62 マイクロバルブはすごい
何故、あんなにも用心深く自分のことを隠してきたのに、こんなにも分かりやすく窮地に陥っているのか。
それに、私に助け舟を求めているが、そもそもマイクロバルブって何なんだ?それすらも私には分からないが、しかし親友として彼を助けなければならない。少し苦笑いをして、どうにか彼を助けようと立ち上がって、博士に説明をした。
「ジェ、ジェーンは……えっと、何て言うんでしょうね。これも天が与えた偶然というか。そうそう、」
スコピオ博士がジェーンの肩を掴んだまま、こっちを見てきた。よし、良いぞ!
「そうなんです!彼は誰よりも、マイクロバルブに詳しいんです!ほら他の色んな機械にも、マイクロバルブあるでしょう?そう、マイクロバルブに詳しすぎて、帝国研究所の所長をしていたというところもあるんですよ?兎に角、私もジェーンのマイクロバルブに関しての知識があまりにも凄いものだから、採用を決めたところもあるんです!いやあ、マイクロバルブって機械にとってはメインのゾーンですからね?大事です、大事ですとも!……凄いんです!」
「へえ~そうだったんだ、マイクロバルブって何?キリー。」
リンのくだらなすぎる質問に対して、私はリンを睨んだ。おーこわ、と言わんばかりの顔で、彼女は私から顔を逸らした。しかしクラースさんやスコピオ博士は回答を待っている。どうしよう、こればかりは答えられないぞ、と言葉に詰まっていると、今度はジェーンが口を開いた。
「リン、それは後ほど、私の方から説明致しますよ。誰よりもマイクロバルブを愛しているものですから、その事について話せる機会があるのならば、私は喜んで享受します。」
スコピオ博士は納得したように頷いて、思案顔になった。
「なるほどな。確かにそこまでマイクロバルブの知識があって、帝国研究所の所長にもなれたとは、並大抵のものじゃない。しかし、その知識は、何処で手に入れたんだ?マイクロバルブについての資料を、何処で見たんだろうか?他の機械にも確かに存在するが、この火山測定器のマイクロバルブの構造は、てんで次元が違う。俺もここ数日間は毎日、マイクロバルブの夢を見るぐらいに色々と調べてきたが無理だった。何か参考としている資料があるのならば、是非伺いたいのだが。どうかな?」
スコピオ博士は笑顔でジェーンを見つめた。しかしジェーンは何も答えずに、静かにお茶を飲み始めてしまった。そしてまた、チラッと私を見たのだ。またかよ……私は一瞬苦い顔をして、何とか答えた。
「じ、実は……実はそうそう、その資料は極秘なんだよね?ジェーン。」
「え、ええ。」
スコピオ博士が真剣な眼差しを私に向けた。やばい。頑張れキルディア!
「そう!極秘で……中々、人には見せられない資料なんです!でもジェーンはほら特別に……帝国大学院の時に飛び級もしたし、首席だったから(多分)、彼には将来を見据えて期待がかかっていたらしくて、それでたまたま……極秘のマイクロバルブの資料を見る機会があったんですよ!だから図書館じゃなくて、大学院にあったの、それはね?はは、私は士官学校卒だから詳しいことはアレだけど、凄いですよね!彼は。」
博士は何度も噛みしめるように頷いてくれた。良かった……。
「そうだったのか、帝国大学院の方に資料があったのか。確かにあそこは閉鎖的だからユーク市立大卒の俺が頼んでも無理だったのかも。兎に角、それで知ったという訳なんだな。成る程なぁ~、因みにさ、ジェーンさんの修理に俺も立ち会っても良いかな?それも極秘?」
ジェーンは私を見ながら答えた。
「まあ……構いませんよ私は。ですが彼女は私の上司ですので、彼女に許可を取ってください。私の一存では決められません。」
「そうか、キルディア、良いかな?」
「……良いです、良いですとも。」
それを聞いたスコピオ博士は、ガッツポーズをして喜んだ。私はひと段落ついたこの会議を一旦置くことにして、隣に座るジェーンに耳打ちをして、彼を連れて会議室の外に出た。色々話したかったのだ。会議室のドアを閉めると、私は小声でジェーンに怒鳴った。
「色々と危なかったよね!?ホントにやってくれる!」
「ええ、少し危険でしたね。ナイスフォローです!」
ジェーンが親指を出したポーズをしたので、私はその手をぶっ飛ばした。ジェーンが痛がっている。
「ナイス!じゃないよ!……もうマイクロバルブなんて一ミリも分からないし……。でもジェーンはあの火山の機械を知っているの?それはジェーンが居た時代にも、あったからなの?」
彼は頷いた。
「ええ、私の時代にも、ボルダーハンという名前ではありませんでしたが既に火山は存在しており、その火山測定装置は私の時代にもありました。それもそうです。あれは私が作成したものですから。」
「え?」
ジェーンが少し嬉しそうに、はにかんだ。
「この時代でも、まだ使用されていたとは……少し嬉しくなり、つい出しゃばった真似を。すみません、キルディア。あなたには迷惑をかけましたね。」
そうだったのか……なら修理方法も知っている訳だ。何だか彼は私が思っている以上に、凄い人なのかもしれない。
「そ、そっか……じゃあ直せるはずだね。このことをスコピオ博士が知ったら、すっごい興奮するんじゃないの?」
「まあそうでしょうか、しかし他言はせぬよう、良いですね?」
ジェーンが人差し指を唇に当てた。私は微笑んで頷いた。
「はい。……実は結構凄い人だったんだね。」
「ん?何か言いましたか?」
私は会議室のドアを開けながら言った。
「別に、何でもない。」




