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12話 春華祭 容疑者

少々長くなってしまいました。

ブックマークが増えました。


嬉しいです。

「テオとティアが一番目立っていたな!」


 騎士らしくもなくケラケラと笑う父を、初めて殴ってやりたいと思った。目立っているなら早々に教えて貰いたいものだ。

 自分の注目度を理解しないままステージに上がった事で酷い目に遭いましたよ。私も兄も異性の殆どを相手にする羽目になりました。

 ヘイデン家の人気は恐るべしです。


「ティアは初めての本番だったのにとっても上手だったね。練習の時はすごく緊張してたのに。」


 魔法のインパクトで気が散っていたのであまりダンスに気持ちが向いていなかったお陰です。それに動きを体に覚えさせていたので、考えて動く必要がありませんでした。


「私に根気よく教えてくれたレラに感謝です。ところで、この後は皆何をするんですか?」


「そうだな……俺が子供の頃は出店を回ったりしたが、疲れたなら一旦家に帰るか?」


 父の提案がとても魅力的だ。ダンスが思いのほか長かった為正直疲労困憊だし、今日はおめかしや移動の為に早起きしたため眠気が来ている。春華祭は2日間ある事だし、出店は明日もやっているはずだ。


 お言葉に甘えて休ましてもらおうとしたが、不意にこちらを見ている少女たちに気が付いた。年の頃は私より少し上だろうか。


「お父様、あの子たちとお話がしたいのですが。」


 指をさすのは失礼だと思い、少女たちに顔を向ける。父とテオも3人を視界に入れると、控えめに会釈してきた。

 私の事が気にはなっているが、父やテオが居るので話しかけられないと予想。お友達になるチャンス!


「そうだな、お話に混ぜてもらいなさい。けど遊ぶのは春華祭の会場内だけだ。約束だぞ?迷子防止にこれを首から下げておくんだ。」


 迷子になんてなりませんと言いたいところだが、方向感覚に自信はないし、唯一街に下りた時もシルフィさんに攫われて行方不明になっている。父の言う事は素直に聞いた方が良いだろう。

 手渡されたのはコインが付いたネックレスだ。ドレスの装飾品として立派な首飾りを付けているから、紐でコインを吊るしただけのネックレスは少々相性が悪い。


「これは……?」


「魔道具だ。ティアが魔力を流し続けている間、俺が持ってる魔道具でティアの様子を確認できる。」


 そう言って懐から取り出したのは手のひらに収まる程の手鏡だった。


「これにティアの姿が映し出されるようになってる。」


 鏡を覗き込むと、私と父の顔が映っていた。何とも不思議な魔道具だ。


「ティアは特に意識しなくても、首から下げてさえいればいい。」


 私の身を護るものなら、景観が悪いからと着けるのを渋る事は無い。


「わかりました。良い子にしているので、お父様もお祭りを楽しんでくださいね!」


 ドレスの中にネックレスを入れて、こちらを見ていた少女たちへ向かう。

 大人しそうな3人グループで、身分は1人を除いてそんなに高くなさそうだ。高貴な人との接し方はまだ教わっていない為、失礼があったら大変だ。


「こんにちは、よろしければ私もお話に混ぜて頂けませんか?」


  グループの中の、一番年上に見える水色ドレスの女の子に話しかける。


「ごきげんよう、私はリリーと申します。是非お話しさせて頂きたいと思っていました。」


 あれ、子供同士の挨拶はこんにちはで良いって教わったけど。この子ごきげんようって言った?

 もしかして……淑女として負けてる!?


「ありがとうございます。私の名前はティアです。リリーさん、お友達の名前を紹介して頂いてよろしいですか?」


 心を顔には出さず、冷静にリリーさんの両隣にいる黄色と緑のドレスの少女に目を向ける。


「私の右側に居るのがアンネ、左側に居るのがハンナです。二人とも私の2つ下の6歳になります。」


 黄色のドレスがアンネさん、緑のドレスがハンナさんで、私の一つ上か。という事はリリーさんはテオと同級生!


「アンネさん、リリーさん、初めまして。ティアと言います、仲良くして頂けると嬉しいです。」


「初めましてティア様、アンネです。お話しできて嬉しいです。」


「ハンナと言います。お会いできて光栄です。」


 アンネさんはまだお喋りが苦手そうだ。それに比べてハンナさんは饒舌で、少し似たものを感じる。まぁ私が5歳でこれだけ話せるのは、中身が18歳だからなんだけど。


「私たちはこれから春の森へ行こうと思っていたのですが、ティア様もご一緒していただけますか?」


「春の森……ですか?」


「はい。春華祭に合わせて役所が作っている花畑です。背の高い生け垣があって森の様に密集しているので、通称春の森と呼ばれています。」


 ほうほう……それは面白そうだ。是非とも見に行きたいが、会場内にあるだろうか。


「春の森は春華祭の会場内にありますか?父から、あまり遠くに行かないように言われているので……。」


「問題ありません。ダンスステージの反対側なので会場内ですよ。」


 ダンスステージは広い場所が必要なため、春華祭会場の端に造られている。その反対側という事は会場内ギリギリと言った所か。

 だけど会場内にあるらしいし、同年代のお友達も欲しいし、行っても大丈夫だよね?


「そうなんですね!是非とも行ってみたいです!」


 私たちの足で向かうには時間がかかる為、リリーさんの馬車で移動することになった。

 馬車は一般的に見る木製で、小窓のカーテンが可愛らしいフリルの物になっているのを見ると、これはリリーさん専用なのかもしれない。


「小さな馬車で申し訳ございません。比べてティア様が会場まで乗っていた馬車はとても素敵でした。」


 馬車の一般的な広さが分からない為何とも言えないが、確かに子供でも4人乗ったら結構ぎゅうぎゅうだ。リリーさんのメイドは、御者と一緒に外付けの席に座っている。

 普段は2人、乗っても3人が定員なのかもしれない。


「父が普段乗っている銀色の馬車では味気ないと、春華祭に合わせて用意してくれたんです。」


「そうなんですか!あの国の紋章がついた銀の馬車は、騎士団の団長、副団長クラスに国から与えられるものです。それを味気ないなんて……」


 少し呆れた雰囲気のあるリリーさんと、度肝を抜かれたように目をまん丸にしているアンネさんとハンナさん。

 あの馬車国からの支給品だったのか。あまり褒美とか報酬に執着の無い人だから、立場のある人に贈られる品も興味が無いのかもしれない。


「父は余り仕事に関して話さないので、頂き物だという事も今知りました。てっきり仕事用の馬車だと思い込んでいましたので……。」


「家族にもお話にならないのですね……。国への忠誠心故でしょうか。」


「私があまり、父に話を聞かないだけという事も考えられますが、聞いたことはありませんね。」


 立場の高い人になればなる程守秘義務とかありそうだし、厳しそうに見えない父も仕事に関してはきっちりしているのかもしれない。


「お嬢様、到着いたしました。」


 リリーさんのメイドが到着を告げる。殆ど揺れる事無く快適な道だった。

 メイドさんの手を借りて、一番最後に下ろして貰う。


「綺麗……。」


 春の森は、一面に広がる花畑だった。私が分かる花はチューリップやマリーゴールドぐらいだが、バラのような花も咲いている。丁寧に切りそろえられた生け垣は、成人男性と同じくらいか少し高い程度だろうか。私たちよりだいぶ高い。


「この花畑はまだ一角に過ぎません。この生垣の迷路を超えた先に、一番広い広場がありますの。私たちは毎年、違う入り口から入って誰が一番最初に広場に着けるか、競争して遊んでいます。」


 迷路みたいなものだろうか。子供が遊ぶには確かに楽しそうだ。


「難しい迷路ですか?」


「私たちが遊ぶ迷路ですから、5分もあれば広場に抜けるはずです。」


 それなら方向音痴な私でも大丈夫だろう。何かあれば光の魔法をぶっ放して助けを求めればいい話だ。


「分かりました!やってみましょう!」


 私は最初に到着した入り口から始めていいらしい。皆が入り口に揃ってから始めるのかと思ったが、初めてだからとハンデを貰い早々と迷路へ入る。


 生垣には棘のある花が咲いており、ぶつかるとドレスが引っ掛かりそうだ。


「……分かれ道あるのかな。」


 ドレスが長い為、全員走ることは出来ない。走れたとしても淑女として良くないだろう。


「とりあえず、行き止まりに着くまで歩くしかないよね。」


 暫く続く直線に、ここは本当に迷路なのかと疑いたくなる。周りを見渡しても高い生け垣が視界を遮る為、周りがどうなっているのか把握できない事が不安を煽る。


 まさか後ろを振り返ったら道が無くなってるとか、そんな冗談は無いよね?


「怖くて振り返れない!」


 不気味な事って、考えれば考える程怖く感じる。この現象に名前はあるのだろうか。


 先を急ぐと子供の後ろ姿が見えた。不審者にならないように気を付けながら近づくと、その少年は美しい黒髪を持っていた。


 突然ピタリと、前を歩いていた少年が止まる。


「君、面白い気配がするね。」


 振り返った少年は、黒髪にグレーと赤の瞳を持つ、私と同じオッドアイだった。


「私……ですか?」


「あ!君、僕と同じオッドアイだね!珍しい!自分以外のオッドアイに初めて会ったよ。」


 距離を詰めてくる少年に驚いてしまい、返事ををすることができない。顔がはっきりと見える距離まで近づかれて、初めて少年の美しさに感嘆した。


「ビックリさせちゃったかな?僕の名前はカイル、12歳。君の名前は?」


「私の名前はティア、5歳です。」


「初めましてティア。僕はアクスオート神国から、春華祭を見に来たんだ。君はこの国の子?」


 アクスオートと言えばすぐお隣の国だ。水の神様を信仰していて、水殿といわれる王様の御所が有名だ。そして、我が国とはあまり仲良くないとも聞いている。


「はい。シルフィセレフに住んでいます。」


「ふーん、そっか。この国は自然が多くて、人々が幸せそうだ。豊かだからか分からないけど、魔法の源も多い。……ティアは魔法は使えるの?」


 どういう意図の質問だろう。掴み所が無いというか、何を考えているのか分からない。


「光の魔法だけ使えます。……ルス、おいで。」


 普段ルスは人見知りなのか人前に出てきたがらない。家の中では自由に動き回るが、外に出ると私のポシェットの中から出て来なくなってしまうのだ。

 呼べば出てきてくれるのだが。


「あれ、ティア妖精持ちなの?残念、ハズレかぁ。」


「ハズレ……?」


「父に言われたんだ。春華祭には、僕と同じような子供がいるはずだってね。」


 僕と同じ……?12歳って括りの事か、それとも観光客という意味でか。はたまた全くの別物か。


「私は一緒ではないという事ですか?」


「そうだね、僕は魔法を使うときに妖精の力を借りる必要は無いから。残念だな……やっぱり僕にしかこの才能は無いのか。」


 この子は、とんでもない事を口走っている。そんな軽々しく言っていい事ではない。もし大人に聞かれていたら?子供の戯言だと聞き流されると思っているのか。


「妖精の力を借りずに、魔法を使えるの?」


「そうだよ。光の魔法以外なら、どんな魔法だって完璧に近い。僕は天才だからね!」


 光属性の魔法が使えず、それ以外は完璧……?


 ……嘘だ。私がこの世界に転生する原因となった、禁断の儀式を行った人間と特徴が酷似している。


「……カイルさんは、どうしてそんな風に魔法が使えるの?」


「父が魔法の研究者なんだよ。余り詳しくは言えないけど、より効率良く魔法が使えるようにする研究をしてるんだ。」


 カイルさんは、その研究結果という事だろうか。


 その研究の先に有ったのだろう。妖精の力をそのままに使う事が出来る、禁断の儀式が。


 その儀式がどのように遺されているのか見当もつかない。しかし結果が未知数の儀式を、自分の子供で実験するなんてイカレてる。


「お父さんのお名前は?」


「……やっぱりおかしいよ。どうしてそんなことが気になるの……?父の名前なんて、ティアには関係ないじゃん。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……!ティアの反応が消えた。」


 これは魔力が切れたんじゃない、魔道具自体が壊されたんだ。


 自分の懐で真っ二つになった鏡を確認して、あり得ない状況に頭を抱える。


「テオ、一旦馬車に戻ってくれないか。ティアの様子を見てくる。」


「お父様、ティアになにかあったのですか?」


 幼い息子に焦る心情を見抜かれるなんて情けない。ただ余裕が無いのも事実だ。そこら辺のチンピラが、あの貴重な魔道具の効果を知っているとは思えない。しかし万が一にも知っている奴が居れば、身代金目的に誘拐するかもしれない。


「大丈夫だ、お父さんに任せていれば問題ない。ただ急ぎたいんだ、テオを連れて行っては遅くなってしまう。分かってくれるな?」


 悲しそうに頷く息子を置いていくのは不憫かとも思うが、この子は寂しがりの弱虫ではない。それを今日のダンスステージで見せてもらった。


「馬車までは1人で戻れるな?お父さんが帰ってくるまで、馬車から出ちゃいけない。御者の人にこれを渡して、自分と馬車を護るように俺から言われたと言うんだ。

 すぐ戻るから、安心して待っていてくれ。」


 懐から金貨を取り出しテオに握らせる。御者は運転技術はそこそこ、腕っぷしは天下一品の者を連れて来た。馬車に戻れば危険はないだろう。

 馬車までは歩いて5分程、テオならば街に顔見知りも多いし、まだ安全なはずだ。


「精霊よ、我が意思に応えよ」


 鏡に最後に映った森の様な場所、春華祭の会場内で考えると、春の森しか有り得ない。


「無事でいてくれ……。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「余り驚かないんだね。」


 どこまでも暗い、いや冥い(くらい)空間だ。気が滅入る様な陰湿な雰囲気、そんな場所に12歳の少年と、5歳の幼女が二人きり。


「突然何をするんですか。」


 カイルさんの父の名は、結局教えて貰えなかった。返事の代わりに、父から貰った魔道具を壊されるサプライズだ。


「だってあの魔道具はティアの居場所を教えるための物だろう?込められていた魔法は、魔力感知と光魔法の反射かな?対になる魔道具は、何かにティアの現状を反射させて教えていたはず。」


 答えとしては100点、間違いなんてない。ただ、手段っていうものがあるだろう。突然ふわりと魔法具が浮いたと思ったら、次の瞬間にはコインが真っ二つだ。

 さらにその刹那、黒い何かが私とカイルさんを包み込み、気が付いたらここに居た。


「怖がらないでよ、ただティアとゆっくり話がしたいだけなんだ。傷つけるつもりもないしね。大人とかくれんぼしているみたいで楽しいだろう?」


「今すぐ私を帰して下さい。何も言わないで居なくなるなんて、心配かけてしまいます。」


 何が起こったのか理解はしていないが、この空間が魔法だという事は解る。雰囲気は全然違うが、精霊の創り出す空間と似ている。同じだと考えると、現実では私は行方不明だろう。


「うーん……やっぱりもう少しここに居よう。この魔法は成功したのが初めてなんだ。空間魔法って言うんだけど扱いが難しくて。ティアを迎えに来る大人が、この魔法を知っていればいいけれど……。」


 私の必死さは伝わっていない様だ。また家族を心配させてるよ絶対!お父さん禿げちゃうよ!問題児認定されて、外出禁止とかになったら一生友達もできない。


「あ、ティアに質問なんだけど、逆にティアのお父さんは何て名前なの?」


「レオ、レオです。」


 本名を言っていい物か、それともダメなのか。判断に困るから嘘とも真とも言えない微妙な答えを言わせてもらう。


「レオかぁ。強そうな名前だね。……さっきから妖精たちがうるさいな。いくら僕の事が嫌いだからって騒がしすぎる。まぁこの中には入ってこれないから問題ないけど。」


 きっとカイルさんが言っているのはアーティフィカル妖精では無い本物の妖精の事だろう。


「どうして妖精は入ってこれないんですか?」


 きっと私が出たいと願ってるから、妖精たちが助け出そうとしてくれている。カイルさんが嫌わている理由は、きっと儀式に関わった人間だからだ。


「僕が魔法を使う前に、妖精が入ってくる事を禁止しているから。魔法は数学と一緒で、式の様な物に当てはめることが出来る。その中で妖精を拒絶するよう式を作っただけの話。」


 式……?いったい何の話だ?魔法は魔力操作とイメージが大事なのでは?どうやって式なんて作るのよ。

 なんか便利そうじゃない?何かに魔法式を保存しておけば、魔力を流すだけで使える便利道具とかできそう。

 でもカイルさんは、頭の中でその式を構築して魔法を使ってるって事?私がこの空間に来るまでかかった時間は数秒程、式をわざわざ作って当てはめているとは思えない。


「妖精にお願いして魔法を使う私たちより、カイルさんは強いですか?」


「当り前だよ。僕の手にかかれば、この国の英雄だって敵じゃないはずさ。」


 ……この人本格的に危ない人かもしれない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 春の森は子供たちで溢れかえっていた。飛んできた俺に目を丸くしていたが、構っている暇はない。

 神経を集中させてティアの魔力を探す。魔力探知という魔法の基礎だが、俺はソフィア程これが得意じゃない。


「くっそ、人混みで魔力がはっきりしないな。」


 飛行魔法を解除して広場に下りると、1人の女性が話しかけてきた。


「レオナルド様でお間違いないでしょうか。」


「そうだ。何かあったのか。」


 お仕着せを着ているという事は、どこかの使用人だろう。


「ティアお嬢様と遊んでおりましたレイ家の使用人です。」


「レイ家のご息女だったのか。ティアに会いに来たんだが、子供たちはどこに居る?」


 言葉の代わりに使用人が差し出してきたのは、俺がティアに渡した魔道具だった。


「お嬢様達は別の入り口から入り、中央の広場で合流しております。ティアお嬢様が迷子になってはいけないと思い、お嬢様の提案で一本道の一般道を迷路と偽って進んでいただきました。

 暫く経ってもお戻りになりませんでしたので、道を確かめたらそれが落ちていて……。」


「見事に真っ二つだな。その辺の奴に壊せるような魔道具ではない。落ちていた場所は分かるか?」


「その場所に赤い布を打ち付けてきました。こちらです。」


 裾の長い女性の服では、走るのも遅い。


「失礼、時間が無いので抱えさせてもらう。」


「え!?」


 使用人の女性を横抱きして、飛行魔法を使う。空から一般道を見ると、丁度中間地点程に赤い布が打ち付けてあった。


「すまない、この布はリボンだろう。貴女の物か。」


 赤い布と言っていたが、所々に刺繍が施されており古そうに見えるが大切にされたものだと分かる。


「私が身に着ける物ですので、価値などございません。それよりお嬢様の安否が分かれば良いのですが……。」


 再度魔力感知をすると、確かにこの場所でティアの魔力が途切れていることが分かった。


「魔力が途切れて、そこからどこにも移動していないなんてありえない。」


 魔力が切れたのなら、来た道を引き返すか、先に進んで助けを求めることが出来るはずだ。ティアが使う魔法は光、光らせるだけでも助けを呼ぶことは可能だったろう。


「少し離れて貰えますか。」


 忽然と、跡形も無く人が消える現象、それを俺は1つだけ知っている。妖精が自らの殻に籠るときに使う魔法、ヴァンド。ダンジョンの最深部に住む魔物も使う魔法だ。

 破る方法はただ一つ、大量の魔力を放出し、その圧でこじ開ける。


「さぁ、根競べといこうか。」


 空気が膨れ上がるようなプレッシャーと、空間を裂くように入った亀裂が、背の高い生け垣を押しのけていく。

 大きな何かが蠢く感覚がありながら、周囲は静寂に包まれていた。

誤字、脱字などありましたらご指摘をお願いします。

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