SCENE-005 >> 好感度補正
「ジル、におい、つける、いい」
「あなたを奴隷のように扱うつもりはないと、そう言った。頼むから、俺の理性を試すようなことは言わないでくれ」
「どうし、なかま、ぎしき、まえ、わたし、つかう。におい、おとす。ジル、いい」
「フェイ、頼むから……」
「わたし、におい、ジル、いい。どうし、いや」
腕の中に閉じ込めた子供の体をギュッと締め上げたり、緩めたり。
力の入り具合でわかりやすく葛藤していたジルが深く長い溜め息を吐いて、私の体をベッドに転がす。
「ベッド、する、はじめて」
ここで致すなら後で体が痛くなることもないだろうし、体も綺麗にされて気分がいい。
どんな下心があったにしろ、なかったにしろ、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたことには変わりないジルを褒めるつもりで、私はにっこりとした。
表情筋を自発的に動かすのが久し振りすぎて、ちゃんと笑えていたかは謎だけど。
「わかってやっているなら相当タチが悪いぞ……」
清潔なシーツの上に寝転がった洗い立ての私を見下ろすジルの目つきが鋭くなったあと、片手で顔を覆った挙句そっぽを向いてしまったから、もしかするとどこかおかしかったのかもしれない。
「ジル、わたし、いたい、しない。あんしん。ちがう?」
「信用してくれるのは嬉しいが、俺の自制心にも限度というものがある」
立てた膝を開き、だっこをせがむ子供のよう両手も広げてみせると、苦悩に満ち満ちた表情を浮かべた男が、藻掻きながら蟻地獄にでも落ちるようじわじわと体を寄せてくるのがおかしかった。
さっさと素直になってしまえば楽なのに。
「ジル、わたし、さわる、いたい、ない。さいしょ、ずっと、あんしん。ジル、におい、つける、わたし、いや、ない。おこる、ない。ジル、かなしい、まちがい」
手の届くところまできたジルの頭を捕まえて膨らみのささやかな胸に抱き込むと、ようやく観念したジルの手も、私の背中とベッドの間に潜り込んでくる。
「どうし、わたし、つかう、うごく、ない、はなす、ない、めいれい。わたし、つかう、ずっと。わたし、ちがう、しる、ない」
この言い方で伝わるか、胸に抱えていたジルの顔を持ち上げ、目を合わせて様子を窺うと、最初から物分かりの良かったジルは、苦虫を何匹もまとめて噛み潰したような表情で、頭の上の立派な三角耳をペタンとさせた。
「ああするのがあなたにとっては普通だった、と?」
「わたし、うごく、ジル、いい?」
喉の奥でグゥッと唸ったジルが、肉付きの悪い体に縋りつくよう、あってないような胸に顔を埋めて首を振る。
「あなたが何かをする必要はない……動くなという意味ではなく、俺が、あなたに奉仕するから」
そう言って顔を上げ、伸び上がってきたジルがあんまり厳かに唇を重ねてくるものだから。
これまでの散々な経験はとりあえずおいておき、今日のこれを、私にとってのファーストキスとカウントしておくことにした。