていった。
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「まだ目が覚めたばかりだもの、もう少し休んでいたらどう?」
私は早速母との冷戦を繰り広げていた。……とは言っても、休ませたい母VS色々見て回りたい5歳児という何とも可愛らしい図ではあるが。
「もう大丈夫です。いろいろ歩きたいです。」
ほっぺを膨らまして抗議すると、母は困った顔をして考え込んだ。
「……じゃあ、本を読むのはどうかしら?ここの窓も開けっぱなしにしておくから。それならお外も良く見えるし、色々知れるでしょう?」
その提案は魅力的だ。私はこの世界について何も知らないし、家を歩き回るだけでは知れないことが本の中には沢山ありそうだ。
「本にします。」
母は隣の部屋から何冊か本を持ってきて、私の枕元に置いた。
そして私は絶望する。
「……読めません。」
こんなに言葉は分かるのに読めないなんて……。
普通は字も勝手に解るようになるんじゃないの!酷い!私の貴重な知識が!
「え?話せるのに読めないの?」
母もすっかり呆気に取られていた。
「お父さんが帰ってくるまで1週間くらいあるし、それまで字の練習をしましょうか。」
話を聞くと父は王都で騎士をしており、普段はずっと王都に在住しているそうだ。
王都があるという事は当たり前に王様が居る。この国は王政らしい。
王都から私が住むシルフィセレフまで、早馬で約1週間ほどかかるそうだ。
前世でどれくらいの速さでひらがなを覚えたか知らないが、早くマスターしてしまいたい。
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「まほうは、きせきのちから、人と精霊のきずな……?」
「ティア、もうそこまで読んだの?」
字の練習を始めてから約1週間と2日、と言ってもこの世界に時計は無いので、単純に夜の回数を数えただけだ。
「私に妖精は居ないですか?」
父は想定より時間が掛かっているらしいが、母は心配する素振りは無い。一度私が父の様子を聞くと、(お父さんに何かあった時は国がひっくり返る時、それ以外ありえないから大丈夫。)という恐ろしい返事が返ってきた。
私の父、筋肉だるまだったらどうしよう。
「そうね、今の所は見当たらないわね。でもティアが目覚めてからまだ日は浅いし、焦る必要はないのよ?」
焦ってしまう私の気持ちにもなってほしい。だっていつ儀式の首謀者が私を殺しに来るか分からなんだよ?
自衛の術は誰よりも早く手に入れないと。
「本には5歳までには妖精が見えるって……。」
「そうね、でもそれはあくまでも目安よ?お母さんの知り合いには、10歳を超えてようやく魔法の兆しが見えた人がいるわ。」
私は他の子どもと違って、魔法や超常現象に関する抵抗感が強い。
日本人としての自分が、魔法という非科学的なものを信じることが出来ないからだ。
無から有を生み出そうとしている魔法は、私の中で夢幻と同義である。
「私もいつか魔法が使えますか?」
そんな私はきっと、魔法の顕現も遅いはず。
「勿論、ティアは私とレオの娘だもの。安心していいわ。」
どうして母と父の娘だと魔法が使える確約があるのか教えてほしい。
「それに今日はお父さんが帰ってくるわ。湯浴みして綺麗な状態で会いましょうね。」
今朝、父の隊の人が早馬に無理させて我が家に到着した。
その人は父から手紙を預かっていた。あまり綺麗な字とは思えなかったが、たった一言(今日の夜に帰る)とだけ。
母はその手紙を見るなり、家にいるお手伝いさんに声を掛けて準備を始めている。
「わかりました。」
「用意が出来たらまた来るわ。少しだけ待っててね?」
父は8人ほどの小隊を組んで我が家に来るそうだ。早馬で着いた1人は、既に客室で休んでいる。
この世界のお風呂というのはすごく質素なもので、湯舟なんて立派な物はない。あるのは大きめの桶で、そこにお湯が張ってある。
そこに香り付けの石鹸を溶かして、布で体を拭く。頭は匂いの無い石鹸で別の湯桶を使い洗っていく。
「湯船に浸かりたい、というか私の体のサイズなら桶に入りそうだけど。」
この世界に来て湯浴みをした時、初めて見た自分の姿の衝撃は今でも忘れられない。
白金の髪
透けて見えるような白い肌
血色の良い唇
水色と紫のオッドアイ
まるで人形のような不自然なまでに完璧な顔があった。
鏡は歪んでいて前世ほどの鮮明さはない。それでも解るほどに自身の顔が整っている。鏡から目を離せない私を見て、母が不安そうに言った。
(オッドアイは珍しいけれど、全く無いって訳ではないの。だから安心して。)と。
私が目を離せなかった理由はそこではないのだが、自分の顔が綺麗で目が離せませんでしたというのはあまりにナルシシズムなので辞めておいた。
「お嬢様、湯浴みの準備が整いました。」
部屋の外でお手伝いさんから声が掛かる。
「入ってください。」
手を借りないとベットからも降りられない。
そんな不自由なお嬢様生活を送っている私だった。
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「ティア!目が覚めたのか!?」
夜になって私の部屋に入って来たのは青年だった。若い、母も若ければ父も若い。
「はい、お父さん。心配かけてごめんなさい。」
とりあえず健康なことをアピールすると、顎が外れるのではないかと思う程口があんぐりと開く。どうしたんだろうか、まるでお化けでも見たような顔だ。
「ティア、どうして話せるんだ……?言葉を誰かに教わったのか?」
私に近づくと、後ろで束ねきれていない黒髪がさらさらと顔に落ちる。
なんと説明するか迷っていた時、ふわりと父に抱きしめられた。
「まぁいい、ティアが無事ならそれでいいんだ。」
優しくて力なんて殆ど感じられないが、間違いなくがっしりとした男の人の体だった。線は細く、遠くから見てもマッチョには見えない。しかし騎士というだけあって最低限の体づくりはしてあるらしい。
「ティア、お父さんとお話ししよう。何か聞きたいことは無いか?」
抱きしめるのをやめて私の顔を覗くと、泣いているような、笑っているような、複雑な表情の父が目に入る。
「お父さんは今悲しいですか?私が何かしてしまいましたか?」
思ったままを言葉にすると、父の顔は益々歪んでいった。
「そんなことない、そんなことないんだティア。ただ、赤ん坊だったお前が大人びて見えたから、ちょっと寂しくなっただけだ。ティアは何も悪くないぞ。」
大人びた事が悲しい……?そうか、私の中身は18歳で、大人に甘える歳ではない。
でもこの人にとっては産まれて間もなく、起きる気配のない深い眠りに誘われた我が子なのだ。
そんな他人行儀に話されたら悲しくもなるだろう。
「私は眠ってる間に、女神様に会いました。とっても綺麗な人で、言葉もそこで教えて貰いました。その女神様が作った世界で、お父さんとお母さんの話も聞きました。素敵な人達だって。だから夢の中で、会えるのずっと楽しみにしてたよ。」
「ティア……。」
「それに、私が居たところにお父さんが来てくれた。女神様の世界に届くくらい一生懸命に。それでね、女神様も早く私を帰さなきゃって。お父さんが私の事心配してくれてたこと、ちゃんと判ってるよ?」
父の顔はますます泣き顔に近づいている。しかし、首をかしげて父を見ていると、その表情は笑顔に変わった。
「そうか、ティアがあんまり可愛いもんだから、女神様の目に留まってお話ししたくなったのかもな。それでお話を覚えてくるなんて、ティアは賢いな。」
笑顔に戻った父と、他愛もない話を沢山した。父は王都の騎士団団長を務めていて、この国で3強といわれる戦士だとか、年齢は24歳だとか、母は王都で白金の姫と言われた美人さんだとか。
楽しそうな顔をして話す父が微笑ましくて、私の気持ちも温かくなった。
「レオ、話が終わったら体だけでも拭いてちょうだい。それと、隊の方達にしっかり指示を出さないと。待ち惚けしてるわよ?」
使用人に諸々の指示を出し終わった母が、私と父の様子を見に来たようだ。
「あぁ、今行く。」
母に面倒くさそうに返事をする様子を見て、思わず頬が緩んだ。
「お父さん、私はこの通り平気なのでお仕事してきてください。」
「ティア、今からものすごい速さでむさ苦しい連中に待機の指示と、旅路でくたびれた体を綺麗にしてくるから良い子に待ってるんだぞ?」
そう言って早々に部屋を出て行った。
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夕食が終わって、もうそろそろ寝る時間。普段なら使用人が寝る用意を手伝ってくれる時間に来たのは、両親だった。
「どうしたんですか?」
ご飯は私だけ具材が細かく刻まれたミルクスープだが、残すことなく飲み切ったし、父との再会?も果たして特にやり残したことは無いはずだ。
「ティア、少しだけお母さんに体を診せてくれる?」
「……はい。大丈夫ですが、何をしたら?」
母が手の平を差し出してきたので、私はその上に手を重ねる。
「痛くも無いし、怖くも無いから安心してね。」
「精霊よ、我が意思に応えよ」
光の粒が、私の体を包み込んでいく。
丁寧に私の体を包んだ光は、ふわふわと私の体を漂い、やがて頭部へと集まってくる。
頭部に集まった光は、暫く漂い続けていたが、パチリと音がすると瞬く間に霧散した。
「……どうだ。」
「癒しは効果が無いわ。ティアの体はどこも傷ついていない。」
今のはもしかして……
「お母さんの魔法ですか……?」
「そうよ、ティアは魔法をちゃんと見るのは初めてよね?」
このふわふわとした感覚は、女神様の世界にいた時の感覚によく似ている。
そして気が付かなかったが、目覚めてすぐ教会の人に会った時も似たような感覚に襲わた。目覚めたばかりで気怠いと思っていたが、魔法のせいだったのか。
「ティアも正しく学べば直ぐに使えるようになる。焦る必要は無いさ。」
「それじゃあゆっくり休んでね。おやすみなさい。」
「おやすみティア。」
「おやすみなさい。」
こうして私の初めての魔法体験が終わった。
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【ソフィア】
「あまりにも魔力抵抗が大きすぎる。」
ティアの部屋を出た後、私とレオは私室に戻り話し合いを始めた。
「魔力抵抗……?ありえないだろう、だってまだ5歳だぞ?」
魔力抵抗は、高位の魔術師が他人の魔力の侵入を無意識化で阻害してしまう行為。
他人の魔力を自身に流さないことで、如何なる魔法の効力を無効化する。
「勿論完成された物ではなかったわ。抵抗されるというよりは、探られている感じ。実際癒しの効果は確認できたから。」
「じゃあ何をそんなに悩んでるんだ?」
「ずっと突っかかってるの。癒しの魔法光が、ティアの頭で消えることに。」
癒しの魔法は、魔力で人体の自己再生能力を高めるもの。怪我や異常がある部分を修復するために、自然と魔力は患部に集まるのだ。
目覚めるように、異常があっても大丈夫なように、癒しの魔法を眠っているティアに何度も使ってきた。
そして、毎回頭に魔力が集まって、形を成さずに霧散してしまう。
「問題は無いんだろう?」
「ないわ。癒しの魔法は発動こそするけど、癒す箇所が無いから霧散してしまうの。それにハルクに来て診てもらったけど、異常は無かったわ。」
ハルクは私の同郷で、腕が良い光の魔術師だ。王家の人間を診察することもある位だし、私の見立てとも殆ど一致する。
「心配のし過ぎも良くないんじゃないか?ティアは女神様に会ったと言っていた。俺の特異な体質もあるし、それの前触れだとしたら不思議な事じゃないだろう?」
レオの体質をティアが継いでいると仮定するならば、魔力抵抗が強いことも頷ける。
「でもまだ魔法の顕現もできていないのに。」
「俺だって突然だった。魔法が使えることも知らなかったんだ。しばらくは俺も家にいるし、見守ってあげよう。」
【レオナルド】
突然の吉報に訓練中にもかかわらず大声を上げてしまった。ティアが……目を覚ましただと?生まれてから5年の間、尽くせる手を全て尽くしても目覚めることの無かった愛娘が何の前触れもなく?
「隊長、何が書かれてたんですか?」
「あぁ、娘が目を覚ましたらしい。」
「なんという吉報ですか!早馬を手配します。体調が帰郷される!いつもの様に隊の者は準備をするように!早馬の手配も忘れるな!」
副隊長であるコイツは騎士学校の時からのライバルで、いつもいがみ合っては支え合いの腐れ縁だが、今は上司と部下の関係である。
有事の際は帰郷する事さえ許されないが、今は平和であるし隊の実力もメキメキと伸びているから俺が居なくても大丈夫だろう。
部屋に戻っていつもの様に帰郷の準備をする。前に帰ったのは半月ほど前だから大して時間は経っていない。このまま目が覚めなければどうなるのだろう、と言う不安に駆られて娘を包む魔力にありったけの魔力をぶつけてやった。
ソフィアも俺も、そして治療を試みた魔術師も、娘を包んでいるあの魔力が原因で目覚めないという解釈だった。
手紙を見ると、ティア覚醒、包魔力無。とだけ書かれている。緊急の連絡の為字数を抑えたのだろう、しかしいつものソフィアの字ではあるが少々の焦りも感じ取れる。これは早く帰った方が良いだろう。
「一か月ほどで戻る、何かあれば連絡をくれ。」
「かしこまりました。今度はお嬢様を王都にお連れ下さい。」
「あぁ、少しの間だが頼むぞ。」
馬の胴を軽く蹴り出発する。早馬で1週間程度かかるが、最近森でモンスターの目撃情報が増えていることもあるから多少の遅れはあるかもしれん。
野営の手配や食料の確保、飲み水の観点から行くと遠回りも覚悟しなければならないな……。
「おい、馬を潰しても良いから走り続けてくれ。少し遅くなりそうだ。」
数メートル先にモンスターの気配を感じながら、先遣として一人に声を掛ける。この変に出るモンスターを巻きながら走る事には事欠かない程度の実力はあるはずだ。
「了解しました。先にお屋敷でお待ちしております。」
「気を付けろよ。」
多めの干し肉と飲み水を持たせて出発させる。本当は先遣として俺が向かいたい位だが隊長としての役割を放棄するわけにもいかない。
「会うのが楽しみだな、ティア。」
屋敷に到着して、ソフィアにそっくりな愛娘を見て号泣したなんて話は、今後一切する気は無い。
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「失礼します。初めまして、私はハルクと言います。ティア様のお身体を診させていただきたいのですが手を握ってくださいますか?」
父と再会した次の日、教会から神父さん(といっても随分若いイケメンさんなのだが)がやってきて私の体を診察しに来た。
私の部屋に来る前に両親と何か話をしていたようなので、大体の症状は把握してそうだ。
「はい、お願いします。」
差し出された手を握ると、母と同じように魔法を使われる。母と違う異質な感覚に思わず力みそうになるが、診察の為なので力を入れないように心がける。
しばらくすると、母の時と同じく頭で光が霧散して消えた。
「う~ん、この症状は……。」
「どう?何か分かりそう?」
「……どこにも異常はありません、という事しか分からないです。お嬢様にかけられていた魔法は想像通り認識を阻害するようなもので間違いないとは思いますが、調べようとしてもその魔法自体を阻害されてしまうので何とも……。」
「……そう、貴方の探知魔法でそれならどうしても調べるには王都に行って賢者様にでも診てもらうしかなさそうね。」
「お力になれず申し訳ありません。」
頭を悩ませている大人を尻目に、今言われたことを整理する。
私の症状を聞くと魔力の膜が体を包んでいたらしい。触れたりすることは出来るが魔力的な干渉は全て拒否され、神官や両親の魔法を全て弾いていたという。
その魔法が認識阻害だとすると、恐らく女神様は自分の存在と禁じられた儀式を行った人物から私を守る為にその魔法を使っていたと考えられる。
ではどうしてその魔法を使う必要があったのか、それは私が敵に対する抵抗力を何も持っていない赤子に転生したためだろう。
どんなに魔法の才が高くても、両親が最強の存在であっても、守る存在が己で動くこともままならない赤子ではどうすることも出来ない。
だからこそ己の領域に引きずり込み、己で動き思考することができる5歳という年齢まで私を守ったのではないだろうか。
今の私は少々衰弱しているものの、学ぼうと思えば武器を持ち知識を蓄え立ち向かうことができる。
「じゃあ、王都に居る巫女様にお話を聞けばいいのね?」
「はい、彼女の素性は殆ど明かされていませんが膨大な魔力を持ち全ての属性を扱う事の出来る精霊の寵愛を受けた者です。」
「精霊の寵愛を……。」
「数年ほど前に、森に倒れていたのを神官に救出され突出した能力を生かして王宮に入ったと聞きます。」
「ティアは精霊ではなく女神様と言っていたのだけど、神の事なら巫女より神官の方が確実では?」
いつの間にか話は進んでおり、どうやら私にかかっていた魔法について詳しそうな人物に心当たりがあるそうだ。
「その女神様と言う存在ですが、高位精霊と考えれば辻褄が合います。ソフィア様と私の光属性魔法を受け付けさせないほどの高位な魔法は、それこそ光の高位精霊しか考えられません。」
「だから、精霊の加護を受ける巫女に会わせるべきだということね。」
「はい、彼女は精霊を視ることができるとも聞いたことがあるので何か分かるかと。」
とんでもない量の魔力に……全属性を扱うことができる巫女って最早黒幕なのでは?
「誰を訪ねればいいのかしら。巫女様で通じる?」
「王宮に居るユーゴという神官を訪ねてください。彼が巫女様の保護者ですから。」
そう言って何かの紙を見繕って彼は帰っていた。最後に巫女様の事は極秘であるから、誰にも話さないことを約束させられた。
広まったりすれば自分の首が飛ぶ、と言っていた。
「それじゃあ家族みんな目覚めたから本邸に戻るか。」
……本邸?
「本邸ってなんですか?」
「ん?あぁここは静養やバカンスに使われる別邸なんだ。結構な山の上にあって休むにはぴったりだが少々手狭だろう?もっと街に近い所に本邸があるんだよ。」
このでっかい屋敷が手狭……?何言ってるんだろう私のパパは。この屋敷には使用人が十人以上いるし、部屋の数だって20を超えてる。豪華な内装や設備はとてもバカンスをする為に造られた物とは思えない。
「ここから馬車で一日はかかるから、あまり来ることは無いのだけれど……レオが帰ってきた今なら荷物を運ぶ事に困ることは無いし移動してしまいましょうか。」
母からの提案で使用人があわただしく動き始める。何か準備があるのだろう。
「馬車での移動はティアは初めてだろう?沢山お菓子を乗せて楽しい日にしような。」
ひと家族が横になって余裕で眠り、別のスペースでテーブルで食事を摂れるほどの豪奢な馬車に度肝を抜かれながら一日かけて移動するという非日常を味わった。
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「でっかい。」
思わず出た言葉は何の捻りも無い物だった。太い足に長い胴が特徴で、体力自慢の馬車を引いてくれた馬を尻目に、私は大きいという情報以外を受け付けなくなっていた。
「立派だろう?お父さんの自慢の屋敷だ。」
荷物を運ぶ数人の使用人が母に確認を取って慌てて中に入っていく。馬車の後ろに付けられたさらに小さな荷台に乗ってきた使用人は数人程度で、大多数を別邸に残してきている。
残った使用人たちは普段からあそこに住み込みで働いており、無人となるのを防ぎ手入れをしているそうだ。
本邸の中には別邸より多くの使用人が居るのが目に見えて分かるし、ルームツアーをするだけで数日はかかりそうなほど大きな屋敷だった。
「お父さんはこの家を貰ったんですか?」
「お父さんが17歳の時に貰ったんだ。ある大きなドラゴンを斃したご褒美でな。土地自体はうちの家で代々受け継がれてきたものだよ。」
そんな雑談の中で屋敷の中に入り、靴の泥を落とされて豪華なソファに座る。そのタイミングで家族分の温かいお茶が出てきて、朝とお昼の中間であるブランチが始まった。
私の情報はどこからか伝わっており、いつも通りのミルクスープと今日はブイヨンで炊いた重湯がついてきた。この世界にもお米の様な物はあるらしい。
「さぁ、ここからは家族水入らずでお話ししましょう。まずは家族4人の再会に」
「「乾杯」」
おもむろに掲げられたグラスを傾け、チンという軽快な音が鳴る。
両親はホットワインを、子供二人はオレンジジュースを片手にゆっくりと語らっていった。
今日は色々なことがあった。何となくだが、本当の日常は明日から始まる気がする。
私がやるべきなのは自衛の術を一刻も早く覚える事、そしてこの世界の知識を一つでも多く学ぶ事。
女神様が言っていたように、禁じられた儀式をした人物を探し出し世界に悪影響を及ぼさせないようにするのだ。
誤字などありましたらご指摘をお願いします。




