59 恋バナ
結論……ここの料理はとっても美味しい!魚介スープとリゾットを注文した私リンは、ここにきてやっとこの旅に参加出来て良かったと実感出来た。できれば地酒も味わいたいところだが、生真面目なボスに反対されて断念した。でも、もしかしたら帰りに内緒で買って、クラースさんの実家で隠れて飲むかもしれない。大人なんだし、今日頑張ったんだから、それくらい良しとして欲しい!
この食堂のレジの所で、クラースさんが店員さん二人と何やら話している。盗み聞きしている感じからすると、どうやらここはクラースさんの幼馴染が経営しているお店のようだ。小さい島だから、みんな互いのことを知っているんだね。
私は目の前に座るキリーと、その隣に座るジェーンのことを見た。二人とも食事を終えてから何も話さないで、それぞれウォッフォンを見て時間を潰している。どうしたんだろ、折角なんだからお話しすればいいのに。
「どうしたの~二人とも。元気ないじゃん、疲れたの?」
するとキリーがウォッフォンを止めて、こっちを見てくれた。
「いや、疲れてないよ。普通に過ごしているだけだけど、何か話したいの?」
キリーは分かってるね、是非とも話したいよ!私は正直に言った。
「話したい!」
「う、うん、何を話す?」
キリーがお茶をごくっと飲んで、そう聞いてくれた。なのにジェーンはそのままウォッフォンで操作をし続けているので、気を利かせた私が彼のウォッフォンを操作して、画面を閉じてあげた。するとジェーンはため息交じりに、こちらを見た……睨んだのかもしれない。まあまあ、折角だから、お話ししたいもんね、何を話そうかな。これかな!
私は笑顔で二人に聞いた。
「ねえねえ、二人の初恋ってどんな感じだったの?」
「もっとマシな議題はありませんか?」
ジェーンが呆れた顔でそう言った。照れちゃって!
「まあまあ、折角だから普段話さないこと話そうよ!じゃあキリーの初恋は、どんな感じだったの?相手はオーソドックスに同級生とか?」
「え?無いよ。」
彼女のまさかな回答に私は笑った。
「アッハハ!無いって何?あるでしょ!」
だが、キリーは頭をぽりぽりと掻いて、申し訳なさそうに言った。
「無いよ……悪いけど。」
え?嘘でしょ?私が無言でダメージを受けていると、ジェーンがコーヒーを一杯口に含んでから、キリーに聞いた。
「本当に一度も無いのですか?」
「ない……恋したこと無い。」
私は多分、今すごくにやけているだろう。それか笑顔だと思う。もう分からない。この二十も半ばの女性が、人を愛したことが無いなんて、ちょっと面白い。私の表情を見たキリーが少し怒った声を出した。
「じゃあリンはあるの?」
「あるよ?初恋でしょ?それは中学院の頃だったかな、同じ部活の先輩を好きになったの。まあ片想いで終わったけどね……その程度でいいんだけど、本当にキリーは無いの?」
「……無いってば……じゃあジェーンは?ジェーンはあるよね!?」
何か知っているのか、キリーがにやけながらジェーンを指差して、そう聞いた。これは何かあるに違いない!きっとジェーンには初恋の相手が居るんだ!一気にワクワクしてきた私は、椅子ごとジェーンに体を向けて、今か今かと彼が話し始めるのを待った。その時、クラースさんが席に戻って来た。手にはコーヒーを持っている。
「何やら面白そうな話をしているようだが、何の話をしているんだ?」
コーヒーを口に含んだクラースさんの質問に、私は答えた。
「ジェーンの恋の話。」
「ぶっ」と、クラースさんがテーブルにコーヒーを少し吹いてしまった。それを皆が一斉に布巾で拭いた。クラースさんがそうなるのも分かる。だってジェーンに初恋の経験があるなんて!改めて私はジェーンに聞いた。
「それで、ジェーンは誰か好きな人居たの?それも彼女だったりして!」
「そうですね……」と、ジェーンが上の方を見て固まってしまった。少し経ってから彼が口を開いた。
「まあ、そのうち分かることでしょうから結論を言いますと、妻がいます。」
「エ゛ッッッッッッ!?」
私の急ブレーキの様な叫び声が店内に響いた。クラースさんも目も口もぽかんと開けて、硬直している。キリーはと言うと……冷静にお茶を飲んでいた。知ってたんだな、奴め。こんな大事なことを黙っているとは、後で懲らしめないといけないな。しかし、妻か。つまり妻!?どう言うこと!?
ジェーンは続けた。
「どの様にして結婚したか、その方法については詳しく説明出来ませんが、妻といっても形だけの契約です。同じ屋根の下で暮らしたこともありませんので、夫婦としての意識は、あまりありませんね。」
「エ゛ッッッッッッ!?」
またしても私の声が響いてしまった。そのせいで大体のお客様の視線が、私たちに集中した。だって、でもそうでしょ!?堪えきれないよ!形だけの結婚?もしやジェーンは大金持ちの息子さんで、同じく大金持ちの家と連携するために、そこの娘さんと嫌々婚約させられたのかもしれない。それならあの愛を一ミリも知らないロボットみたいな人間に、妻が居ることも納得出来る。
でも……だからってキリーと一緒に暮らす?色々と聞きたいことが頭の中に混在してしまい、それを整理するのに時間が掛かっていると、私の隣に座るクラースさんがテーブルに身を乗り出してジェーンに聞いた。
「お、同じ家で暮らしたことが無いのに、結婚したのか?その嫁さんとは付き合ったことは無いのか?」
「はい、暮らしたことも無ければ、交際期間もありません。」
えええ~!?私は開いた口が塞がらない!私は聞いた。
「キリーは恋したこと自体が無いんだよね?」
「無い。」
「ジェーンは奥さんが居るんだよね?」
「はい。」
……何それ、訳が分からないけど面白いわ。キハシ君風に言うと面白いじゃん。ハァ~そんな事実があったとは。あまりの衝撃にぼーっとしていると、クラースさんが腕を組みながら、考え込んでいるのが見えた。そして呟いた。
「何だ、そうだったのか……実は島の幼馴染の何人かに、ジェーンを紹介する様に頼まれたんだが……そうか、結婚していたのか。」
残念そうにクラースさんがため息をついた。そうだったんだ、クラースさんそれは残念だね。でも私としてはちょっと面白い。早速部屋に帰ったら、ポータルにアップしよう。
それにしてもジェーンは奥さんが居るのに、キリーにあんなに親しくしているんだ……キハシ君が言う通り、その気が無いから、逆に同じ部屋で住めたり寝たり出来るのかも。ああ、きっと割り切ってるんだ。ジェーンそう言うの得意そうだもんなぁ!
「リン、何で歯を食いしばってんの?」
「キリー、いい、いい。話しかけるな。」
しかしそうなっては、チームイエスである私とアリスが賭けに負けてしまう……掛け金こそ、そんなに多くは無いが、負けること自体が嫌だ。それもキハシ君なんかに。私の方が先輩なのに私よりも優秀な後輩に、これ以上負けてたまるか!ああ、何とかお恵みを!誰でもいい、何でもいいから可能性だけでも、どうかどうかキリーとジェーンがくっつく為のお恵みを!
「お恵みをぉぉ!」
私は叫び、天に向かって合掌をした。すると他の三人は何事を無かったかのように、帰る準備をし始めた。




