70 助けたくて
タールさんに案内されて採掘場のトンネル内に入ると、作業員の方々が笑顔で歓迎してくれた。この採掘エリアには人の通れる穴が何箇所も、アリの巣のように張り巡らされていて、それぞれポイントによって採れる鉱石は違うようだ。
一番採掘が簡単だというトンネルに、借りたドリルを手に持ち入り、タールさんに教えてもらった通りに、壁にドリルを当ててスイッチを入れると、思ったよりもポロポロと岩壁が剥がれて、謎の爽快感に襲われた。
「おおお!」
「だろ!?一気に採れると気持ちいいよな!」
私は笑顔になって何度も大きく頷いた。その後も続けていくと、すぐに荷車は一杯になり、それを他の作業員の方が運んでくれた。初めてにしては私のドリルの腕がいいらしく、タールさんに、是非うちに来てくれ!と才能を認められて、ちょっと嬉しかったがお断りをした。
これで私がタマラ採掘隊に行くと言ったら、あの人は何て言うだろうか。「ふざけるのも大概にしてください」という彼の声が、脳内で再生された。
ふと先程まで掘っていた箇所を見ると、キラリと輝くものが見えた。私はその石を手に取った。先程タールがアマンダにあげていた石に似ている。私はそれをタールに見せて聞いた。
「これは何ですか?」
「これは何だっけな……特に必要ない鉱石だから名前は忘れた。さっきアマンダにあげたものと一緒の石だよ!持って行ったらどうだ?」
「え、いいんですか?」
「ああいいよ、お土産ね!」
ガッハッハと笑いながら、タールは私の背中を何度も叩いてきた。いい人だ。私はその綺麗な石をズボンのポケットに入れた。
ザッザッと妙な、急いでいる足音がトンネルに響いた。採掘隊の人は結構ゆっくりと作業をしているので、走っている人はあまりいない。しかしその人は、かなり急いで、こちらに向かって走って来ている気がした。すぐに誰かの声が聞こえた。
「た、大変だ!大変なんだ、タールさん!」
「な、何だ?どうしたってんだ?」
一人の作業員が血相を変えて、我々のところまでやってきた。何かが起こったに違いない。タールが息を切らして、何かを話そうとしている作業員の顔を、覗きながら聞いた。
「どうしたんだよ、またドリルが壊れたってか?」
「そ、そんなんじゃないんです!す、スコピオ博士が……とにかく、来てくれって……!」
彼は採掘場の入り口の方を指差した。私とタールは一度顔を合わせて、兎に角、その場所へと走って向かった。採掘場の入り口に着くと、スコピオ博士が青ざめた表情で、落ち着かない様子でウロウロしていた。私は博士にすぐ声をかけた。
「博士!どうしたの!?」
「ああ、キルディア!」博士は私に近寄って、早口で話し始めた。
「そ、それがジェーンさんが修理終わったから、俺……それで、あの、兎に角、大変なんだ!」
修理が終わったから、こんなになっているんだろうか、違うよね?私は博士の背中をさすりながら言った。
「落ち着いてください、何があったんです?ジェーン達は?」
「と、兎に角、そうだ、落ち着かないと……あの、あれだ。それが、いきなり最奥部に、新光騎士団が現れたんだ!多分、俺たちとは別ルートで山の中に入ってきたんだろう。」
「え!」
嫌な予感がする。この場にジェーンは居ない。アマンダも。博士は続けた。
「火山の中の広い空洞があるだろ?そこで俺は、研究所に修理完了の連絡をした後、マグマの計測をしていたんだ!そしたら最奥部の洞窟から爆発したような、凄い音が響いて……それで測定装置の方へ、慌てて戻ったんだよ!そしたら、最奥部の洞窟が岩で塞がれちゃってて、その前には新光騎士団の連中が立っていたんだ!ああ、俺は慌てて騎士に駆け寄って、何とか彼らの一人に、測定装置の近くに六歳になる姪と客人が取り残されているから、助けてくれって言ったんだ!も、もしかしたら岩の下敷きになってるかもしれないって、何度も言ったんだ!だけど……そんなのは知ったことか、この火山の資源は全て、帝国のものだとか訳の分からんこと言い始めてさ……。」
スコピオ博士は涙を流し始めた。ジェーン達は火山測定装置のところに、閉じ込められているのだろうか。いや、もしかしたら、あの爆発に巻き込まれて……なんて怖いこと、考えたくもなかった。私は博士に聞いた。
「まだそこに、ジェーン達が居るのは本当ですか?博士が目を離した隙に、別の場所に行ったかも……。」
「あの場所に居る。間違い無い。アマンダもジェーンさんも、あの最奥部から戻ってくるには、俺のいた広場を通る道しか知らない筈だ。それに騎士達のあの様子、誰かが閉じ込められているのが分かっているのに、助けてくれないような感じだった。ああ……まずいよ。どうしてそんなこと。」
震えながら涙を流すスコピオ博士の背中を、タールが歯を食いしばりながらさすった。私はウォッフォンでジェーンに連絡を試みた。だが、繋がらない。彼のほうが圏外になっていた。まさか、本当に、あの爆発で……。すぐに私はその場所へと走ろうとしたが、スコピオ博士が私の腕を掴んだ。
「ダメだ!彼らは武器を持っていて、何だか物騒な雰囲気だった!俺も何とか、グレンの研究員だと言ったら、大目に見てやると返してくれたが、戻ってきたら容赦しないと言われた!」
「何様だってんだ!」タールの大声が響いた。
「あいつら!この火山は……誰のものでも無いんだ!そりゃ帝国のものかもしれないけど、だからって何で、アマンダと、あのロン毛の兄ちゃんが酷い目にあってんだよ!帝国民は助けなきゃダメだろうが!俺が言う、俺が騎士に言ってくる!」
タールがそばの石を蹴って、向かおうとしたのを、作業員達が反対している。だが、見ている作業員達も拳を握りしめていた。どうか、無事であってほしい。それを確かめに行きたい。きっと閉じ込められて苦しいはずだ、助けに行きたい。私は、彼を守ると約束したのだ。アマンダとも。
「……もし生きていても、ジェーンとアマンダが危険であることは事実。早くしないと暑さと、もしかしたら、あんだけ持っていったお水だって、もう底をついているかもしれない……他のルートで、どうにか向かってみる。」
と、私はウォッフォンで火山の地図を確認しようとした。しかし突然、操作をしていないのに画面が切り替わって、何やらソースコードの入力画面になると、勝手に文字がダダっと追加されて、ウォッフォンから直接ポータルが表示されたのだ。ポインタが勝手に動き、ジェーンの名がクリックされて、位置測定の表示に切り替わった。
現在、彼はやはり火山最奥部の測定装置のそばにいる。私にはこんな高度な操作は出来ない。たった今、彼が遠隔で、私のウォッフォンを操作したに違いない。何らかの理由で、通信障害が起きているのだろうか、通話は出来ないようだ。私は自分の操作で、位置測定の取得を許可させて、そして涙をこぼしているスコピオ博士に聞いた。
「博士、今ジェーンが、私のウォッフォンを操作しました!」
「本当か!?」博士は少し笑顔になった。
「はい、でも電波が悪いのか、ウォッフォンが壊れているのか、通話は出来ない。それで、騎士は何人程いましたか?」
アマンダの為、彼の為なら、私は覚悟を決められる。
「何人だったか……最初は数人程度だったけど、話をしている間に、別ルートからゾロゾロやってきて、五十人ぐらいだったか?しかも、ボット付きだった。」
「ボット?」
「ああ、戦闘用のタレットだ。魔銃に足がくっついている、犬みたいな形のボットだよ。本来ならボット兵器の作成は禁止されているんだがな。あの皇帝は本当に何を考えているんだか……。と、兎に角、何とかしなきゃ!兎に角、ヴィノクールにいる兄貴に知らせてくる!って言っても兵器が相手だと、どうにも……どうしたらいいんだ!」
タール達も頭を抱えている。私は皆に聞いた。
「ジェーン達が居る最奥部への、別ルートはありますか?」
タールが首を振った。
「最奥部まで行くと、岩が固すぎてドリルがボッキリ折れる。熱に強い爆弾もあるが、それでも何十回もやらねえと、あそこまで行けねえ。騎士団が持っている強力な爆弾があれば一発だろうけど、別のとこで俺たちが爆弾を何回も使えば、音でバレるだろうな。装置への道はあれしかなかったんだ。そこが岩で塞がれているとなると、一番いいのは、その崩れた岩をどかすしかねえ。でもあいつらが前に陣取ってるんだろ?タレットっていう犬っころは、スコピオんとこの磁気砲で何とかなりそうだけどよ。もうレジスタンス呼ぶしかないんじゃねえか?」
そんなことを言っても、彼らが今どこにいて、どうやってコンタクトを取ればいいのかなんて分からない。私は何も浮かばないままに言った。
「どうにか、彼らを救出しなければなりません!私はソーライ研究所の皆に知らせます!……そしたら私が救出に。」
スコピオ博士が私に叫んだ。
「そんなこと言ったって、多勢に無勢だろう!一人で突っ込んで、どうするんだ!」
レジスタンス。どうしてこんな時に居てくれない。誰かがやるしかない。誰かじゃない、私がやる。このままではジェーンが……。
「私は、あの中で閉じ込められているジェーンとアマンダを助けたいです!レジスタンスに直接救援を要請する方法が、今はありません。我々がやるしかないんです!私だって、今は兵士じゃないけど。」
タールさんが、静かな声で聞いた。
「やるしかないって、どうするんだよ。方法は?」
はっと閃いた。これは危険だが、仕方ない。他に方法が思いつかない。
「私とクラースさんが囮になって、新光騎士団の注意を引きつけます。その間に隙が生じれば、洞窟の岩を爆破して、アマンダ達を救出してください。これはタマラ採掘隊の皆さんにしか出来ません、お願いします。」
私は深く頭を下げた。作業員の皆が、ざわつき始めた。
「で、でもよ……。」
「いや」スコピオ博士の声が聞こえた。「やるしかない、そうするしかない。キルディア達がそうしてくれるなら、そうするしかない!国家に反逆することになるだろうが、アマンダを失うくらいなら、それくらい……やるしかない。俺の娘も同然なんだ。だからグレン研究所の磁気砲を使って、そのタレットを破壊する。」
「なら俺たちが、その通路の岩をどかす。」
嬉しかった。タールや他の作業員達が、何度も頷いていた。私は微笑んだ。
「ありがとうございます!じゃあ私は、皆に連絡を取って、この採掘場で待機します。クラースさんが来たら、最奥部に向かいます。」
「俺たちもここで準備をする。」タールがニコッと笑った。「その間にタマラでも、志願してくれるやつを呼ぼう。なに、採掘と農業で鍛えた身体、喧嘩の腕だったら負けねえってんだ!」
タールは私の肩を力強くポンと一回叩いて、それからウォッフォンで連絡を取り始めた。スコピオ博士もグレン研究所に連絡を取っている。私もソーライ研究所とクラースさん達に通話をかけた。




