72 ガスマスク集団
採掘場には磁気砲が運ばれてきた。それはドリルと同じ程の大きさで、両手で運べる重さだった。元々は、壊れたブレイブホースが暴走してしまうのを食い止める為の道具らしい。グレン研究所の職員さんが私に教えてくれた。彼らは今、研究所のロゴの入った防弾チョッキを着ている。
それに、他にも、タマラ採掘隊の有志メンバーや、女の子が火山から出られなくなったことをタールから聞いた、タマラの村人の中からも、お助け隊が到着してくれた。
かなりブレイブホースを飛ばしてきてくれたらしく、予想よりも早く来てくれたのは有り難かった。彼らはタールの言っていた通り、農家を生業にしている人達で体つきが良く、鍬や魔弾の猟銃を持ってきてくれていた。彼らもまた、グレン研究所の防弾チョッキを装備している。
そして、クラースさんとリンもいる。クラースさんは戟を何度も素振りしていて、リンは……目薬を点していた。しかも「ああもっと、ああもっと」と、何度も同じ眼球にポタポタ薬を垂らしていた。一回垂らしたら普通は満足するのではと、苦笑いしてしまった。
グレン研究所から借りた防弾チョッキと、タマラ採掘隊から借りた黄色いヘルメットを着けていると、私の元へ、タールとスコピオ博士がやって来た。すると皆が私達の方に視線を向けた。クラースさんが戟を振るのをやめて、聞いた。
「それで、俺とキリーが、敵の注意を引き付ければいいのか?敵って言っても、新光騎士団だが。」
私は皆が見れるようにウォッフォンのホログラムを拡大し、火山の地図を表示させた。最奥部の洞窟近くにある、大きな空洞の広場には、いくつもの分かれ道がある。その辺りを指差して言った。
「我々は正面から、この火山最奥部にある広場に入ります。そして騎士団の注意を惹きつけて、奥の通路からクラースさんと出て行きます。少しばかり騎士が残るだろうけど、それはタールに任せます。あとは測定装置のある洞窟を塞いでいる岩を爆破して、ジェーン達を救出すれば大丈夫。」
ああ……、と皆の声が聞こえた。スコピオ博士が考えながら言った。
「タレットはどうにか磁気砲で対処してみる。効くかどうか分からないけどな?でも騎士達の人数が、想定以上に増えていたらどうする?彼らは一部のみ、キルディア達を追うだろう。あまりその場に残られると……俺たちはどうも出来ない。」
確かにその場合もある。私は少し考えた後に答えた。
「そうなれば、私とクラースさんは、それぞれ別の方向に分かれて逃げるしかない。その分、時間稼ぎが短くなる確率が上がるけど、そうするしか。ごめんなさい、今の状況では、こうするしかなくて。」
クラースさんが頷いた。
「そうだな、そうするしかない。もう時間が無い。生きていてもジェーン達は閉じ込められているんだ、暑くて息苦しいだろう。早く救出しなければならない。別にあいつらが助かるなら、俺はここで死んだって構わない。お前もそうだろう、キルディア?」
「うん。」
「ちょ、ちょっとまってよ!」叫んだのはリンだった。手にはスコピオ博士から貰った、ピンク色の短機関銃が握られている。
「死ぬとかやめようよ!みんなで生きて帰るんでしょ!?これって、そんな大変なことなの?もし新光騎士団に出くわしてもさ、市民ですからお助け~!って頼めば、何とかなるよ。だって市民を守るのが彼らの仕事だよ?お助け~!ってしてる間に、しれっと爆弾仕掛けて、ボーンと爆発して、あらやだいつの間に?アハハって笑って、ジェーン達を助ければ、何とかなるって!え?この銃?これはオモチャですよ、こんな色の銃なんてある訳ないでしょ?とでも言えばさ、何とでも誤魔化せるって!ね?キリー、大丈夫だよ!気にしすぎ!」
「……。」
誰も何も答えなかった。スコピオ博士と目が合った。彼女の責任者はあなたですか?と言わんばかりの何とも言えない視線だった。確かにそうであるから、辛かった。ついでに博士に言った。
「……じゃあスコピオ博士、総指揮をお願いします。」
「やだ。」
は?何で?驚いて博士を見ていると、意外にも真剣な顔で話し始めた。
「だって、みんなキルディアが居るから、こうやって集まって、新光騎士団に対抗しようとしているんだ。アマンダを助けたくても、相手が新光騎士団だったら、俺たちは手の出しようが無い。でもお前がいるなら頑張れる気がした。だって、サウザンドリーフの村人達を逃しただろ?俺はそれを知ってるし、さっきタールにも話したから、こいつも知ってる。俺たちが知ってるってことは、ここに集まってる奴らも知ってるってことだ。」
「でも……。」
迷う私の肩に、どでかい手がバンと置かれた。タールの手だった。
「行こうぜ、大将。早く行こう。」
そうだ。もう時間が無い。私は言った。
「分かりました。これより、ジェーンとアマンダを救出しに向かいます!」
「おおお!」
と、皆が手を挙げた。ぎゅっと握った拳を胸に当てて、目を閉じてから、採掘場を出た。
ザッザッと皆の足音が、火山内部に響いている。火山地帯はその熱気から、ブレイブホースが使用出来ない。急いでいても、こうして歩いて行くしかないのだ。
自然と荒くなる息で、喉の奥が、サウナに入った時のように熱くなる。この中でずっとジェーン達が居る。早く助けたい。
私達は、採掘場からの一本道を早歩きで進んでいく。タマラ採掘隊が貸してくれたガスマスクを、皆は付けている。騎士団に顔がバレない為だった。だが、もうここまで来ると、そのうち自然に、私が騎士団に楯突いていることは知られるだろうと、覚悟を決めるしかなかった。
遂に火山の最奥部にある、広場の手前まで辿り着き、歩みを止めた。地面の亀裂からマグマで照らされて明るくなっている、そのドーム型の空洞には、タレットと呼ばれる兵器と、新光騎士団の人間が、まるでユークアイランドのパブリックビューイング前の待ち合わせポイントのように溢れかえっていた。
普段は鎧の彼らだが、ここは火山の中なので、比較的軽装な、白い布製の制服姿だった。私は見付からないように皆をしゃがまさせて、このまさかな展開を、じっと見つめていた。
私の隣に来たクラースさんが、小声で言った。
「まずいな。ざっと見て、一師団分の人数だぞ。」
「うん……残念なことに、あの後、続々と集まって来たんだね。どうしてこんな火山まで……。」
背後からリンの不安そうな声が聞こえた。
「もしかして、あれに突っ込まないよね?何千人居るの?それにタレットも結構あるし。訳を話して……分かってもらえる感じでも無さそうだね。なんか銃を構えている人も居るし。私の出番は無さそうだ。アハハ。」
「おい、キルディア、あれを見てみろ。」
スコピオ博士の指差した方を見ると、昨日はあったはずの、広場からの分かれ道が無くなっていたのだ!真新しい岩で、ガッチリと塞がっていた。そうなると、広場から出るには私たちが今いる、このメインの道しかない。私とクラースさんが囮になる案は、崩れ去ってしまった。
「え!」いきなりのタールの大声に、私はハッとした。彼は立ち上がって、驚愕の表情をしながら叫んだ。「奴ら!全部塞いだのか!?全ての道を!?」
彼の声が響いてしまった……私がタールさんに飛びついて口元を押さえたのも、時すでに遅し、次の瞬間に棋士の一人が叫んだ。
「誰だ!誰かが通路にいるぞ!出てこい!」
「ど、どうしようキリー!」
慌てるリンをそのままに、私はタールさんの肩を憎しみを込めて押して座らせ、ゆっくりと騎士団に向かい、歩き始めた。射撃兵が私に銃口を向け始めた。私はガスマスクを取らないまま、その場に立ち止まった。
すると、騎士団の中から、少し露出の高い、ドレスのような制服を纏った女性の騎士が出て来た。彼女の細い指にはナイフが挟まれている。彼女は怒鳴った。
「誰なのお前は!そのガスマスクをお取り!」
超怖い。その女騎士も、顔に白いマスクを付けている。その派手な外見から、もしかしたらシルヴァ大臣かもしれないと思いながら、私は皆に聞こえるような大きな声で言った。
「奥の通路に、六歳の女の子と研究員が、我々の大事な仲間が、閉じ込めらています!」
「だから何だというの!」
「爆破し、救出する許可を頂きたい!」
「アッハッハ!」と、彼女が笑うと、まわりの兵士たちも彼女に合わせて笑い始めた。この師団を束ねているのは彼女に間違いなさそうだ。そしてやはり、大臣かもしれない。
「断るわ。ここは私たち、帝国が所有権を持っていることは帝国民なら百も承知でしょう?タダで与えられる土地なんか、下民には少しも無いのよ。それをお分かり。ここの資源は帝国のもの。それを当たり前のように勝手に利用して、お金を得て、食べて暮らして、好き勝手やって来たのはあなた達の方でしょ?今更返してなんて往生際が悪い。ここの資源は帝国のものなのよ!それにこのタレット達も、ここでなら自由に遊ばせられる、そして改良するためのデータを得られる……楽しそうでしょう?」
私の隣にタールが走ってやって来た。彼が叫んだ。
「何が楽しそうだ!確かに俺らは鉱石とか採掘してたけど、それだってちゃんと、ルミネラ皇帝に許可を頂いてたんだ!ここだってちゃんとした自然なんだ!タレットや爆弾で簡単に破壊しちゃ駄目だ!自然を守るのが帝国の義務だろうが!」
女は呆れた仕草をして、だるそうに言った。
「自然を守るねぇ……そんな、死んだ人の戯言に、まだ幻想を抱いているというの?はっはっは!これだから、平民は頭が弱いのよ!イモ虫はイモ虫らしく、地面で這いずり回って、静かに生きていなさい!」
タールが怒りながら足元の石を蹴った。
「誰がイモ虫だ!このタラコ唇!」
……確かに、彼女の白いマスクから覗く唇は分厚かった。いきなり放たれた爆弾級のタールの発言に、私は口を大きく開けて、何とか笑いを誤魔化した。
だが次の瞬間、私から笑顔が消えた。タールがドリルを構えたまま、タラコ唇と言われて地団駄踏んでいる、女騎士に向かって突っ込んで行ってしまったのだ!
ふと、少し離れたところを見れば、射撃兵がタールを狙撃しようとしていた。私は彼の腕を掴んで、間一髪のところで避けさせた。
「ふん……生意気ね。皆!この男と女を殺せ!」
女騎士の声が響いた。




