SCENE-003 >> すくいて
巨木の洞には雨水が溜まっているようだった。
その中で、水とは違う油のようなものがのたうっている。
「なに、これ」
灯の花を近付けて覗き込むと、それはキラリと小さな花明かりを反射した。
「生きてるの……?」
ぱしゃんっ、ぱしゃんっ、と辺りに響く水音の正体は、洞から這い出そうとそれが藻掻く音。
洞の入り口が中の空洞よりも狭くなっているせいか、それは何度這い上がろうとしても鼠返しの要領で洞の底へと落とされていた。
この木はこうやって、この油のような生き物を捕食する食虫植物の類なのだ、と誰かにしたり顔で説明されようものなら、それをあっさり信じてしまいそうなほど見事な嵌まりっぷり。
「……そこから出たいの?」
仏心を出して伸ばした手に、水とは明らかに違う、ぬるりとした感触のそれが絡みついてくる。
(こういうの、なんて言うんだっけ)
手の平で掬い上げるよう洞の外へと引き上げたそれは、仄かな花明かりに翳してみると、もう油のようには見えなくて。
「――綺麗」
なんとなく、そのまま逃がしてしまうのが惜しくなったそれを、私は腕の中へと抱え込んで目を閉じた。
(これでもう、寂しくない)