199 全てが終わった
文字通りの大敗だった。
アクロスブルーの自警システムは、冷静に考えても、客観的に考えても、現在の帝国一の自警システムに違いなかった。予備電力までもが、システムによって保護されている。
あの自警システムを作った人物が、LOZに居る。嫌な予感、当たるものだ。それを発明したのは僕の知っている人物だった。スローヴェン博士。元々、帝国研究所にいた、兵器にしか興味のない、厄介な異端児だったと記憶している。
彼の破壊的なマインドを、どこをどうしたらユークを守る為というピュアな力へと変化させることが出来たんだ?キルディア、君の、人を動かす力はどこから湧いてくるんだ?
ああ、あのシステム、あれを参考にして、今から帝国研究所と連携し、城下の自警システムを強化することも出来るが……もう怖くて外に出られない。僕は元帥。この大敗北の責任は、僕にある。自分の執務室から出たら、殺されそうで怖い。
「ああ、もう終わった。もう終わったのは分かってるから、早く自由になりたい。」
いっそのこと、一思いに頭を撃ち抜いて欲しい。陛下、今すぐにお願いします。僕は罪人ですよね?ああ……なのにネビリス皇帝は、僕のことを呼びもしない。戦いは終わって、暫く経つのに。じっくり処刑方法でも考えているのかな。じっくりコトコト鍋を煮込むように。
イスレ山では、ヴァルガ騎士団長がLOZに投降してしまった。僕の指示を聞かないで、勝手に出向いたシルヴァ大臣は、LOZの誰かに撃たれたらしい。帰って来た数名の騎士達は皆、シルヴァ様が居なかったなら!、と嘆いていた。そうだろうね、あの場に居なかった僕でも、なんとなく想像出来るよ。
イスレ山に居た騎士団、ほぼ全員が投降して仕舞った。誰がどう考えても、その二つの戦いで失った新光騎士団の戦力、LOZが得た戦力……馬鹿にならない量だ。
今の状態で、どこかを攻めようとして城下を出れば、一気に攻撃されて終わるだろう。それには最早、策など必要無い。こうして、ネビリス皇帝も、新光騎士団も、城下に閉じ込められてしまった。
僕は机の上で、頭を抱えた。
「ああ、終わったんだ……。」
考えることはそれしかない。僕はもう死ぬ。帝都民は今もなお、なんらかの方法で城下を脱走して、ユークに逃げ続けている。今までの活気のない商店街、ガラガラのバー、そんなニュースを昨日見た。誰か、ユークに逃げるのなら、このポケットにいるキルディアも連れて行ってくれ。彼女を安全な場所に置いておきたい。
僕はそれを取り出した。彼女の微笑みが、辛い。
「君は逃げるべきだ。」
『チェイスも逃げるべきだ。』
ふと、彼女がそんなことを言ったような気がした。この城から出ることすら、僕には不可能なんだ。そんな体力も、気力もない。でもしれっと窓から……そう考え始めた時だった。執務室のドアがノックされた。僕はサッと、人形をポケットに入れて、答えた。
「は、はい。」
「俺だ。ネビリス。」
とうとうこの時が来てしまった。さようなら 、城下の皆さん。さようなら 、キルディア。僕はゆっくりと歩いて、ドアを開けようとしたが、陛下が自分でドアを開けて、中に入って来た。僕は慌ててピシッと姿勢を整えた。陛下は、光のない眼を床に向けている。
「……チェイス、失敗したな。」
「申し訳、ございません。私の力が、大変不足しておりました。」
僕は深く頭を下げた。
「顔を上げろ。」
僕は従った。陛下は顎を撫でながら、僕を見ていた。軽蔑してるのか、不安なのか、よくわからない目だった。
「うん。お前は、最後まで、俺に忠誠を誓うか?」
どうしよう、誓いませんなんて言った日には、僕はあの世行きだろう。そのムキムキの身体で、僕は粉々にされるに決まってる。僕は答えた。
「勿論でございます。陛下に、最後まで身命を捧げる覚悟であります。」
「そうか。ならば、方法は一つしかない。俺の為に、その命で尽くしてくれ。」
「は、はい……。」
どういう意味だ?僕は目が泳いだ。陛下は僕の顔を見たのか、少し笑って、僕の肩を優しく摩った。
「なあに、お前は普通に、この執務室で過ごしているだけでいいんだ。何もしなくていい。何も考えるな。これ以上の幸せが、人生にあるか?」
何も考えずに、何もしないのか。確かにその人生は楽そうだが……つまらなそうだ。僕はどうしても、ランプを見れば設計図が浮かぶし、床の模様から回路を考えてしまうし、妄想癖もあるから人形と会話出来る。ある意味そんな僕にとっては、何も考えないっていうのは、かなり難しい行動だ。
しかし断れない。陛下は微笑んでいるが、その顔だって怖い。
「わ、分かりました……この執務室で、とにかく過ごします。」
「うむ。それでいい。ではな。」
そう言って陛下は、執務室から出て行った。思ったよりも怒られなくて安心したけど、一体なんだったんだろうか。忠義を確認しておきたかったのかな。ヴァルガ騎士団長も、シルヴァ様も居ないから、他に頼れる人がいないのかもしれない。
兎に角、今の僕は無事だった。ほっと胸を撫で下ろして、ソファに座って、自分で自分をハグした。




