SCENE-001 >> 石舞台
気が付けば、鬱蒼と暗い森の中。
冷たくて硬い石舞台の上に、着の身着のままといった風情で転がっている。
これが夢だといういうことは、不思議とはじめから理解できていた。
夜の森に一人きり。
辺りを見回しても人気は皆無。降り注ぐ月明かりと、辺り一面に咲き乱れている不可思議な――大きく広げた花弁で月明かりを弾くよう、淡い輝きを放っている――花のおかげで、周囲の様子を見て取ることはできているものの、目覚めた石舞台を取り巻く花畑――森の只中にぽっかりと開けた空間――の外には、底なし沼のような闇がとっぷりと広がっている。
「さむい……」
どう取り繕っても心細さと不安しか感じない状況がどうにもならなければ、今にも震えだしそうな体をいくら撫でさすったところで、なんの慰めにもならなかった。
「ここ、どこ……?」
ふらりと立ち上がり、ほんの少し広がった視界に、目覚めた石舞台の全貌が飛び込んでくる。
そこだけを見れば、幻想的と言えなくもない――光り輝く花が咲き乱れた――花畑。
その真ん中にぽつんと置かれた、不自然極まりない巨石。
人一人どころか、もう十人くらい寝転がっても手狭に感じることはないだろう。本当に何かの舞台じみて広い石の上には、平らにならされた表面を埋め尽くすよう、びっしりと何かが描かれていた。
「なに、これ」
それは、石舞台の上に雪と見紛うほど白い砂を置いて描かれていて。
何も考えず起き上がった女のせいで中央部分が無残に崩れ、無遠慮にそよぐ風のせいで、崩れずに残っている部分も刻一刻と薄れていってはいるけれど。ミミズがのたくったようなそれはきっと文字なのだろうと、想像力を働かせることができるくらいには秩序立った置き方をされている。
気が付けば、ここにいた。
そんな不可解な状況を解き明かす、何かしらの手掛かりになったかもしれない。その砂文字は、間抜けな女が呆然としているうちにさらさらと吹き消されていった。