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LOZ:彼は無感情で理性的だけど不器用な愛をくれる  作者: meishino
誰も止められない愛情狂編
205/253

205 愛情表現

 私はキーボードで企業PRの入力を続けた。彼は今も、これを覗いているのだろうか?もうハッキング画面を消しちゃったかな?それでもいいか、その方がいいか。届けばいいなぐらいの気持ちで、後で消すからと、企業PRの欄に入力を続けた。


『正直なことを書くと、ピアノの演奏をしてくれた時、ジェーンはこの世界のお金を持っていても仕方ないと言っていたでしょう?だからその時、私はジェーンが自分の世界に帰る決断を固くしたんだと思った。勿論、それは最初からそのつもりだったけど、私との将来を真剣に考えてると言っても、いつかは帰ってしまうのは分かってたけど、それが、最終確定通知のような気がしてさ。』


「見てんのかな……まあいいや。」


『ピアノの演奏、とても心を打たれた。あれを言葉で表現するとしたら、きっと、ロマンチックって言うの?私は本当にその、何と言うか、恋愛とかそれに準ずる感情について、疎い。そして週末、鍛えながら色々と考えたんだ。たまたま遭遇したカーネルさんに、私はカタリーナさんの気持ちを考えて、「大切な人と離れ離れになるのはどうなのですか?」と聞いたら、「絶対に何が何でも離してはいけないよ。」って言ってくれた。そのときに、私は、やっぱり結婚というのは、重要なイベントだし、夫婦っていうのは、結婚から絆が生まれるって夕方のドキュメント「ラーメン屋夫婦密着」って言うので見たことあるし、二人は離れ離れになること、それから、ルミネラの騎士であった私が、それを後押しする事は、絶対にいけない事なんだって、思ったんだ。それで、私も決心した。今までは正直、ジェーンが残ってくれる事を、実はほら、あまり、あれだけど。ジェーンが帰ってしまうのは勿論、寂しいよ。』


 ああ、何この気持ち、胃が痛くなってきた。


『でも、じゃあ、いざジェーンは残りましたって言っても、タイムパラドックスがどうとかタージュ博士が言っていたし、そう考えるとやっぱり、ジェーンは帰るべきなんだって。だって過去に帰ったジェーンが、その後に何も功績を残さないなんて考えられないよ。絶対に歴史的な矛盾点が生じて、世界が崩壊するよ。ああ。でも、何が言いたいかって、もう消すから、言うけれど、私はきっと、ジェーンが想像している以上に、ジェーンのことを愛している、好きだよ。こ、こ、恋人にだってさ……もしジェーンが、この世界の人だったら、なりたかったかも、なんてね。いやいやいや、今のは忘れて欲しい。あはは。ジェーンの気持ちも、あのピアノの曲で伝わったと言うか、私が想像している以上に、ジェーンは私のことを大切に想ってくれていたのかなって思えた。それだけでいい。それだけで満足だ。私は強くなれるし、戦えるよ。だからジェーンが帰ることに対して、自分の中で心の準備したくて、最近は冷たくなってたかもしれない。本当に、ごめんね。それだけ、言いたかった。Kildia Gilbert Kagari』


 書き終えた私は、ちょっとスッキリした気がして、椅子に深く座った。


「まあ見てないだろうな、あの様子じゃ……さようならキルディア、だって。」


 ジェーンの声真似をして言ったら、ちょっと似てたので自分で笑った。それにしても汚い文章だな。やっぱ消そう。まあ消す予定だったけど。もう直ぐにでも消そう。


 そう思ってマウスを手に持った瞬間、画面に映っていたカーソルが、勝手に動いたのだ。私はまだ何も、動かしていない。


「えっ!?」


 逆に、マウスをどれだけ動かしても、キーボードをいくら操作しても、何も自由が効かなくなっている。何で!?このタイミングで壊れたのか!?


 慌てていると、私の文章の末尾で点滅していたカーソルが、勝手に二回ほど改行されて、そこから勝手に文字が出てきた。お、おお……凄まじい速さだった。


『なるほど、あなたの言いたい事を理解しました。あなたの気持ちを確かに拝見しましたよ。ありがとうございます。しかし勝手に、カタリーナのことを肩書きだけで判断される私の身にもなって頂きたい。確かに私と彼女の間には婚姻関係が存在しますが、何度も言った通り、我々の間、いえ、彼女は私に少しばかりは好意を寄せていたのでしょうが、私の方はさっぱり、彼女のことを一月でも何年でも忘れていられる程に、何とも思っておりません。酷い人間です。政略結婚、それこそがこんなにも足かせになるとは、予想もしませんでした。』


 あらま、返事が来た。私はじっと、それを見つめた。


『私が帰る事を匂わせると、直ぐにあなたは私を避けようとして。あなたの気を惹きたくて、ついわざと帰る事を匂わせました。オフホワイトの効果が、これ程までとは予測していませんでした。どうしてあの著書がベストセラーでないのか、不思議でならない。』


 クソォ!策だったのか!?全く、いつまでオフホワイト読んでるんだよ!私は真っ赤な顔で、歯を食いしばった。


『まあ、私の華麗なる策が原因なのでしょうが、あなたが勝手に、私が帰る事を決断したなどと誤解をされて、あなたに距離を置かれたこの数日間、私の人生はとても暗く、そして辛い日々でした。あなたのせいで。』


「ああそう……何この人。何でこの人が好きなの?ねえ?」


 だが自分は何も答えてくれなかった。あはは……。


『しかし、こうして、あなたの素直な気持ちを知ることが出来て、良かったと思っております。私は今、とても幸せです。私と言う、知性に感受性を奪われた人間が、こうして感情豊かになれたのは、他でもないあなたです。厄介な性格にも関わらず、根気強く、私と接してくれました。私は、嬉しい。この感情を知ることが出来て、とても嬉しいのです。初めてあなたが私に居場所をくれた。初めてあなたが私と、親友になってくれた(それはのちに嬉しさ半減しますが)そしてあなたと共にいることで、私は人間になれた。あなたは感情の塊です。私はあなたのその部分も好きですよ。あとは、そうですね、タイピングがとても遅い。日が暮れるかと思いました。』


「……何なのもう、何でちょっと貶してくるんだ。」


 でもきっと彼が正直だから、仕方ないのだ。それも魅力だけどさ……。


 確かにジェーンのタイピングは正確で、打ち間違えが無くて、とても速い。羨ましいくらいだ。その技術だけでも欲しい。


『カーネルさんにアドバイスを頂いた様ですね。カーネルさんは、そうと思わずに回答したと思います。』


「え?」


『彼が想像したのは、あなたと私のことだと、高確率で考えられます。そもそもどうして、カタリーナの視点に立って考えることが必要になりますか?普通は、自分自身が今後どうするのか、それを吟味するためにそう言った質問をするでしょうが。あなたは自己犠牲が、酷い。』


 私は絶句した。ジェーンの言っていること、確かに納得できるからだ。


『元騎士だから?ルミネラ皇帝に結婚の幸せとは何かをご教示頂いたから?自己を大切にすることも出来ないで、相手を大切になど扱えません。大人から子ども、男性から妊娠している女性への自己犠牲なら納得出来ます。人間の本来の目的は子孫を繁栄、守ることにありますからね。しかし、あなたの場合は、そのどちらにも該当しない、ただの、犠牲に過ぎないのです。しかし過ぎた事を言っても、仕方ありません。これからは私に、何でも話したい事を、思っている事を、話してください。何かを考えている時点で、何かを一人で抱え込んでいる時点で。人には折角、会話というコミュニケーションツールがあるのですから、これからは、いいですね?私に話して。』


「……はい、分かりました。」私は返事を打とうとしたが、カーソルは効かなかった。「まだ打てない。何で?」するとまだ文章が出てきた。


『それから、あなたがはっきりと私に対して、愛していると初めて言ってくれた。更には恋人になりたいですって?私にとって、最高のご褒美とも考えられるその言葉を、あなたは、ハッキングの最中に、それも研究所の求人要項の企業PR欄で私に伝えてきたのです。私の気持ちが理解出来ますか?』


 それは悪かった。私はちょっと笑った。確かに企業PR欄は、ロマンチックじゃなかったね……。


『以前、レジスタンスのテントの中で、お話ししました。確かにあなたは、私に対して、ただの秘書ではない、そう思っていると仰っておりました。いつの間にか、そう思っていないと。しかしそれは、はっきりと感情を表す言葉ではありませんでした。大切な人で結構。しかしそれは、クラースでも該当します。私はその先に進みたいと、常々願っていたのです。恥ずかしがり屋なあなた、』


「いやああああああぁぁぁ!止めてくれ……!」


 私は顔を真っ赤にして、頭を抱えた。しかし彼のタイピングは止まらない。


『私はそれを理解しておりました。でも少しぐらい、もっと愛情表現してくれても、宜しいのに。キスだって、もっと激しいものをしてみたい。ハグだって、もう少し、全身を撫で回したいのです。ハグ、それもここ数日間は、全く存在しておりませんでしたね、挨拶のものでさえも。ああ、私はとても焦らされてきました。全く焦らされずに結ばれるよりかは、多少焦らされた方がいいとは思っていたものの、ここまでとは。やはり、あなたは最高です。』


 ちょっと結末が理解出来ない。あともう、止めて欲しい……。


『こんなに焦らされて、結婚のことがこんなにも足かせになっていて、それは私の過去のあ 過ちですが。あは。 はあ。カタリーナに罪はありません、私が所長に命令された事を理由に、政略結婚を甘んじて受け入れたのです。彼女の実家は資産家です、そして巨大な権力の持ち主でもありました。あなたが私を想ってくれないのも、状況が状況ですから、無理はないと想っていました。それなのに』


 ジェーンがタイピングミスしてる……そして文章が止まった。


「あれ?」


『それなのに、私に愛してると言ってくれたのが、このハッキングが初めてなんて。』


「うーん、じゃあどうすれば……。」


『今日は、もう、とことんあなたを愛したい。帰りに回転寿司屋に行きましょう?あなた好きでしょう、生魚。私が調べておきますから、一番美味しいところに行きましょうね。それからお部屋では一緒に過ごしましょう。最近は特に、時空間歪曲機を作り続けて疲れてしまいましたから、あなたに癒して頂きたい。しかし、それを作っているからと言って、直ぐに帰る訳ではありません。詳しくは話せませんが、私には私の考え、計画があります。あなたは私にその身を委ねるだけでいい。長くなりましたが、私があなたに伝えたい事は、秘書の席も、研究開発部長の席も、あなたの恋人の席も、全てが予約済みだと言う事です!理解しましたか?あ、返事は結構です。後ほど、そちらに伺いますから、その時にでも。Alexei Jane Sydorova』


 署名がついてるから、終わった様だ。私が熱い頬を両手で包んだ、その時だった。ジェーンが投稿ボタンをクリックしたのだ。


「うえええええええええええええええ!?」


 私は慌ててドアまで走って、オフィスから飛び出した。

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