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LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる  作者: meishino
混沌たるクラースの船編
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49 自己紹介

 隠そうと思う程に、目が泳いでしまう。そう、私は人に名を教えたくないのだ。それも病気と称したほうがいい程に、強くそう思っている。


 人に名前を教えるくらいなら、ユークタワービルの前で全裸になって、ユークアイランド伝統のポレポレダンスを踊った方がマシだ。大勢が見てる前で、ガニ股で左右に揺れながら、腕をクネクネと動かして、波を表現した方がマシなのだ……。そんな私の苦笑いを見たのか、ジェーンもにやりとした。


「ああ、なるほど。私の名はアレクセイ・ジェーン・シードロヴァです。そう言えばあなたは?」


 と、ジェーンは隣に座っているアリスに手を差し出した。アリスの上司なら、フルネームぐらい知っているだろうに、ワザとらしい。


「私ですか?私の名はアリス・カイル・アドラーです。あなたは?」


 そしてアリスは正面にいる、ケイト先生に手を差し出したのだった。姉妹で名前を聞いてどうする。何この流れは。


「私?私はケイト・レム・アドラーよ。そう言えばあなたは?確かにキリーって、どういう名前だったかしら。気にしたことが無かったわね。」


 と、ケイト先生が私に手を差し出した。私は黙った。


「どうしましたか、キルディア。」


 ジェーンの質問に答えたくない。どうにか誤魔化そうと口笛を吹こうとしたが、ヒューヒューと息が漏れるだけで、何の音色も出なかった。そう、私は口笛が吹けないのだ。しかもこの行動について、誰も何も反応してくれない。色々な意味で、悲しかった。


 皆が、私の発言をじっと待っている。ああ、ここで逃げたとしても、ジェーンに追いつかれるだろうし、たとえ逃げ切っても、研究所のロビーで聞かれるだろう。そうなれば私の本名を知る人が、更に増えてしまう。それは避けたい。観念した私は、ため息をついてから、答えた。


「……キルディア……ルーカス・エリオット」


 アリスが、がっかりした表情をした。


「ハァ~!?何だ、普通だし!」


「べ、別に普通だよ。」


「いつもあまり言いたそうじゃないから、反対性のミドルネームが変なのだと思ったのに~つまんないの。」


 つまんないって言われても仕方ない……そして、ケイト先生がジェーンをに聞いた。


「ジェーンは反対性の名前で呼ばれることに対してこう、抵抗感は無いのかしら?」


「私はありません。アレクセイよりジェーンの方が、発音が簡単で効率的です。まあミドルネームに異性の名前を付けるようになったのは、元々男女平等を(うた)い、義務化されたものですから、どちらで呼ばれても私は構いません。」


「まあ」アリスがジェーンを見て、羨ましそうに口を尖らせた。「ジェーンはちょっと中性的な雰囲気の名前だし、それでもいいと思う。でも私はカイルだからな~。」


 両手を後ろで組んだアリスに、私は少し笑いながら言った。


「海の上で強そうだよね。」


「何それ!ルーカスのくせに~!」


 立ち上がったアリスが、テーブルを回り込んで私の方へ向かって来て、手のひらで私の体を何度も叩いてきた。笑いながら彼女の攻撃受けて、私は何度か謝った。しかしそれでも、ベシベシと叩き続けてくるので、今度は私がアリスを襲い返して、軽くベシベシを背中を叩いたら、彼女は笑った。


 その日の夜、私はリビングのソファで、ジェーンの本棚から適当に抜き取ってきた、『動力学の発展』という題名の本を読んでいた。ジェーンの本は読んでいると眠くなるので、寝る前には丁度いい。


 一度目を通しただけでは意味が理解出来ず、何度も同じ行を繰り返し読んでいると、それが眼球の反復運動になって、コインの催眠術をされているが如く、頭がぼーっとして眠気が襲ってくるのだ。


 しかし、折角舞い降りてきた眠気は、隣にドスンと勢いよく座った、パジャマ姿のジェーンによって遮られてしまった。折角眠れそうだったのに、頭はシャキッとしてしまった。


「キルディア、一つ質問です。どうして反対性の名や、ファミリーネームを内緒にしていたのですか?それも昔から仲のいい、アリス達にも。」


 本を閉じて、鼻でため息をついた。この話をするのはいつも、複雑な気持ちを伴ってしまう。思い出したくない記憶、それ程に、胸を苦しめるものは他にない。


「……小さい頃、ルーカスっていう名前で、からかわれたことがあるだけだよ。それを今でも引きずってるだけ。大した理由じゃない。」


「そうでしたか……」ジェーンの目が、一瞬見開かれた。「私は何も、変だとは思いません。この言葉が慰めになるか、分かりませんが。」


 まさかあのジェーンが、私を慰めてくれるとは思っていなかった。つい嬉しくなり、私は微笑んだ。


「ありがとう、ジェーン。たまに優しいよね……そうだ、ジェーンは何処の出身なの?今日ほら、昔の話をしていたから、ふと思って。」


 ジェーンは少しだけ笑みをこぼして応えた。


(ともり)の雪原です。」


「えっ。」


 その場所は、今はもう海の底に沈んだ、雪原地帯の街だった。


「今となってはただの海です。しかし歴史というものは、そういうものです。遥か未来に、自分の故郷がそっくりそのまま残っている確率の方が、意外と低いのかもしれないと、ここに来た時はそう考えました。」


「ジェーンは……家族はいるの?その、奥さん以外に。」


「何度も言いますが、カタリーナは確かに妻ですが、政略結婚です。夫婦という間柄ではありますが、我々は別々に生活をしていますし、互いに干渉をしません。その点では家族とは言えないのかもしれません。他には妹がいます。両親は早くに亡くなりました。まあ、私も三十一ですから、色々とあります。」


「え?ちょっと待って。まずカタリーナさんは、どんな形であれ妻だし、折角だから家族ってことでいいんじゃないかなと私は思う。次に妹さんがいるんだ、へえ~ジェーンに似て美人なのかな。一番気になったのは、ジェーンの年齢なんだけど、三十一って本当なの?」


「嘘をついてどうしますか。ああ、なるほど。正確に言いますと、私は二千「そういうことじゃなくて、生まれてから純粋に三十一年なの?」


「はいそうですが。因みにあなたは?」


「……二十五。」


「なるほど、予想より年下でした。」


 本当になんなんだろう、この人は。どうして何処までも私を、さらっと苦しめることが出来るのだろう。逆に私に対してリスペクトどころか、恨みでも持ち合わせているんじゃなかろうか。そうとしか思えない私は、怒りのこもった、ため息をついた。


「はぁ!……もういいよ!もう寝るから。」


「おや、どうしましたか?今の私の発言を気にしてなさるのでしょうか。いえ、いい意味ですよ。」


「そう言えば、どうにかなるって思ってるんでしょ!全く、ジェーンがお兄さんなんだから、妹さんは、さぞ大変でしょうね!」


「はっはっは!」


 初めてジェーンが大声で笑ったのを見た私は、つい体をビクッとさせてしまった。わ、笑うんだ。そりゃそうか、忘れていたが、彼も人間だったのだ。人は面白いことがあったら笑うよね、そうだよね。


 ハァ……と、笑いの余韻を残す彼をソファに置いて、一人でヤシの木ガラのカーテンの部屋に向かった。この奇妙な一日を終わらす為に、早々と布団に潜った。


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