197 シースルー?
ジェーンは考えながら、ポツポツと答えた。
「私の思い描いた、最良の未来は……キルディアが、私の恋人になる事、なのでしょうか。確かに、そうでなければ、いけない。」
そうでなれければいけない?なにそれ……。
「クラース、キルディアは、私のものです。」
「ははっ……」
宣言されたクラースさんは、俯いて、肩を震わせてしまっている。そして「そのようだな」と言った。それからジェーンが私の方に顔を向けた。
「キルディア……私の恋人には、なれないとの事。それは、私が結婚しているからですか?過去の世界の人間だから?」
「そうだね、その理由が大きい。」
「とすれば、私自身には、何の問題も無いと?」
「ドゥっ……」変に吹いちゃった。何だろう、その流れ。「ま、まあ、ジェーン自身には、確かに問題は無いけれど。」
「私の置かれた状況さえクリアすれば、問題ないと?」
「うーうん、でも無理でしょう、そんな事……。」
リン達が心配そうに我々を見ている。私は景気付けるために言った。
「じゃあ、次の人!順番的にクラースさんだね!クラースさんがお題を出してよ!ジュース温くなっちゃうから!」
「そ、そうか?そうだな……。」
クラースさんが考え始めると、リンも座り、ジェーンはチラチラとこちらを見てきたが、私は気づかないフリをした。でもちょっと気になって、ジェーンの方を見てみると、目が合って、その瞬間に、ウィンクされた。何なんだよ、この人。私はどうにか笑いを堪えた。
「じゃあそうだな……こう言うゲームはした事なくて、慣れないが……よし!思いついたぞ!職場の同僚に、誘惑された経験がある奴は、ジュースを飲め!」
私は聞いた。
「部下でもいいの?」
「あははははは!イッテェ!」
リンがジェーンに叩かれた。クラースさんが頷いたので、私は飲んだ。リンはちょっと考えた末に、飲むのをやめた。どうやらラブ博士からは、無いらしい。するとジェーンも飲んだのだ。そうか、確かに彼はリンに誘惑されていたもんね。私はジェーンに確かめた。
「それって、リンのこと?」
「リン、もそうですが、どちらかと言えば、あなたです。あなたはいつも、私を誘惑している。」
もう聞かないことにした。いつ私が誘惑したんだよ……と思った、その時だった。ケイト先生がゴクッと飲んだのだ。まあそっか、皆も納得した様子だったが、リンはわざとケイト先生に聞いた。
「ええ~!?ケイト先生同僚に言い寄られたの?誰~?」
「お前、酷いぞ。」
クラースさんのツッコミに皆が笑っていると、なぜか苦笑いのケイト先生が、変なことを言った。
「そう、クラース、これは有名でしょうね。でももう一人いるわ。」
「え?」
ケイト先生が私を見た。ど、ど?
「実は……この研究所に配属されて、ちょっと経ったあたりで、タージュに告白されたわ。断ったけれど。」
何とも言えない空気が流れた。そして私は、タージュ博士とのおうちデートを妨害してくれたジェーンに、何とも言えない感謝の念が出てきた。そう思いながらジェーンを見ていると、ジェーンが私に聞いた。
「どうしました?」
「いや……あの時、ありがとうと思って。」
「そうでしょう。私に感謝しなさい。」
不本意だが、感謝はしている。あのやり方はどうかと思うが、感謝はしている。リンがケイト先生に経緯を聞いた。どうやら、ケイト先生がタージュ博士の腰痛を診ていくうちに、そうなってしまったようだ。
「大丈夫だケイト、あの男から、俺が守ってやる。」
ケイト先生良かったね、男らしい彼氏がいて。そしてリンは次に、ジェーンを指差した。
「じゃあ次はジェーン。お題を出して!」
ふむ、と思案顔になったジェーンは、すぐにお題を出した。
「そうですね、ではこの中で、不倫をしたことがある人。肉体関係はなくとも、精神的に、婚姻関係を結んだ相手以外の第三者を想っている、或いは、婚姻済の誰かに、同じく想いを寄せている。その時点で構いません。不倫関係にある人は、ジュースをお飲みください……ああ、今宵のオレンジは美味い美味い。はっはっは!」
ジェーンはゴクゴクと飲んでいる。リンとクラースさんは手を叩いて笑い、勿論お三方は誰も飲まない。ジェーンが瓶に口を付けながら、私に挑発的な視線を向けている。
おのれ……!私も大きく喉を動かして、見せ付けるようにゴクゴク飲んだ。リンがピャーと超音波のような笑い方をした。おのれ……仕返しだ!私は袖で口を拭いた後に、言った。
「じゃあ次は私ね!この中で、好きな人が居るのに、他の人を好きになったことがある人!」
と、言って、私は瓶に口を付けた。ジェーンがハッと息を呑んだ。
「キルディア!?まさか……嘘でしょう!?私以外の誰を?」
思ったよりもジェーンが狼狽えている。もうリンは床に手をつけて笑いこけている。
「私自身には問題無いが、他の誰かが、私よりも魅力的だったと言うことですか?そ、そんな……い、嫌です。私があなたの愛情の扉を開いたのは、私にその愛を向けさせる為です。他の誰かを愛させる為ではない。私が通過点?そのようなことは、到底……耐えられない。」
「よく見なさい、ジェーン。私は瓶に口つけてるだけで、飲んでません。」
「……おばか。後で覚えてなさい。」
ジェーンは頬を赤くして、ちょこんと座った。ああ、このゲーム、楽しくなってきたぞ!上機嫌の私が「フゥ~」と軽く声を出すと、ジェーンに肩をベシッと叩かれた。
そして笑いが治まってきたリンが、ひいひい息を漏らしながら言った。
「ひゃ~!もうこのゲーム史上最高の面白さを記録してるよ……!じゃあ最後に私ね!んーとね、じゃあ……はい!今、セクシーな下着をつけてる人!」
その場がしーんとした。誰も飲もうとしない。クラースさんが笑いながら言った。
「ははっ、その質問をするなら、お前だけはつけていろよ。」
「あっはっは!そうだったね~いやいや、誰かはつけてるかなと思ってさ~……って、え!?え!?」
私も驚いてしまった。ジェーンが静かにゴクゴク呑んでいたのだ。そして彼は飲み干した。
「ああ、美味しかったです。ジュースが丁度なくなりました。」
「ねえジェーン」リンがジェーンに聞いた。「セクシーな下着、付けてるの?ど、どんな下着?男性用のだよね?」
リンよ落ち着け。しかし私も気になるので、黙って聞くことにした。ジェーンは私にチラチラ視線を送りながら言った。
「ふふっ、デザインは至って普通です。しかし素材は、シースルーです。」
「ぶっ」
私とクラースさんが同時に吹いてしまった。だって、なんて物を履いてるんだ……。ファッションに若干疎い私は、リンに確認した。
「シースルーって、夏になるとユークの女性が着るような、スケスケ素材のことだよね?」
「うん」リンは笑顔で答えた。「それをジェーンは下着として履いてるんだって!」
何だか、今も昔も、彼のことがさっぱり分からない。何が理由で、シースルーの下着を履いているんだ。私はクラースさんに聞いた。
「ねえクラースさん、」
「な、何だ?ふふっ」
「着替えの時とか、ジェーンのシースルー見たの?」
「……俺は見ていない。と言うか、ソーライの時も、LOZとして行動している時も、ジェーンは誰かと一緒に着替える事は無いな。俺が知ってる情報だが。まあいいじゃ無いか、この愛情狂はお前に懐いているんだ。お前が確かめて差し上げろ。な!な!ケイト、俺らはもう……!」
と、クラースさんが立ち上がり、瓶と椅子を持った。ケイト先生やリンも、立ち上がって、ニヤニヤしている。
「そ、そうね。私はクラースと一緒に……操縦室で寝るわ。リン、あなたもこっちにいらっしゃいよ。ほら、キリーが、ね?」
「そ、そうですわね!ケイト先生!私もそちらで寝ますわ!」
リン、わざとらしい……。ああ、気を遣わせてしまった。いやいやいや。私が悶えている間に、彼らはそそくさと椅子やクーラーボックスを回収して、操縦室に入っていってしまった。
私は、椅子と瓶を持ったまま、何も視界に入れないようにして、急いで休憩室に行った。二段ベッドがある部屋だ。その部屋に入り、ジュースを飲み干して、椅子と空の瓶を床に置いて、一段目はジェーンが使いたいだろうから、二段目のベッドに上がった。すぐにジェーンも部屋に入ってきて、椅子と瓶を置いた、音がした。
「キルディア、もう寝ますか?私はまだ、先程のゲームが楽しかったものですから。」
「うん楽しかったね。もう寝る……。」
「キルディア、」
「何?」
「私のシースルー、見たいですか?」
「おやすみなさい。」
私は布団の中に潜った。想像するのだって、恥ずかしくて出来た事じゃ無い。大体それをどこで手に入れたんだ?ちょっと気になった。
「ねえジェーン、それをどこで手に入れたの?」
「……あなたが入院中、私が買いに行きました。ピンクの照明、如何わしいお店で。」
「なんて場所に行ってるの……。」
「サイトに書いてあったのです。普段からセクシーな下着を付けていれば、ロマンチックな言葉が自然に出ると。魅惑的な雰囲気になるには、そうさせる何かをそばに置いておくべきだと。私は、それを、守っただけなのです……。」
なるほど。なるほどね。彼は私と同様、あまり恋愛経験が無いから、迷っていたんだ。
「キルディア、私が変態だと思いますか?」
「思わないよ、だって、純粋にそうしたんでしょ?」
「はい、その通りです。私は純粋な人間ですからね。」
そうとまでは言っていない。私はちょっとにやけて、目を閉じた。少ししてから、布団が浮いた。振り返ると、彼が布団に入ってきていたので驚いた。
「ちょっと、二段目は寝ている気がしないって言ってたのに。」
「では、あなたが下に来てください。一緒に眠りたい。それとも二段目でこのまま寝ることにして、重さで二段目が潰れて、一緒にクラースに叱られましょうか?」
「分かったってば、分かった。」
私達は一段目に降りて、一緒の布団に入った。皆に、色んなことを知られたなあ。そんなことを思いながら、私を抱きしめている彼の腕を、私も抱きしめた。




