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LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる  作者: meishino
一つ目のパーツが入手困難編
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21 機械仕掛け

 今朝の目覚ましは、六時五十分にセットされていたが、私が目を覚ましたのは六時半だった。まだ家具屋の香りが残る、真新しいベッドで目覚めた私は、時計のアラームを解除した。前の休日を利用して、家具を揃えたお陰で、この部屋にも生活感が出てきた。


 リビングも同様で、無彩色を基調とした家具は、インテリアに全く関心の無い私に代わり、キルディアが選んでくれたものばかりだ。どうも私のイメージは無彩色らしい。そのイメージの決め手となるものが、私のどの部分を指すのか理解はしていない。


 しかし、この家具類は使い勝手もよく、気に入っている。グレーのソファに、ゆったりと腰を掛けた私は、コーヒーテーブルに置いてあった眼鏡を掛けた。漸く、はっきりと物が見えるようになった。


 そして間も無く、ドンドンドンと二階から打撃音が響き始めた。この音は、毎朝七時になると上の階から響いてくる音だが、彼女が何をしているのかは判明していない。このことについて本人に聞いても「別に」と、返されるだけで、具体的な理由を知ることは出来なかった。床の上で走っているのだろうか。それにしても大き過ぎる足音を聞きながら、私はキッチンに向かい、簡易的な朝食を用意することにした。


 過去の世界では使用人がいた。故に私は、家具選びと同様に、料理もまた得意ではなく、朝は大抵シリアル、昼はキルディアとの外食、夜は冷凍食品やテイクアウトを利用する。先ほどのソファに座り、シリアル入りのミルクをスプーンで食べながら、ふと、彼女の作る料理のことを思い出した。


 不器用な配合率による、不安定な味の旋律。それでも彼女の作る料理は、どれも美味い。それが理由か、そろそろ彼女の作る物が食べたいと思えてきた。


 シリアルを食べ終わると、洗面所で身なりを整えて、歯を磨き、寝室のクローゼットの前で、シャツとベストを合わせて、ネクタイを止め、着替えた。この常夏の島で、長袖のシャツを着ているのは私ぐらいだ。「結局、腕まくりをするなら、七分丈のシャツを買えばいい」と、キルディアは言うが、それは私の美意識が許さない。


 シャツぐらいで矮小な自尊心ではあるが、貫きたかった。養子先でお世話になったご主人様もまた、如何なる季節でも長袖のシャツを召しており、私の幼心はそれに感化された。それだけの理由だった。


 過去の私の、勉学以外での拘りは長袖シャツぐらいしか無かった。あとは全て、身の回りのことは、何をしなくても使用人が片付けてくれていた。今となっては、全てを自分で行うことになり、朝食のシリアルはココナツとオートミール、それから乾燥パインの配合率まで、自分で決めて拘るようになった。もう随分と大人の私が、そんなことで漸く大人になったと感じた時に、変なおかしさを覚えたことを、クローゼットの鏡に映る自分を見つめながら、思い出した。


 一通り、朝の支度を終えた私は、寝室から出て、あとは彼女が階段を降りてくるまで、リビングで待つ。階段からドンドンと足音が降りてくるのを聞いて、それに合わせて、私は自宅を出た。


「あ、おはようジェーン。」


「おはようございます。」


「あのさ、ちょっといい?いつも無表情だよね。いやたまに、ふふって笑うけど、それも笑いが小さいというか、笑いと言えるのかどうか……もっと笑ってみたら?」


「何の必要があって笑うんです?」


 私の返事に、彼女は大袈裟にも頭を抱えながら、歩き始めた。彼女が何を思っているのかは分かりやすいが、彼女が何を考えているのかまでは、読めない時がある。それもまた面白く、暇つぶしにはなる。私は彼女の後ろを付いて行き、研究所へと向かっていく。


 親友同士は通常、縦に並んで歩くだろうかと疑問に思った。街を行く男二人でも、このように歩くことは、狭い道を通る以外は稀だろう。しかし彼らは決まって、楽しげに会話をしている。それが私達には無く、ただ同じ時刻に、同じ道を通って、同じ勤め先に向かっているだけだ。


 従って、適当な話題が用意出来れば、この状況が改善される確率が上がるだろうと考えた私は、何か話題はないかと思考を巡らし、脳内で検索された結果を、彼女の揺れるポニーテールに話しかけた。


「本日の予定は、午前に会議が一件と、調査部の帰還があります。午後は、調査部と共に鍛錬があり、十五時過ぎに、グレン研究所との電話会議があります。レポートは私が提出した通りで……どうしましたか?」


 話途中だと言うのに、彼女が項垂れたのだ。ふう、とため息をついた彼女は振り返り、呆れ顔で私の目を見て言った。


「あのさ……このサンサンと陽の光が降り注いで、人々は陽気に笑い合う、楽しげなリゾート街を歩いている時ぐらい、仕事のことは忘れようよ。ほら見て!あのヤシの実!おっきいねぇ。」


 彼女の指差した方角は、海岸の方だった。朝日で砂浜がきらめいており、砂浜に生えているヤシの木の下には、彼女の言った通り、比較的大きなヤシの実が、転がっていた。


「だから、何だと言うんですか?あいた」軽く、突き飛ばされてしまった。


「だから、おっきいねぇ、凄いねぇって言う話だよ!あのヤシの実がどのヤシの種類で、どういった原因で、あんなに大きく育ったとか、そんな深い事を話したい訳じゃないの!大きなヤシの実があったら感動しない?しないか、もういいよ!」


 彼女が歩みを速めたので、私も早歩きで付いて行くことにした。たまに彼女の話の意図が、理解出来ない。それを理解出来る方法について論じてある書籍が売っているとしたら、是非とも購入したい。


 研究所のロビーに着くと、見知らぬ褐色肌の痩せた、しかし筋肉質な男が、カウンター越しに、リンと話しているのが見えた。髪は赤毛のセミロングヘアで、癖毛なのか、毛の先が外側にピョンピョンと跳ねている。水色のリゾートシャツに白のハーフパンツをあしらった、如何にも健康的な男だ。


 リンが我々を見ると、彼女の視線に気付いた彼が振り向いた時に、その笑顔から覗く、真っ白の歯が光った。彫が深い顔つきだった。爽やかで、どこまでも健康的なこの男、彼は客なのだろうか。そう予想していると、キルディアが両手を広げて、その男に近づいて行った。


「キリー!ジェーンおはよう」リンの明るい声が聞こえた。「クラースさんが戻ったよ!」


「おー!そのようだね、クラースさん!お帰りなさい!」


 次の瞬間、クラースと言う名の男の元へ、小走りで向かったキルディアが、彼と熱い抱擁を交わしたのだ。彼女の背中に回された、筋の浮き上がった腕には、擦り傷の痕が何本か付いていた。


「何をしているのでしょうか?」


 私の質問に、三人が一斉に私を見た。キルディアには恋人がいないという事実からして、この質問は妥当だと思うが。何故リンが、にやけ顔をしているのか、その理由も、また把握が出来ない。


 私の考え、見た事柄を、理解出来ないことは正しいはずだ。彼女達が抱擁をした理由が分からないのは無理もなく、適切であるだろうに。何も答えないキルディア達が抱擁をやめて、私をじっと見ている。彼らに変わって、リンが答えた。


「何って、ジェーン知らないの?挨拶のハグだよ?クラースさんはシロープ島の出身だから、あそこの挨拶は、こうしてハグするのが一般的なんだよ。まあ、たまに社交的な人とか、パリピはあそこの出身じゃなくても、挨拶のハグする人がいるけど、少なくともクラースさんは、そこ出身だからハグするの。パリピじゃないよね?クラースさん。」


「はは……俺はパリピではない。ところであなたは、新しい顔か?どこかで見たような顔だな。俺はクラース・エレノア・アッシュフィールド。調査部だ。」


 少し掠れた低い声だった。どこまでも野性的な男だ。彼と握手をしつつ、私も自己紹介をした。


「これは失礼。今、ハグの挨拶を理解しました。私はアレクセイ・ジェーン・シードロヴァです。彼女の秘書兼、研究開発部の部長です。どうぞジェーンとお呼びください。」


 クラースは私と見つめながら姿勢を正した。


「そうでしたか、俺のことはクラースで。一応、調査部の部長だ。まあ、今となっては俺とロケインしか、調査部にはいないけどな。」


 かしこまるクラースの肩を、キルディアがポンポンと叩き、笑顔で彼に話しかけた。


「まあまあ!挨拶はこれぐらいでさ。クラースさんいつ帰ったの?海は大変だったでしょう?」


「先程、ここに着いたばかりだ。俺は元々海の男だ、慣れてはいるが、今回の調査は少し時間がかかってしまって済まなかったな。心配をしただろう?」


「うん、少し心配したよ。でも帰ってきたから良かった!」


「ははっ、久々にお前の笑顔を見たら、元気が出た。」


 クラースのキルディアは、互いに見つめ合いながら微笑んでいる。気のせいか、普段の彼女と比較して、今はより機嫌が良いのではないか。あまり見た経験のない、気を許したような、甘えたような、砕けた笑顔をしている。実に面白くない。


 まるで興味のないスポーツを、何時間でも観戦させられているかの如く、退屈だった。しかし彼らから目を話すことが出来ないのだ。正体の無いものに、振り回されすぎやしないか。それを自制する為に目を閉じると、ポンポンと肩を叩かれた。気付けば、リンが隣に立っていた。


「ねえねえジェーン、あの二人って、本当に仲が良いんだよ。昔から。」


「そうですか。」


「うん。最初は互いに、いけ好かないと感じてたようだけど、元々キリーも調査部だったでしょ?調査部の皆は、訓練場で一緒に、剣をぶつける機会が多いじゃない?剣をぶつけ合っているうちに、互いの実力を気に入って、認め合って、男の友情みたいなものが誕生したんだって、いつかキリーから聞いた。」


 彼女の話を聞いて腑に落ちた。なるほど、キルディアが調査部に所属していた為に、鍛錬を通じて親交を深めることが出来たか。となれば、あの勇敢な彼女の姿を、このクラースと言う男は何度も、目にタコが出来るほどに見てきたに違いない上に、私などが到底入ることの出来ない好敵手という領域に侵入し、そこで友情の柱を築き上げたか。これは少し考えねばなるまい。


 クラースが、キルディアの腕を軽く叩いたのが見えた。


「そうだ、ちょっとこれから時間あるか?今話したついでに、今回の調査報告をしたいのだが。」


「えっと、この後の予定「あと一時間後に、研究開発部との会議があります。」


 多少、食い気味の発言になってしまったことは無理もない。彼女のスケジュールを把握し管理するのが私の役目だ。


「そうそう、会議があるけどまあ、大丈夫か。今からクラースさん、オフィスに来てくれる?」


「ああ。」


 そう言って彼女とクラースは、オフィスへと向かい始めた。私も彼らに続いて向かう。二人並んで歩き、和気藹々と話しながら、オフィスに向かう彼らの様子を見て、少し彼女との距離を感じた事が、物理的な問題でないのならば一体何なのか。それもまた理解が出来ないまま、彼女たちの後に続いて、オフィスに入った。

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