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LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる  作者: meishino
緑の宝石!ヨーホー海賊船編
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99 有名と潜伏

 帰路のシロープ島では、センリをどうするか、町長さんと話し合うことになった。彼をここまで連れてくるだけで、本当にくたびれてしまった。


 彼は道中、手足に拘束バンドを付けられているのにも関わらず、ブレイブホースの荷車から飛び降りたり、「おいクラース!俺を拘束しちゃって、お前こんな趣味あるのか!?」「おいクラースの女!もう一度胸を触らせてよ!」など、とても不快な言葉を吐いてきたのだ……。


 クラースさんが頭を叩いて黙らそうとするが、センリはクラースさんに唾をペッと吐いてしまうし、それでクラースさんがまた怒って殴りかかろうとして、私が止めて……と、散々だった。


 振る舞いも、言葉遣いも、まるで騎士とは思えなかった。クラースさんの兄だからという理由で、一緒の船に乗るなんてこと、しなきゃよかった。


 一番困ったのは、船の上で、センリがニヤニヤしながら、ジェーンを見ていたことだ。そして彼は、蛇の威嚇のように、舌をピロピロ動かした後に、ジェーンに話しかけた。「へええ、動画で見るより、とっても色っぽい。なあ、お前のを見せろよ。」


 ……本当に最悪だった。クラースさんは「すまないジェーン、こいつを海に放り込んでくる」と言い、ジェーンはと言うと、私の背後に隠れるようにして「キルディア、彼の言っている意味が分かりません。」と怯えた声を出した。私だって分からなかった。色々と、分からなかった。


 それからセンリは船の小部屋に軟禁された。よって、我々ソーライメンバーは、操縦室でぎゅうぎゅうになりながら寝る羽目になった。端っこがジェーンで、その隣が私、リン、クラースさん……ケイト先生はソファだった。そう、船のオーナーが、彼女のことを女王様だと思ってるからだ。


 どっちが捕虜か分からない生活を強いられた航海の末に、漸く着いたシロープ島だった。我々の意見は「彼をこの島の収容施設に置いていく」という方向で、見事に一致した。それは話し合いの結果、シロープの町長さんも承諾してくれたので、叶う事になった。


 厳重な独房に入れられたセンリを監視カメラから見せてもらった。その時は皆も一緒だった。独房は、ベッドと簡易的なシンクと、トイレがあるだけだった。彼のことだ、きっと暴れて、のたうち回ると思っていたが、意外にも静かにベッドに座って、「寂しいよ」とすすり泣いた。


 私は、もらい泣きしそうになった。もしかしたら彼は純粋だっただけなのかもしれない。置いて行かない方が良かったのかなと思いかけた瞬間、クラースさんが私の肩に手を置いて、こう言った。「あれに騙されるな。」


 翌日、船の上でクラースさんが大量に魚を釣って、私達に鍋を作ってくれた。センリが捕まったけど、いつもより陽気な様子だった。


 皆も、やっとややこしいのが居なくなったと、羽の生えた気持ちになっていたが、それもピア海峡に入ると状況は変わった。リンとジェーンが、またお手洗いの奪い合いをし始めたのだ。真っ白な二人の顔を見て、クラースさんが笑った。それが自然な笑顔で、私は安心した。



 ヴィノクールの街を取り戻して以来、その様子を生放送していたユークアイランドでは、ソーライ研究所の名は、瞬く間に広がってしまった。


 求人票を出していないのに、多くの人が仕事を志願してきたり、私やジェーンへのプレゼントを、送ってくれたりするようになった。ロビーではリンが、そのプレゼントの仕分けをした。


 私はオフィスに入ると、机の席に座った。まだ傷は癒えていないが、こうしていつも仕事している環境に戻ると、それだけで日常を感じて、安らげる気がした。机に置いてあったアップルティーを、一口飲んでから、ソファに座ってPCを操作しているジェーンに、話しかけた。


「そういえば、壊した火山測定器はどうしたの?スコピオ博士、いやグレン研究所のみんなは結構、気にしているんじゃないの?」


 ジェーンは私の方を振り向いた。


「まあ、そうなるだろうと思いました。しかし、私がまた一から組み立てるのは面倒……骨が折れる作業なので、改良を加えた、新たな火山測定装置の設計図を、スコピオ博士に送りました。彼はとても喜んでくれましたよ。」


「そ、そっか。それなら良かった。」


「その方がイレギュラーが起きた際に、彼ら自身で対処出来るようになります。私は、いつか居なくなりますから。」


「そっか、そうだね……。」


 私はPCの画面をつけた。つけたのはいいものの、少し考えてしまった。いつかジェーンは帰る、だけど、こうして色々な状況を共に乗り越えてしまうと、やはり親友以上の情が生まれてしまった可能性を感じるのだ。


 一緒に出社して、帰宅して、帰りにたまにパインソテーを買って、その時は彼が奢ってくれて、いいって言ってるのに袋を持ってくれた時もあった。


 帰りによく立ち寄るスーパーで、夕飯何にしようか、迷っていると、「マカロニチーズ作ってください」「今日はカレーがいいです」って遠慮せずに要望出してくれて、それを作ると、別にレトルトやルーを使用してるのに、美味しい美味しいって喜んで食べてくれて、最近は特に、私だって美味しかった。


 お風呂も片手でまだ慣れないから、彼が頭を洗ってくれて、ドライヤーもしてくれる。それはグレンに居た頃からだけど……。そして、寝るまでリビングでお互い違うことをしながら、その日にあったことや帝国の話をして、それから眠る。


 休日、彼は何処にも出かけないタイプだった。私一人で出かけようとすると、気乗りしない様子なのに、一人では危険だと言って、一緒に付いて来てくれる。


 そうして立ち寄った雑貨屋で、私がインコのぬいぐるみに気を取られていたら、「それが何の役に立つんです?」とジェーン節をぶつけてくる。それだって、今となっては面白いと感じるのだ。私は本当に毒されてしまっているらしい。


 ああ、PCの画面にはタージュ博士による、手違いで今月の予算をぶち抜いてしまった、という反省のこもった報告書が映っているのに、私は優しくにやけてしまっていた。


 集中しよう、ジェーンには彼の居場所がある。それはこの世界じゃない。ここに居る間は、別に仲良くすればいいじゃないか。協力すればいいじゃないか。たったそれだけの簡単なことなのだと、自分に言い聞かせる。


「キルディア」


「なあに?今ちょっとタージュ博士に連絡しないといけない。」


「ああ、予算を越えたという報告ですか?それは私の方から叱責します。それよりも、もうすぐお昼休みです。」


 私はPCを操作しながら答えた。


「そうだけど、それが?」


「少し、出かけませんか?最近はロケインに頼んで、お弁当を買ってばかりでした。近場なら、まだ安全かと。ユーク側の対策で、もうこの地には騎士は一人もおりませんし。」


 ああ、こうして私を誘ってくれるのだ。もしリンやアリスがそうしてくれるのなら、ここまで彼にずっぷりとハマることも無かっただろうに……。なんて、たらればを考えても仕方ない。私は操作しながら答えた。


「でも何処に行くの?この辺って言っても。」


「さあ、街を少し、二人で。」


「うーん。でも我々は結構有名になった、特にジェーンがね。だから街に行ってもあまりくつろげないと思うよ?特に女子に人気のあるジェーン。」


「……しかし、二人で出掛けたいのです。後生ですから、キルディア。あ!そうです」


 ジェーンがソファから立ち上がったので、私は操作をやめて、ジェーンを見た。


「何?」


 彼は私を見て、言った。


「隠れて出掛けましょう。芸能人がよく行っている変装を、我々も行うのです。それならいいでしょう?」


 ジェーンは私に向かって、手を合わせて首を傾げた。それは彼オリジナルの謎のおねだりポーズだった。最近よく見るようになったが、それがちょっと……残念なことに可愛げがあるのだ。


 それを見るとつい、にやけてしまうので、それを隠す為に、両手をマスクのようにして、顔を覆う。そうすると彼は満足げに微笑むのだ。ああもう、完全に毒されてる。


 観念して頷くと、彼は私の方へ急に近付いて来て、私の手を引いてオフィスを出た。


 ロビーのカウンターでは、リンとキハシくんが立って、何やらPCを食い入るように見つめていた。我々に気付いたリンが話し掛けてきた。


「あ!ねえねえ、ちょっとこっち来て!……ってまた手を繋いでる!もうこの二人異常だよ!」


「い、異常じゃないよ!」


 変な誤解をされたくないので、私が急いで手を解くと、ジェーンは真顔で首を傾げた。


「もうさ、いっそのことジェーディアになっちゃえばいいのに……この場合の意味は「うるさい」


 リンが口を尖らせている。その呼び名もやめろ。そう言いたかったが、それは我慢した。


「まあいいや」リンが続けた。「それでね!それどころじゃないの!聞いて!なんか帝国チャンネルで、ネビリス皇帝がこれから放送するんだって!知ってた!?丁度呼びに行こうと思ってたの!」


「し、知らなかった……。」


 私達はカウンターの中に入り、リンのPC画面を、皆と一緒に見る事にした。すると不思議なことが起きた。隣で立っていたジェーンが、私にピッタリとくっついてきたのだ。


 ……?これは偶然かな?そう思って、無言で半歩隣に移動すると、彼もまた私に向かって移動して、またくっついてきたのだ。左側に立たれているので、ツールアームを盾にすることも出来ず、体温が分かる。妙だが、画面が映ったので、それはそのままにすることにした。


 机と椅子が映っている。画面端から入り込んできたのは、ネビリス皇帝だ。長い黒髪が、後ろで太い一本の三つ編みに結われていて、身体つきは大きくて、筋肉がモリモリで、いかつい。金と赤の皇帝らしい豪華な装いをしている。先代の皇帝はもっとシンプルな装いだったので、彼の性格が出ているように思えた。


 ネビリスはカメラ目線を向けたまま、カンペを見ないで話し始めた。


『帝国の皆様、こんにちは。…………。』


「なんか、黙っちゃったね。」


 リンの言葉に我々は頷いた。それはそうと、さっきからジェーンが可笑しい程に、ピッタリとくっついたままなのだ。私はまた半歩移動したが、先ほど同様彼も移動してきた。わざとこれをしている、嫌がらせだろうか?少し彼に気を取られてしまったが、ネビリス皇帝が話し始めたので、PCを見た。


『先日のヴィノクールでの一件を、ご存知の方は、詳しくご存知だと思います。我が新光騎士団に盾突き、反抗してきたのは、レジスタンスではない、連合軍でした。ご存知の通り、帝国の意思に刃向かう人間は、誰であろうと重罪です。死刑でもおかしくない!しかし……連合、その中に含まれる、ユークアイランド、シロープ、タマラ、ヴィノクール、サウザンドリーフ、そして……グレン研究所とソーライ研究所、これらは我がルミネラ帝国の、最早、敵です。』


「殆どじゃないか……。」


 いつの間にかクラースさんがここに居たようで、彼の呟きが聞こえた。彼はカウンターにもたれ掛かって、PCを見ていた。しかしすぐに私とジェーンを見つけると、わざとらしく二度見してきた。もうやだ。


『今まで行ってきた、全ての経済的支援を無効にします。これは城下に住む皆様、強いては、ルミネラ帝国を信じている皆さまの為であります。たかだか城下の人口にも及ばない城下以外の市町村が、いくら手を結ぼうと無駄、いずれば後悔するでしょう。』


「何それ、負け惜しみでしょ。シロープやタマラには、ユークが経済支援するって、この間ニュースで出てたのにさ。」


 リンの言葉に皆が頷いた。


『最近ユークアイランドに関しては経済が急成長しています、しかしそれは城下の足元にも及びません。城下に養われてきた恩を忘れ、我儘に振る舞う忌まわしきユークアイランド、その中でも特に気をつけて頂きたいのは、ソーライ研究所の所長であり、連合軍のトップでもある、キルディアという女です。』


 そこでネビリス皇帝の隣に、どこからゲットしたのか、私のIDの写真が表示された。ププっと笑いを堪えるリンの背中をベシッと叩いた。


『バウンティハンターでも、一般の職業の方でも、構わない。彼女を討ち取った人間には、これ以上無いほどの懸賞金を与えましょう。これは帝国の平和の為です。帝国民の皆様、私にご協力をお願いします。それではいい一日を。』


「名指しされた……はは。」


 放送は終わった。リンが私の肩を抱いてくれた。


「だ、大丈夫だってキリー、少なくともここの皆は、キリーの味方だから。」


「それに懸賞金の額を明確に提示していません。明確でない金額を得るために、殺人を起こすようなリスクを負いたいと思う人間は、ごく少数でしょう。」


「それは、私を安心させようとしてくれるんだよね、ジェーン?」


「ええ、勿論です。それに……私がいつも側にいますから、大丈夫です。」


「ウゥ~!」「犯人の証拠を、いつでも残せますから。」


 リンの奇怪な雄叫びと重なったが、ジェーンはいつものジェーンだった。はは、私が殺されるの前提か、まあそんなこったろうね、と苦笑いしていると、リンが私達に聞いた。


「そう言えばさ、二人はお昼休み、何処か行くの?」


 私は少し離れて、ジェーンを見た。ジェーンは頷いた。


「はい、行って参ります。まだ店は決まっておりません。」


 リンはカウンターの席に座って、私たちを見つめながら言った。


「了解、そうだよね、最近ずっと研究所で食べてたもんね。たまには……あ!そうだ~!いい変装道具あるよ?去年、忘年会で使ったやつがある!それ使えば絶対に、誰にもバレないよ!ね!」


 私は嫌な予感がした。忘年会って……。

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