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LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる  作者: meishino
一つ目のパーツが入手困難編
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41 甘いクッキーの香り

 午後二時、新光騎士団の団長である俺は、先頭に立っていた。ルミネラ平原をサウザンドリーフの森に向かい、ブレイブホースのエンジンを全開にして、軍を進めている。


 一人足りとも遅れるな。遅れた者は、俺の隊から除名してやる、帝都を発つ前に、何度もそう怒鳴りつけた甲斐があったのか、今のところは誰一人逸れる者はいない。そして予定よりも早く、森に着いた。俺はゆっくりとブレーキをかけて、一度停止した。


「進軍停止!……これよりサウザンドリーフの村に突入するが、奴らめ、何をしてくるか分からん!魔術師と槍兵はペアになり、進め!射撃兵は弓が飛んできたら、弾き返せ!」


「はっ!」


 進軍開始。木が乱立し、森の土は雨でぬかるんでいるが、俺は速度を落とさない。何のために鍛錬してきた。この程度で遅れるわけには、いかないだろう?心の中で兵達に問いかけながら、振り返ると、俺の補佐であるトレバーだけは、俺の斜め後ろをピッタリとくっついていた。それから少し後ろの隊との間隔が、開いていた。奴らに、俺の完璧な手さばきに付いてこいと言うのは、流石に無理があったか。しかしトレバー、やはりお前は俺のお気に入りだ。


「クソが、今まで何を訓練してきた!?遅れるな!」


「はっ」


 舌打ちをして、俺はブレイブホースの速度を下げた。少しぐらい遅れたって、リーフの村の人間達に逃げる手段など無い。型落ちのブレイブホースが数百台あるばかりで、どうやって村人全てが逃げ切れるか。今回は明らかに我が皇帝による戯れ戦だが、仕方ない、俺たちは兵士だ。彼の手となり、足となることが全てだ。


「皆、心せよ!相手は一般市民といえど、国家に背く逆賊よ!全員残らず殺せ!」


「はっ!」


 よし、これでいい。情けは無用だ。

 木の枝が、兜にぶつかろうとする度に、俺は手のひらから炎の魔術を放ち、後の兵達が通りやすいように枝を消した。そのせいで葉に火が点き、森は徐々に、移り火で燃え始めた。遠くからパチパチを燃える音、それから焦げ臭い匂いがする。


 ブレイブホースの駆ける音が轟き続け、ついにリーフの村の丸太の防御壁が遠くに見えた。松明は付いている、住人は逃げずに、あそこにいるようだ。俺は動きを止めた。


「止まれ!……村が見えたぞ、弓兵の攻撃に注意しろ!」


「しかし」俺の隣に来たトレバーが、首を傾げた。「静かですね、彼らならもっと遠くにいる時点で、我々に攻撃を仕掛けてもおかしくは無い。何かおかしいです。」


「ふん、降伏でもしようっていうのか。そんなことするぐらいなら、さっさと立ち退きに応じればよかったんだ!アーネルの件は、俺はどうでもいいが、シルヴァ様が無下にされたことに対して憤っている。あの女は怒ると見境ないからな。その点でも彼らは、従っておくべきだったんだ。今更、後悔したってもう遅い、帝国に刃向かうということは、どういうことか教えてやる。よし進むぞ!魔術兵、防御壁を破壊しろ!」


 丸太の壁の前で停止した俺の軍は、魔術兵の為に、スペースを空けた。列に並んだ魔術兵は、部隊長が出した魔法陣に向かい、皆がエネルギーをチャージし始めた。様々な属性の魔力が、蛍の光のように魔法陣に向かって飛んでいる。大きな光を放ち始めた魔法陣を見て、俺は叫んだ。


「よし!放て!」


「おう!」


 けたたましい爆発音がして、丸太の防御壁が、空に高く吹き飛んだ。てっきりポカリと丸い穴が開く程度だと思っていたが、意外とこのサウザンドリーフの木は強度があったようだ。俺は決壊した箇所から、ブレイブホースに跨ったまま村の中へと入った。しかし、人一人見当たらない。逃げたか?いや、ブレイブホースの数からして、村人全員が逃げるなんてことは無いはずだ。だが、静まり返った村には、俺たちの立てる物音しか、響いていない。


「なんだ?誰もいない。もしや、逃げたのでしょうか?」


 不安そうな声をトレバーが発した。その時に、ふわりと甘い匂いが、風に乗って俺の元へとやってきた。美味そうな、出来立ての焼き菓子。


「いや、女はここにいるはずだ……甘い匂いがする。ここの名産のクッキーの匂いだ。それにスープの匂いまで……住人の奴らめ、俺たちがここに来る事を知らなかったのか?おい誰かいるか!」


 俺はブレイブホースから降りて、近くの家のドアを蹴破った。誰もいないリビング、テーブルの上には湯気を放つ、焼きたてのクッキーと、スープの入った鍋が置いてあった。食器も律儀に用意してある、ただの食事の風景。だが一番の疑問は、その食事をする人間が、一人もいないことだ。


 逃げたか?いや、今から逃げる奴が、のうのうと食事を用意して、逃げようとするか?もしや影に潜み、弓で我々の頭を狙っているのでは……!しまった、そのための囮か?俺は急いで外に出た。不吉な予想とは裏腹に、兵達は皆無事で、慌ただしく住人の捜索をしていた。


「おい!誰かいたか?」


 すると倉庫から出てきたトレバーが叫んだ。


「やはり、この村には誰もいません!周囲の捜索もしましたが、人の影はありませんでした!それに、ここにあったはずのブレイブホースが、一台も見当たりません!」


「なにぃ!?くそ、逃げたか!足跡は!?」


 俺は急いで、停めてあったブレイブホースに跨った。

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