215 朝のスキンシップ
私に出来ることはこれが全てか?全力を出しているか?いや、全力では無い気がする。今から週末大学に行って、ジェーンのアシストする、っていうのは時間が掛かりすぎるから……何か、別の、確実な方法が欲しい。
どんな問題にだって、必ず解決方法がある。ジェーンと一緒にいるようになってから、そう思えるようになった。苦しい時はいつもジェーンが解決方法を編み出してくれた。ずっと胸にあったこの言葉。しかし、今回のこの問題は、解決方法なんてないよ。
それでいいのか?それで本当に騎士なのか?彼の本当の幸せは何?何だろう、何なのだ!
「ジェーン、」私は彼の膝から立ち上がり、部屋の隅にある、イーゼルに立てられた、ホワイトボードの前に行った。そして振り返ると、ジェーンが目を丸くして座っていた。「あなたの、本当の幸せは何ですか?」
「……あ、ええ、と、そうですね……あなたと一緒にいることです。それから、過去で、計画が達成された時も、幸せです。」
私は勢いよくペンのキャップを取って、その辺の床に放り投げた……んんん!よし!
「今から作戦会議をする!ジェーンの欲求と私の欲求は、一致している!」
「あ、ああ……。」
ああ、じゃないよ!何ぼーっとしてるんだ奴は!こんな時は、あんたが考えるんだキルディア!お前なら出来る!騎士団長に必要だったのは規律と、忠誠と、咄嗟の発想力だ!私はホワイトボードにタイトルを書いた。
『ジェーンの目的を叶える方法』
「……本当にいけますか?」
「うああ」
ちょっとびっくりした。いつの間にか、ジェーンがすぐ隣に来ていたからだ。そして彼は思案顔をしていた。あと眼鏡かけていた。リビングの窓から朝日が降り注いでいる。よし!
「ジェーンに足りないのは、魔工学の知識だよね?」
「何だか、あなたに言われたくはありませんね……。」
「分かってるってば!」私はジェーンの肩を軽く叩いた。それからホワイトボードで『魔工学』と、書いて、丸で囲んだ。それをトントン突きなら言った。「これを、今の時代で、クリアすれば問題ない訳だ。」
「そんなことは、重々承知しております。」
おいおい、何だそのテンションは。仕方ないねえ。
「ジェーンが持っている知識は、全てなの?もうこの時代においても、全てなの?もう全て調べ尽くしたの?」
「ええ。」彼が頷いた。「全ての筈です。出ている論文や新技術の設計図は、全て、調べ尽くしてあります。」
全てか……全て、あれもなのか?私はジェーンに質問した。
「戦いの時に、チェイスが使ったオーバーフィールド、あれについても、設計図とか見たの?」
「……あれの設計図を私が見られることはありません。敵軍の希少武器の設計図ですよ?簡単に入手出来たら、どんなに楽なことか。それに、チェイスが発明した、ヴァルガの持っていた炎の長剣、あれも謎です。構造を盗み見ようと、落ちていた手袋を拾いましたが、シルヴァが粉々に破壊してしまったせいで、依然謎のままです。果たしてチェイスが、今の時代のプレーンをどのようにコピーしたのか、まあヴァルガはそれで、あの状態ですが……ああ、何です、全く。中々、思い出したくもありませんよ。」
「それだよ!それそれ!」私は叫んだ。「チェイスの技術を借りればいいんじゃないの!?だって、チェイスって天才なんでしょ!?この帝国で、一番とも言われてたんじゃないの?」
その時だった、ジェーンが思いっきり私の肩を叩いたのだ。痛かった。
「何するの!いってぇ……。」
ムッとした顔で、ジェーンは私に怒鳴った。
「私の方が天才です!私だって本気を出せば、オーバーフィールドだろうが、ルミネラ版プレーンのコピーだろうが、すぐに出来ます!今は時間が足りないのです!時間さえあれば、私にだって出来たことなのです!あんなものは、シリアルにミルクをかけるようなこと!それぐらい、時間があれば誰だって出来るでしょう!?」
「わ、わ、分かったよ、落ち着いてよ。で、でもさ……じゃあ、チェイスに協力してもらえば、いい感じの時空間歪曲機が出来るんじゃないの?」
「……キルディアの、おばか。」
何でよ。活路が見出せたのに、何でよ……。悔しいのとか、プライドがあるのとか、もう分かったから、前に進もうよ。私はジェーンの背中をさすろうとしたら、彼は避けた。
「……あなたのアイデア、まあ、中々いい物でしたよ。ホワイトボードに書いたのは魔工学というワードだけでしたが、中々……なるほど、チェイスに協力を求める。彼の技術力に頼る訳ですね。この私が。」
「いやまあだって、そんなさあ、時空間歪曲機は別に、完全にチェイスの技術って訳じゃないんだよ?ジェーンの技術があるから、時空間歪曲機が出来たんだって。パーツぐらい外注したっていいじゃん。よくウチにも、パーツの外注の依頼くるでしょ?それと同じでさ、チェイスだって、ジェーンと同じぐらいに天才なんでしょ?パーツ頼もうよ。優秀な博士だってさ、外注することあるって。」
「キルディア」ジェーンはかなりムッとした表情だった。「私と同じぐらいというのを訂正してください!彼は、確かに優秀です。しかし私の足元にも及ばない!彼の論文、幾つ問題点を指摘したことか!しかし、優秀なのは認めます。この歴史上、私の足元ぐらいにまで来たのは、どこをどう探しても、彼一人だと思いますよ。ただ少しばかり、中身に問題があります。私のように大人で、洗練されていたならば、今より活躍していた可能性もありますのに……。」
「そんな、貶してる感じだったら、協力してくれないよ、もっと優しくしないと。ジェーンの方が凄いのは分かってる。皆だって知ってるって。でも得意不得意あるでしょ?チェイスはガーデニングボットとか、戦闘ボット、あとよく分かんないアイデアの兵器だって作ってる。ダメかもしれないけど、彼に頼んでみようよ。もしさ、今度の戦で、チェイスを保護したら、その時にでも。ジェーンが出来ないなら、私が彼に頼むから。」
「まあ、あなたが頼めば、あの男は協力するでしょうね。はあ!」ジェーンはでっかいため息をついた。「何がガーデニングボットですか。妖精でも集めるおつもりですか。はあ!」
「ジェーン!」苦笑しながら私はジェーンを見た。彼は今、駄々を捏ねた子どものような顔をしている。「どうしてそんなに酷いの?まあ確かに、彼はジェーンを殺そうとしから、分かるけどさぁ。彼の力が必要だよ。」
「理由を知りたいのですか?はあ、説明致しましょう…‥私を殺そうとしたこと、それはもう構いません。それよりも、あの男自体、私とアビリティが似ていて、尚且つ、恋敵だからです。嫌は嫌ですよ。牛乳を拭いた後に数日間放置した雑巾よりも嫌悪感があります。しかしあなたの話す意味も理解します。これが上手くいけば、私はここに戻ってこられるのですから……はあ、仕方ありませんね、あのマダムフェアリーを捕獲したら、彼の技術を吸収しましょう。」
もうそのスタンスは変わりそうにないので、私は放っておくことにした。これで、もしかしたらジェーンは行き来が出来るかもしれない。
「もし彼の技術があったら、どうなるかな。」
「そうですね……設計図を実際に見ていないので、どうなるか予測出来ませんが、改善はされるでしょう。しかし私の予想では、それでも、時代の指定、何十年単位が限度かと。軽く、私の指定したポイントから八十年でもズレれば、あなたには会えません。」
「そっか。もう、そうなら仕方ない。今を大切にするしかないね、はは。」
私はホワイトボードの文字を消して、ペンを戻した。
「その前に、戦に勝たなければ。はは。」
私の言葉に、ジェーンは頷いた。
「キルディア、彼よりも私の方が、優れているということを、証明しますから、もう一度、ソファに来てください。」
「ちょっともう時間が無いよ。そろそろ準備しないと。」
「じゃあ早く!」
ジェーンが私の腕を引っ張って、ソファに突っ込んだ。私は勢いよく座ってしまい、ジェーンは眼鏡を放り投げて、私の膝の上に乗った。
「だ、だ、だ、ダメだって!遅れる!」
「五分で用意すれば間に合います!今を大事にすると仰ったではありませんか!」
「それはそうだけど……ぶっ」
ぶちゅっとキスされた。何度か彼の舌が、私の口に入ろうとしたけど、私は歯の壁で防御した。ジェーンは「焦ったい!」と、唇を激しく動かして、未知のキスをしてきた。
もがく私と、行為を続行しようとするジェーンで、激しく揉み合っていた、その時だった。チラッと見た窓の外、道路のところで、クラースさんとケイト先生とアリスが、ぽかんとした顔で、こちらを見て、突っ立っていたのだ。
しかしジェーンの顔ですぐに見えなくなった。出来れば、立ち去っていることを、願うばかりだった。




