29話 冬休み 再会
投稿頻度が下がってしまい申し訳ありません。
「おかえりなさいませ、お兄様。」
「ただいまティア、少し背が伸びたね!元気だった?」
5か月ぶりに会う兄は、少しだけ大人びている気がした。頭一つ分ほどの身長差も、私が少し大きくなったところで縮まりはしない。
「久しぶりだなテオ、学校はどうだ?」
「……父上が僕を息子だとお話ししなければ、もっと友人が気軽に増えたとは思いますが。」
「お父様と学校でお会いしたのですか?」
兄の父上呼びに違和感を覚えながら質問する。いくら卒業生とはいえ、息子の様子を見に用事も無く学校へ行くのは、些か過保護では無いだろうか。
「偶然非常勤講師の依頼が入ったんだ。高等科に教える予定で、ついでに初等科に寄らせて貰っただけだよ。」
「まさかそこでいきなりお父様が、お兄様のお父様だとバラしたんですか?」
「バラしたって……本当の事なんだから別にいいだろう。」
「ダメですよ!普通の家じゃないんですから!絶対にその事実で話しかけられなくなった人が居ると思います!」
国内有数の騎士一族で、王族とも仲が良く、現当主は英雄と呼ばれ妻は聖女。貴族ならともかく、これでは平民は話しかけることが出来ないだろう。
「ティアは解ってくれるんだね……。」
「家柄なんて関係ない、学校にいる限りは家柄より人柄だろう。それに、怖気づいてしまうようならテオから話しかけてあげればいいんだ。」
「はい父上、既にそのようにしております。」
父はこの家柄で困ったことは無いのだろうか……。親戚の話も聞いたことが無いし、この家の長男で1人っ子ならば困る必要も無かったのかもしれない。
それにしたって産まれてすぐに貴族のトップに君臨してしまったら、それより下の立場の気持ちを考えるのは難しいか。
「ソフィアが首を長くして待っているはずだ。荷物は使用人に任せて、まず挨拶してきなさい。」
テオは使用人に荷物の概要を話した後、リビングで待つ母の元へ向かった。
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「おかりなさい!元気だった!?」
母はテオの顔が見えるなり身重の体で立ち上がり、テオの元へ向かっていった。慌てたようにテオも手を伸ばし、母の体を支える。
「母上、お久しぶりです。僕は特に変りもなく元気です。母上は大丈夫ですか?」
テオが王都に立った日に母から妊娠の報告を受けた家族だったが、テオには2週間ほど遅れてサプライズの手紙を送った。
俗に言う仕送りのような形で日用品や金品と一緒に手紙を入れたから、通常より早く届いたようだ。合格の知らせの手紙には、兄弟が増える喜びも綴られていた。
「大丈夫よ、もうすぐ生まれると思うからテオも会えるわ。家族皆に顔を見て欲しいもの、予定日に産まれてくれるはずよ。」
雑談もほどほどに、家族が揃ったという事で遅めの昼食を摂ることにした。テオは馬車の中で軽食を、私たちは朝食を食べただけと言ったお腹具合だ。
献立はメインが海産物のパスタ(麺が少し前世とは違う)で、海老やイカ?タコ?のような見た目の具が沢山入っている。
付け合わせには上品な脂身が乗った赤身のカットステーキ、冬野菜のテリーヌが添えられていた。スープはトマトの香りが食欲をそそるミネストローネだ。
「今日は随分気合が入った昼食だな……。」
「久しぶりに家族全員で食べるご飯だから、皆の好きな物をオーダーしておいたの!レオの好きなパスタに、テオの好きな赤身肉、ティアの好きなミネストローネ、少し豪華になりすぎた気もするけど……再会のお祝いだから。」
そう言ってワクワクした様子の母がとても可愛い。
「そういう事か!今日は夕飯も楽しみだし、少し太るかもな~。」
少しも膨れる気配のないお腹を撫でる腕は、鍛えられた筋肉が付いていてムキムキだ。こんな食事じゃ絶対に響かないだろう。心配するべきなのは私の方かもしれない。
母のいただきますに合わせて、それぞれの好物が揃った昼食会が始まった。
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「お兄様、そろそろ王都での生活を聞かせて頂きませんか?」
雑談をしながらご馳走を食べ進め、おおよそ半分が皿から減った頃、私は聞きたくてうずうずしていた話題を兄に投げかけた。
「そうだね、学校の事で沢山話したいことがあるんだけど……」
「試験の内容はどうだったんだ?今年から実技試験が追加されたらしいが……」
「てっきり魔法を見せたり剣技を見せたりするものかと思っていましたが、実際は模擬戦でした。」
話を聞くと、王都校の実技試験は2つに分かれていたようだ。1つ目が受験生同士を競い合わせる勝ち残り形式、2つ目は教師との模擬戦だ。
教師との模擬戦は、自身で戦いたい先生を指定できるという異質なものだったらしい。
「戦う相手を自ら選ぶのか……何の意図があるんだろうな。」
「試験が始まる前に、先生方の戦い方の癖や使う魔法属性の説明を受けました。相性の良い相手を選べということだと思います。」
教師の殆どが魔法も武術もバランスよく出来るバランサーだ。余程固執した趣味嗜好が無い限り、代り映えの無いラインナップだろう。
得意不得意を聞いて、強いて言うならこの人かもしれないという程度だ。
「変わった試験ね……。まぁ教師の数が多いのと、個々のレベルが高く無ければ出来ない話ではあるわ。」
「お兄様は誰を選んだんですか?」
「白いローブを着た、丸眼鏡の似合う若い先生。自己紹介ではサポート役に回る事が多いって言ってたんだ。」
その人の詳しい自己紹介は実に分かり易い物だった。自分は魔法師で、得意魔法は光魔法。幻術などで相手を錯乱し、パワー系の仲間に倒して貰う事が多い。
武術は人並み程度、使う武器は細めの短剣。持ち手が異様に長く、一見杖のようにも見える代物だったそうだ。
「ですが、サポート役というのも武術が人並みだというのも、全て嘘かと思いました。」
「……というと?」
「魔法の発動速度が速すぎたんです。あの速さでは味方にまで幻術がかかってしまいます。」
詠唱も殆ど聞き取れませんでしたと、兄は言った。僅かに唇が動いたと思ったら、目の前に激しい光。
咄嗟に瞼を閉じるが、それでも尚激しい光が瞳を刺す。その光は数種類のパターンでチカチカと点滅し、それが何かの妨害魔法だと気づいたそうだ。
「どうやって光系統の幻惑魔法に対抗したの?」
母は困惑している様だ。テオに魔法を教えていたのは母だし、魔法の実力も良く知っている。もしかしたら対抗する術を持たないテオが、どう対策したのか分からないのかもしれない。
「光を遮る事が出来るのは闇か、もしくは相手と同等以上の光を放つしかないと思いました。闇魔法はまだ使える段階に無いので、光魔法を相手の光にぶつけるように発現させました。」
……それって最高に危険な事では?最悪失明しますよね?
「ほう……それで?」
ニヤリと笑いながら父は話の続きを求めた。私としてはもっと心配して欲しい所だが。
「加減の無い光を放ったことで、幻惑魔法の効力は失われました。ですが問題はその後です。」
自身が発動した光魔法で一瞬視界が失われた後、距離を取る為に風魔法を使って後ろに大きく跳んだ。視界がじんわりと戻る中、見失った敵を視認しようと必死に探したらしい。
「周りを見渡しても姿が見えず、絶対にありえないと思って後ろに振り返ったんです。」
敵を見失った兄はおおきく振りかぶって後ろを見ると、10メートルほど離れた場所に教師は笑顔で立っていた。
そして一言言ったそうだ。
「合格です。」
「……合格ですか?お兄様は先生を見失ってしまったんですよね?」
「うん、どうにか挽回しようと魔法で近づいたら、首元に細い剣先を当てられて試合終了だった。」
抜刀の瞬間も見えなかったそうだ。風魔法で爆発的にスピードを上げた兄に、魔法も使わず体術のみで対抗して見せたと兄は言った。
「魔法をこっそり使っていたのではありませんか?」
「魔力の残骸も見当たらなかったし、あのスピードに対応できる動きは並みの風魔法では不可能なんだよ。」
「風魔法を使った動きは直線的な物だ。魔法に長けている先生なら、風魔法で距離を詰めてくると見切っていたのかもしれないな。」
「とっても高等技術だけど、練られた魔力から次の発動魔法を読むこともできるわ。それが出来る人なのかもしれないわね。」
父と母がそれぞれの見解を話す。そんな化け物じみて強い人が居るのか……王都恐ろしいな。
「先生に褒められたって言うのは……?」
「惨敗した丸眼鏡先生にべた褒めされたんだ。あの人、絶対友達とかいないタイプだと思う。」
「こらテオ、先生にそんなこと言ってはダメでしょう?」
「そんな人が居るのかぁ、俺も会ってみたい……というか模擬戦してみたいな。」
「お父様でも負けることがありますか?」
父はこの国の英雄、強さの片鱗を短期間で何度も見て来たし、その強さは疑うまでもない。ただ、こんな話を聞いてしまうと父より強い人が王都には居るのではと疑いたくなる。
「いや、父上が本気を出すなら負ける事は無いよ。光の幻惑魔法は、闇魔法が得意な父上と相性が悪い。」
テオが自慢げに言うと、父も誇らしげに話し始めた。
「確かに俺の魔法はその先生と相性が良いな。だが、頭が切れる奴って言うのは中々に戦いづらい。感情に流されず冷静に処理されれば、俺も苦戦するだろう。」
まぁ、俺が現役のうちはこの国の誰にも負けないけどなと笑いながら言った。
父は俺が負ける訳がないと驕る事はしない。しかし、絶対に負けるとは言わない。自分の強さや勝利を確信しているが、相手を舐めるような真似は絶対にしない。
それが、最強たる証拠なのかもしれないと思った。
「皆大体食べ終わったわね、食器を下げて貰いましょうか。レラ、お風呂を沸かしてくれる?」
大盛り上がりの昼食もこれで一旦終わりの様だ。
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テオと父が旅路でかいた汗を流している中、私はレラと勉強をしていた。昼食をゆっくり摂ったので現在は午後14時30分を回ったところだ。
普段ならとっくに勉強を始めている。兄が帰って来たからと言って怠けていてはダメなのである。
「水と氷の魔法は基本的に性質は同じになります。ですが唯一違う点は温度です。」
「水が凍ってしまう0℃まで、氷魔法の特性を持っていない人は温度を下げることが出来ないという事ですよね?」
魔法は不思議な力で無から有を生み出すものでは無い。魔力というエネルギーを対価として物質や自然現象を生み出している。
生み出す途中に精霊が得意とする細かな魔力操作がある。基本的に高度な魔力操作は精霊しか出来ない為、各属性のアーティフィカル妖精に気に入られた人間しか魔法を使うことが出来ない。
「その通りです。限りなく冷たい水や、限りなく熱い水を作る事は可能ですが、凍らせたり沸騰させたりするには、氷属性や火属性が必要になります。」
「という事は、氷属性は使えても水属性しか使えない人はどうするのですか?」
「良い質問です。それは、一般的に言われている基本の11属性、その中にも少しだけ種類分けがあるんです。」
魔法の11属性、火・水・風・土・光・闇・音・雷・毒・氷・爆発、これらは大まかに3グループに分けられる。
基本属性、火・水・風・土
無属性、光・闇・爆発
附属属性、音・雷・毒・氷
「半年かけて氷と爆発属性以外を勉強してきましたが、こちらの二つは基本属性に依存しているのが特徴です。」
「……基本属性に依存ですか?」
水を生み出せなければ氷にする事も出来ない。だからこそ、氷属性は水属性に依存していると言われているのだろう。
問題は爆発、爆発属性は何に依存している?私の足りない知識で考えれば火属性一択だが……。
「氷は先程説明した通り、水属性に依存しています。では爆発は何だと思いますか?」
「……火属性でしょうか。」
「残念、正解は風属性です。」
「風ですか?」
私が首を傾げて頭の上に疑問マークを浮かべていると、タイミングを見計らったようにノック音が響いた。
「どうぞ。」
入室を許可すると、そこにはお茶を持った兄(持っているのは使用人だが)が申し訳なさそうな顔をして立っていた。
「お兄様……?」
「ティアが勉強を頑張ってるって母上から聞いて来てみたんだ。」
はい、休憩の紅茶。といって私の部屋にあるテーブルに置くよう使用人に指示する。
「そうでしたか……勉強を初めて1時間ほどしか経っていませんが、早めの休憩にします。」
今日は始める時間も遅ければ、休憩の時間も長引きそうだ。
「なんの勉強をしていたの?」
「魔法の属性についてです。残すは氷と爆発だけなのですが……。」
「附属属性と無属性の魔法だね……それに、難しくて奥深い魔法だ。」
「テオ様は、爆発属性が何に依存している魔法かご存じですか?」
「知っているよ。依存しているのは風属性、理由は爆発が高い圧力によって起きるものだから。」
レラの質問に淡々と答える兄、そしてこう続けた。
「可燃性の気体を発生させたり、高い圧力を瞬間的に生み出すには風魔法が必須。だから爆発魔法の使い手には、風魔法の達人が多いんだ。」
風の中に単純な空気では無く可燃性の物質を発生させるには、風魔法以外の属性の助けも必要だけどね、と補足も忘れない。
「100点です。さすがテオ様ですね。」
レラが顔を綻ばせながら小さく拍手する。確かに水素爆発とか、ガス爆発とか、詳しくは知らないけれど火が関係なさそうな爆発も多い。
風魔法が得意な父は、爆発魔法も得意なのだろうか……?
「という事は、お父様は爆発魔法得意ですか?」
「父上は初陣で敵国の兵士数千をたった1人で退けたんだ。たった一発の爆発魔法でね。」
私の父、規格外でした。
「そんなことがあったんですか……。お父様は本当に規格外ですね。」
「父のようになるのが目標だけど、学校に通ってみて初めて、父がとても遠い存在だと気が付いたんだ。まるで雲の上だよ。」
兄は学校で色々な武勇伝を聞くことがあるという。だが父の武勇伝はいろんな意味で異常らしい。強者ぞろいの王都でも伝説として語り継がれる私の父はれっきとした英雄だ。
その後もレラがクイズ形式で兄に問題を出しながら、私に説明する時間が流れた。
小一時間ほどの休憩も終わり、ティーポットが空になる。
「邪魔してごめんね、夕食は18時頃らしいよ。それまでに席に着いておいてって、母上から伝言を預かってたんだ。」
今度はティーポットを自分で持って、兄が出口へ歩いていく。
「邪魔なんてことはありません。私も息抜きが出来ましたし、机に向かって勉強するより頭に入った気がします。夕食の件、かしこまりました。」
出口まで付き添ってお辞儀し兄を見送ると、下げた頭をポンポンされた。兄はティーセットを片手で持ったのだろうか……。
足音が遠のいたのを耳で確認して頭を上げる。男尊女卑というか、跡取りである兄を立てるように私も教育されている訳だが、それを嫌だと思った事は無い。
偉そうな部分が無いというのが、私がこの環境に納得できている大きな理由の1つだと思う。
「お嬢様、大分所作が板についてきたと思います。私感動いたしました。」
「本当ですか!そうなら座学を少し減らして魔法の実技をしませんか?先程のお話を聞いていたらとても気になってしまいました!」
「それとこれでは話が別です。」
「え~……。」
夕食の前まで、お勉強タイムは続きそうです。
誤字、脱字などありましたらご指摘をお願い致します。




