27話 テオの心情②
投稿が遅くなってほんとっっっうに申し訳ありません。
(仕事がバタついててそれどころではありませんでした。)
ストックを減らさずに、投稿頻度も落とさないの難しすぎる……。
受験生用の寮は1人用のホテルのような造りだった。ベットにテーブル、2人掛け程のソファー、鏡台にシャワーブース、そして手洗い場。
最初に説明会の様なものがあり、食事は決まった時間に出ること、大浴場があるということ、洗濯は2日に1回集めてくれる等、基本的なことを教えてくれた。
1週間程宿泊するならば十分すぎる対応だろう。これ以上丁寧な対応を求めるのならば王都に実費で泊まるべきだ。
「今日は早めに寝たいな。」
今は説明会が終わり、各自で夕食も摂り終わった午後9時。普段ならここから少々勉強する所だが、長旅の所為か疲れがたまっているらしい。
「本当は湯船に浸かりたいところだが……。」
ヘイデン家の跡取りが大浴場で湯浴みしているのは体裁が良くないだろう。旅の途中も満足に湯船に入れていない為、入りたい気持ちは山々だが体を拭くことで我慢する。
「明日、個人用の湯船を探すか……。」
貴族の中でも特に裕福な層には、家ではなくサービス付きの湯船がある店に通う人も多い。マッサージであったり酒であったり、サービスは様々だが希望すれば1人での入浴も出来るはずだ。
「精霊よ、我が意思に応えよ」
使う魔法は水と火の複合魔法、お湯を創り出すポピュラーな魔法だ。備品の中に桶が有ったので、それにお湯を溜める。
荷物からタオルを一枚取り出して、温かいお湯を絞る。体を拭くと、体だけでなく心もすっきりした気がした。
「明日は校内を見て回りたいな。」
勉強することはさほど残っていない。暗記部分の復習を試験前日にすれば十分だ。それまでは体力と気力の回復に専念しよう。
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起床は7時、8時から朝食の時間だからその時間に間に合わせたい。いくら勉強はしなくて良いとしても、体は動かさなければ鈍ってしまう。
家に居るのと大体同じスケジュールで動くことが、体調を整えることに繋がってくる。
「精霊よ、我が意思に応えよ」
コップに水を溜め、桶にお湯を張る。お母様が髪用の石鹸をこれでもかという程持たせてくれたので、髪だけは洗おうと思う。
訓練のお陰で魔法もずっと使いやすくなった。前は複数の属性を扱う事なんて夢のまた夢状態だったが、今は3属性まで同時発動が出来る。お母様は5属性の複合魔法を使えるから僕なんてまだまだだが、2属性であれば特に注意することも無く使うことが出来る。
「良い匂いだけど、女の子っぽくないかな?」
母が持たせてくれた石鹸をもう一度嗅いでみると、母から香ってくるフルーツと花を組み合わせたような爽やかな香りがする。
それでも石鹸の匂いはこれだけだし、今更取り換えることもできないから素直に洗う事にする。
「精霊よ、我が意思に応えよ」
風魔法で髪を乾かせば見た目の準備は完了だ。父は香油を使って髪の毛を整えたりしているらしいが、今の僕には必要ないだろう。
青色の瓶に入った香油をカバンの奥に押し込める。もう数年したら、自ら使う時が来るかもしれない。
服を着替えて出かける準備を済ませれば、もう8時目前だった。一階のホールに着くころには丁度良いだろう。
部屋を出て階段を下りていると、同世代の男子に声を掛けられる。
「早起きだね、長い移動だったのに。」
「君こそ、8時に朝食を摂りに来る人は少ないかな?」
赤茶の髪の毛を後ろに束ねた長髪の男子、周りの人は疎らでまだ起きていない人が多そうだ。
「少ないと思うよ。ここの寮は比較的地方から来た生徒が集められているみたいだし、使用人を連れてきている人も少ない、単純に起こしてくれる人が居ないんだよ。」
毎年の事らしいけどねと肩を上げる仕草をする。
「君は詳しいんだね。確かにそうか、皆長旅で疲弊しているし起きれないのも無理はない。」
「兄がここの生徒なんだ。いろいろ聞いているから、分からない事が有ったら聞いてよ!僕の名前はイアン、君は?」
「僕の名前はテオ、頼りにしてるよ。」
家の事情で、僕より早く王都に来ているはずの親友の名前によく似ている。性格も貴族らしくないというか、驕った感じも無くて話しやすい。是非仲良くなりたいものだ。
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「存外豪華なんだな。」
1階の朝食を摂る会場に着くと席に案内された。人が少ないからか待たされることも無く、係の人からメニューを渡される。数種類あるセットメニューから、好きな物を選ぶシステムらしい。
「貴族の多い学校だからね。昼食はもう少し簡素になるけど、夕食はもっと豪華だよ。」
僕は魚のセットを、イアンは肉がメインのセットを選び備え付けられた呼び鈴を鳴らす。普通の飲食店のように対応してくれる寮なんて珍しいだろう。
「味は感想を聞くに保証できるよ。あ、テオの好みはまだ分からないけど……。」
「特に好き嫌いもないし、移動では温かい手間のかかるご飯を食べられなかった。だから何を食べても美味しいさ。」
イアンとの雑談は楽しく、時間が過ぎるのはあっという間だった。食事が運ばれてきてからは、お互いマナーが染み渡っていたので会話は少ない。
メニューは魚がメインのワンプレート。上品な油が乗った白身魚には、食べやすいようにレモンが香り付けとして飾られていた。他にはハーブの香りが移されたバケットと、たっぷりの温野菜、デザートは苺をたっぷりと使ったタルトだ。
なかなかボリューミーなメニューだが、さっぱりとした味付けで食べやすい。存外ぺろりと食べ終えることの出来た自分に驚く。
「……美味しい食事だった。」
「本当?テオの口にもあった?凄くさっぱりした味付けで美味しかったよ!お肉も柔らかくて、ハーブの香りが爽やかでさ……。」
「これは食事が楽しみになる気持ちもわかるな。」
「お昼も楽しみだよね……あ、テオはこれから何か用事はある?」
「体を動かしたいと思ってたんだ。勉強も大切だけど、体は鈍ったら取り戻すのに苦労するだろう?」
できれば平坦な広場や運動場ではなく、足場の悪い林や森があればベストだ。しかしここは王都で、しかも学校の敷地内、周りには建物ばかりで木々は見えない。きっと運動場で訓練することになるだろう。
「勉強じゃないのか……テオは余裕だね。皆起きたら焦って机に向かうだろうに。僕は兄と会う予定があるからここで失礼するよ。12時に、また会おうね!」
食事会場の外で、階段と玄関の分かれ目でイアンと解散した。昼食も12時に摂るつもりなようだし、問題なく会えるだろう。
イアンが言うには運動場は空いてそうだが……僕の親友は居るだろうか。あっちだって勉強には困っていないだろう。考えることは同じな気がする。
とりあえず運動場に向かおうと思い、外への一歩を踏み出した。
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「すみません、少し体を動かしたいと思っているのですが、近くに運動できる場所は有りますか?」
「初等科の受験生ですね、近くに広い運動場があります。えーっと、突当りを右に曲がって3本目の道を左に曲がると赤色の看板が見えるはずです。それが目印になりますよ。試験、頑張ってくださいね。」
優しく運動場の場所を教えてくれたのは、白いローブで全身を纏った若い男の先生だった。丸い眼鏡が印象を一層柔らかいものにする。
「ありがとうございます。」
お礼を言って教えて貰った場所へ行くと、運動場と書かれた赤い看板が目に入る。寮に囲まれた場所にあるが人は疎らで、それほど混んでいない事が想像できる。
「皆座学をやっているという事か……。」
座学の範囲は一年も前から出ているし、切羽詰まるのは勉強ではなく実技のはずだ。暗記や知識は早々に詰め込むことが出来ても、体の動きは頭に入れるより時間がかかる。積み上げた物が崩れやすいのも、自身の経験からすれば体の方が早い。
本格的な訓練が出来なかった移動期間を取り戻すのに、一週間ではギリギリだ。
「失礼します……。」
重そうな扉を開けると、そこには数人の受験生が体を動かしていた。大多数の者が走りこんだり腕立てをして準備運動をしている中、1人だけ木刀を振る人物が目に入る。
「アラン!」
「テオ!遅いじゃないか!」
親友の名前を呼ぶと、木刀をベルトに挟みながらこちらへ駆け寄ってくる。
「実家の用事は済んだのか?」
「あぁ、まぁな。まだ家族がやる事は色々残ってるんだが、僕は試験が近いからって解放されたんだ。今日からテオと同じ寮に宿泊するよ。」
アランの胸元には、家紋のブローチが付けられている。それは、アランの家で代々跡取りに受け継がれるものだった。
王都の親戚に魔法の優秀な従兄が居て、後継ぎはその従兄のはずだ。しかし胸元に光るブローチがそれは違うと告げている。
「……次期党首殿に何かあったのか?」
「……流行り病だったらしい。兄が助けを呼んだ頃には、もう手の施しようが無かった。」
流行り病に対応する治癒魔法を創るのは至難の業だ。体を蝕む細菌は、完成した病に比べてコロコロと変わりやすいと聞く。王都の魔法を使える医師でも、治療が難しい。
「そういう事だったのか……何と言ったらいいのか。」
アランだって将来有望だと楽しみされていた。年上の従兄が居ることで、跡取りから遠い様に見えるかもしれない。だがそれと対照的に、何かあれば自分が矢面に出されるという事は前々から教えられていたはず。
ただ、仲の良い従兄を亡くした心の傷は、少しの時間で無くなるものではないだろう。
「いつだって跡取りになる覚悟くらい出来ていたさ。これで近所の人や歪んだ親戚から、将来についてとやかく言われることも無い。」
そう言って笑ったアランの顔は、少しの寂しさを滲ませていた。アランを跡取りにしようと模索していた親戚だっていたはずだ。それは本人の意志とは全く関係の無い所で動き出す。
不本意な形で跡取り争いをしなくて良いのは、将来にとっていい事だったかもしれない。
「次期当主様も、アランが跡取りになるのなら文句は言わないだろう。せいぜい出来の悪い跡取りだと後ろ指を指されないように努力しないとな!」
辛気臭い空気を払拭する為にアランの肩を強めに叩く。
「これでお互い面倒な跡取り同士だ、テオには負けないさ。」
この話を皮切りに、僕らは訓練に励んだ。
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「……テオの剣先、どんどん早くなってないか?」
一時間ほど模擬戦を行った後、切れた息を整えながらアランが問いかけてくる。
「……確かに多少は早くなったかもな、お父様……父上の相手をさせて貰っていたら自然とな。」
両親の呼び方を変えようと心に決めたのは、ティアが生まれた時だった。お父様とお母様という呼称は馴染みあるものだが、妹といつまでも同じだと格好がつかない。
学校に通い始めると同時に、父上と母上に呼称を変える。
「英雄の剣技かぁ……想像もつかないな。」
「まだ1本だって取れた事は無いさ。ただ、打ち込まれた剣を致命傷を避けるように往なすので精一杯。」
護る事ばかりで攻めを知る事が出来ないから、父は攻撃せず護るだけという条件で打込稽古をした。屈辱的だったが、それでも父から1本も取れなかった。
「得るものも多いだろう?常に前線におられる方だ、教師とは教える重みが違う。」
「確かにな……体がついてこないが、大抵の剣は遅く見えるよ。目はついてくるんだが、それに対応できるだけの体がまだ無い。」
父の剣は人が見える姿を超越していると思う。風の精霊に愛されているからか、常時風魔法を発動して動きが早い。その速さを使いこなすことの出来る体があってこその御業だが、それにしたって強すぎるんだ。
「良いなぁ……実践の剣技は美しいだろう。俺の剣は少々鈍い、というか実践には適していないと思うんだ。」
「本来実践の剣技はこれから習うものだ。僕は父上が騎士だから触れる機会があるだけで、本来ならアランが正しい。それに、そちらの教師は有名で優秀な先生だろう。そんな風に言ってやるなよ。」
すっかり息も整ったので、水を飲みに怠い腰を上げた。僕たちが立ち上がると、周りで木刀を振っていた受験生がぞろぞろと近づいてくる。
「……もしよかったら、僕と模擬戦をしてくれないだろうか?」
「12時までには寮に戻りたいんだ。それまでなら相手になるよ。」
僕とアランは快く模擬戦の申込を対応した。
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「流石にやりすぎたぞ、テオ。」
8人と模擬戦をして、8勝0敗。当たり前と言えば当たり前だ。こんなところで負けて良いはずは無い。
「だけど……手を抜く訳にはいかないだろう?」
前半5人は、正直相手にならなかった。僕はその場から一歩も動いていない。あちらから勝手に切りかかってきて(物凄い大振りで)、少し力を抜いて往なしたら尻餅をついて転んでしまった。そのすきを見て首筋に木刀を翳す。
似たような事例が4人ほど続いて5人目、彼は見切りに自信があったようで中々切りかかってこなかったので僕から動くことにした。軽く切りかかると予備動作が大きすぎて、何処に力を受け流して次にどう動きたいのか丸分かりだった。これも即座に見切りを更に見切って攻撃、少し変わった戦い方だが、大きく空いた実力差には敵わない。
「その通りだけど……自信を喪失して試験を辞退したらどうするんだ。」
後半3人は中々実践にも慣れているようで(あくまで模擬戦の話だが)動きが読みづらく、攻めにくかった。しかし丁寧に戦おうとしすぎて動きが遅い、父の攻撃をギリギリで躱す訓練をしてきた僕には少々遅すぎた。
動きが遅いという事は、次の動きが予測できるという事。丁寧に訓練の動きを反復しようとすれば、それはセオリー通りの型に嵌りすぎたものになる。
これではスキが生まれますと言いながら動いているようなものだ。
「そんなことをする必要は無い。ここまで努力してきた過程は、一回の敗北で無駄になるようなものでは無いからね。それは、ここに受験資格を持って集まった者達が一番よく知っている事だ。」
同世代では、僕の敵は居ないだろう。いや、居てもらっては困るのだ。生半可な修行をこなしてきた訳ではない。
ヘイデン家を背負ってここに立っている以上、剣技で他の人、ましてや同世代に負ける訳にはいかない。
「そうなら良いんだけどさ……まぁ皆、そんなに落ち込まないでよ。こいつ、めちゃめちゃ強いし勝てる人なんて中々いやしないんだ。十分動けていたし、初日からここに居ると言うだけで、君たちは並み以上の実力があるって事なんだし。」
座学を終えて、自らの肉体の強化が課題だとしている受験生たちは、寮に引きこもって勉強をしている生徒たちよりは確かに優秀だろう。
「本番で、もう一度戦うのを楽しみにしているよ。君たちは強くなれるから。」
足元を掬われないように、日々の鍛錬をより一層引き締めてやろうと思った瞬間だった。
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「……運動場で8人も伸して来たって?」
12時ぴったりに寮に到着した僕たちは、律義に食堂の前で待っていたイアンと合流した。イアンはアランの顔を見てキョトンとした顔をしたが、同郷の親友だと紹介すると持ち前のコミュニケーション能力であっという間に仲良くなった。
「そうなんだよ、最初は少し遊ぶ程度かと思ったら一撃で沈めるんだから俺も焦ってさ。」
「うぁ~、それは倒された人が気の毒だよ。自分に自信も無くなったら、この試験をどうやって乗り超えればいいのさ。」
僕を出汁にして話に花を咲かせる2人組、ジト目で2人を見つめてみるが長年親友をしているアランと、不思議な魅力のあるイアンには全く響いていない。
「……そんな話はほどほどにして、もっと実のある話をしないか。」
「え~、テオが鬼畜だってこと以外に実のある話なんてある?」
そんな冗談を飛ばしているうちに昼食が運ばれてきた。メニューはサンドイッチとスープ、季節のフルーツだ。昼食はメニューが複数ある訳では無く固定だった。軽い物なのは、間食を各自で摂れと言うことなのかもしれない。
「さっさと食べて、食後の予定を組むぞ。」
3人仲良く食事を囲って、試験までの僅かな時間を楽しんだ。
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