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LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる  作者: meishino
一つ目のパーツが入手困難編
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46 パインマフィン

 さっきから私の質問に答えてくれない。アリスとケイト先生は、苦笑いしては顔を合わせ、という仕草を、何度も何度も繰り返している。痺れを切らしたのか、ジェーンが眼鏡を中指であげて、彼女らに聞いた。


「ケイト、アリス。これからは内緒事をしないと言う、約束ではありませんでしたか?一体何があったと言うのです。このような大荷物、ただのご近所への、お出かけには見えません。何処かに行くのでしょうか?」


 それを聞いたケイト先生が、アリスに話しなさいよ、と言う目配せをした。アリスはえ~と声を漏らして、言いづらそうに話し始めた。


「……実はぁ、立ち退き勧告を受けちゃったんです。」


「え?なんの?」


 吸い付くようにアリス達を見てしまう。私と目があったアリスは、またため息をついて、それから言った。


「ほら……姉さんの予想の件で、逃げようとしていたから、大家さんにもそう言っていたの。引っ越すって。そしたら大家さん、もう次の入居者を決めちゃったんだって。まあ、それは私達が引っ越すかもしれないと言ったことが原因だけど、何もまだ住んでるのに、次の入居者決めることないよね?」


「あ!?じゃあ何処に行くの!?」


 私が立ち上がりながら聞くと、他の三人は苦笑いをした。アリスとケイト先生は分かるが、どうしてジェーンは同調した?今同時にこの話を聞いたはずなのに、まるで彼女らの行く先を知っているようだ。え?え?何も頭に思い浮かばない私は、キョロキョロと三人の顔を伺って、誰が最初に話し始めるのか待った。


「キリー、」口を開いたのはアリスだ。「だからここに来たんだよ、私達。」


「え?どうして?」


「ごめんなさいね、キルディア。アリス、他を当たりましょう。」


 ケイト先生が立ち上がった時、ここに来てくれたのは、私の家に居たいからだと気付いた。私は慌ててケイト先生達に、また座るように促した。


「いやいや!ちょっと待って!いいよ、居ていいよ!泊まるの初めてじゃないし……でも明日も家が無いのか。ユークはもう物件何処にも空いてないって言うものね。あれ?でもリーフの人達の所なら、空き部屋あるのかな?」


「それが、」ケイト先生がため息をついた。「リーフの皆がいる宿泊施設はもう一杯一杯なのよ。不動産屋にも行ったけれど、キリーが言った通り、もう空き家が無くて。研究所で寝泊まりすることも考えたけれど、私も仕事で疲れていると職場で寝たいとは思えなくて。ごめんなさいね、あなたしか頼れる人が居なかったのよ。」


 あ!そう言うことか!


「ああ!分かりました!いいですよ、こんな狭い所で良かったら、三人くらい一緒に住める「それで相談なんだけれど。」


 私の話を遮ったケイト先生は、私の肩を掴んで、そっと私を椅子に座らせると、テーブルの上にリュックから取り出した、パインマフィンの箱を置いた。これは……ユークアイランドの有名なお土産だ。どうしてわざわざユークアイランドのお土産をくれたのか謎だった。いや、嬉しいけれど、ここはユークアイランドだけど、嬉しいけど。


「あ、ありがとうございます……でもなんで?え?」


「単刀直入に、お願いするわね。この部屋を私たちに貸してくれないかしら?家賃は払うわ、家具レンタル込みで。」


 アリスがニコッと笑った。私は戸惑いながら聞いた。


「え?でもどうして、アリス達は、私と一緒に暮らすのは嫌なの?」


「だってー、家にまで上司がいたら、気が休まらないもん。」と、アリスが答えた。


「ええ!?でもプライベートでは友人じゃないの?その辺のメリハリは付けるから、気にする事ないよ。」


「やっぱりちょっと気を使うもん~、お願いキリー。」


 待ってくれ、待ってくれ。頭の整理が追いつかない。私は挙手した。


「じゃあもう一つ質問、私は何処に行くの?」


 するとケイト先生とアリスが目を合わせた瞬間に、二人は同じタイミングで下を指差したのだ。私は首を凄まじく振り、拒絶した。


「ムムム無理だって!そうでしょ、ジェーン!?」


 彼の方を見ると、平然とした様子で、優雅にお茶を飲んでいた。


「私は構いませんよ、どうせ頻繁に様子を見に伺いますので、その手間を省けると考えれば、合理的ですし、何もキルディアが上司であっても、プライベートでは親友同士ですから、気は使いません「あのさ!ジェーンだって、少しばかりは気を使うでしょう!?私は使うね!その、ジェーンの……家族にだって気を使うね!」


「家族など、私はもう成人です。親の反対など気にしません。もう居ませんし。」


 そうではない、あんたの嫁さんのことだよ。呆れ顔をしていると、ケイト先生が申し訳なさそうに言った。


「やっぱりいいわ、急にこんな提案をしてしまって、ジェーンに申し訳ないし、これからは帝都で「いえ、私は構いません。それに、帝都から毎日ソーライ研究所に通うおつもりですか?時間がかかり過ぎて、アクロスブルーラインで寝泊まりするようなものです。私はキルディアと暮らすことに何の不満もございません。但し、一つ条件があります。寝室は譲りません。」


 私はがっくりと肩を落とした。


「いやいや、寝室って、この間取りで唯一の個室だよね?」


「いえ、風呂場もお手洗いも洗面所も、全て独立した個室です。」


 そう言うことじゃない。少しぐらい女性である私を気遣ってくれてもいいのに……でも彼はちょっと神経質なところがあるから、野宿を何度もしてきた私に比べれば、個室の必要性が段違いなのかもしれない。


 私はケイト先生とアリスを見た。二人は微笑んで我々の会話を聞いていたが、やはり少し申し訳無さそうだった。それもそうか、いきなり家を無くしたのは、それなりの事情があったのだ。


「……分かった。ジェーンとルームシェアしてみる。寝室はジェーンが使っていいです……それにこの家具も別にレンタル料は、いらな「ありがとう!大好き、キリー!」


 アリスが思いっきり抱きついてきた。それに続いてケイト先生も、私とアリスと包み込むように抱きしめてきた。さらに我々を包むように、ジェーンが抱きついて来て、グループハグのようになった。彼のその行為は、知的好奇心によるものだなと思った。


 そうと決まれば行動は早い方がいい。私は寝室のクローゼットに置いてあった、ギルド時代の登山用リュックに、自分の服やドライヤーなどを詰めた。元々私物が少なめだったので、アリス達に手伝ってもらったらすぐに終わった。


 荷物を背負い、一階に移動した私は、マスターキーでジェーンの部屋のロックを外した。今夜からここが、私の部屋になるのだ。覚悟を決めて、部屋の中に入ると、いつも彼から香る、海のそよ風のような爽やかな香りが広がった。完全に、人の家にお邪魔している気分になった。


 リビングには以前私が選んだ、モダンでモノトーンの家具が置いてある。黒いコーヒーテーブルにソファはグレーで、本棚も黒い。もう既に、所狭しと本がぎっしり入っている。そして明るい色の木の床に白色の壁で、色彩のバランスが取れているように思えた。


 さらに奥に進むと、寝室の扉があり、その前のスペースには物が何も無く、がらんとしていた。私の部屋ではこのスペースに、ソファが置いてあった。ここを寝床にしようか、そう考えていると寝室からジェーンが出て来た。


「おや、来ましたね、これからどうぞ、よろしくお願い致します。」


「こちらこそ宜しく。家にいる時はさっきも言った通り、気を使わないでいいからね。」


「はい。」


 背負っていたギルド兵リュックを床に置き、持って来たポールを長方形になるように、寝室前のスペースに立てて置いた。ジェーンが首を傾げて見守っている。


「何をしていますか?」


「こうやってポールを設置するでしょ?ここにも、ここにも……そしてこのワイヤーで繋いで、そうしたら……。」


 リュックの中からヤシの木柄のカーテンを取り出し、金具をワイヤーに付けて、それにカーテンを引っ掛けた。ちゃんとシャッと開閉出来る。これで私の簡易的な部屋が出来上がった。


「ふう、これが私の部屋ね。ギルドの物が役に立って良かった。このカーテンから内側には入って来ないでね。」


「用事がある時は、どうしたらよろしいですか?」


「名前呼んで。」


「はい。」


 そして私は上の階に再び行き、マットを取った。それをまた下に運んで、今度はベッドの制作に挑んだ。ジェーンはバタバタ動く私を眺めながら、ソファでお茶を飲んでいる。マットをカーテンの部屋に敷くと、それだけでスペースのほとんどが埋まってしまった。


 それから何往復もして、マットの傍に木製の収納ボックスを置き、その中に着替えや生活必需品を入れて、その上には先程貰ったパインマフィンの箱を置いた。


 はは、どんどん私の部屋が狭くなる。しかしこれも仕方のないことなのだ。こうなったのは誰のせいでもない、全てはあの皇帝のせいだと理不尽な言いがかりを心の中でつけて、一人で笑ってしまった。気がつくとカーテンに人影が写っていた。私はその影に話しかけた。


「じゃあ、もう二十三時だから寝るよ。突然ルームシェアすることになってごめんね。家賃だけど、もう負担しなくていいから。」


「いえ、半額は支払います。それにこの方が、緊急を要した時に上の階に医者もいますし、あなたに用事がある時も、二階に行く手間が省けます。」


 枕を三つ重ねて、その上に上半身を沈めると、急に眠くなった。


「そっか、それならいいや。お休みなさい。」


「お休みなさい、キルディア。」


 そのあと私は、私の想像するジェーンの奥さんに、怒られながら追いかけられる夢を見たのだった。

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